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三都幻妖夜話(3)神戸編 22-8 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
22-8 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
349 / 928
22-8 トオル
蔦子
(
つたこ
)
さんは、アキちゃんのおとんの
戦死
(
せんし
)
を
予知
(
よち
)
した。 それを変えたいと思った。でも、変えられへんかった。
暁彦
(
あきひこ
)
様は、気にするなと
許嫁
(
いいなずけ
)
を
励
(
はげ
)
まして、再び帰らぬ
航海
(
こうかい
)
に旅立っていったわけや。 その時に、俺も戦う、お前も戦えと、
蔦子
(
つたこ
)
さんを
励
(
はげ
)
ましていった。 それは、自分の持ってる力で、お前もこの島国の、
三都
(
さんと
)
の人らを守ってやれという、そういう意味やで。
蔦子
(
つたこ
)
さんはそれで、
頑張
(
がんば
)
ったらしい。 でかい
新型爆弾
(
しんがたばくだん
)
が、日本に落とされるのを
予知
(
よち
)
した。どえらい
悪魔
(
あくま
)
みたいな新兵器やった。
空襲
(
くうしゅう
)
も、バカスカあったしな。
蔦子
(
つたこ
)
さんはそういうのんが、京都に落ちるのを
予知
(
よち
)
して、その未来をねじ曲げた。 結果、よそが燃えた。結局、誰かが死ぬことには変わりないんや。 未来に手出せへんかったら、
蔦子
(
つたこ
)
さんにとって、それは悲しくても、自分には責任のない
厄災
(
やくさい
)
やった。
敵
(
てき
)
の攻撃や。自分のせいではないわ。 そやのに未来の行く先を変え、飛んでくる
爆弾
(
ばくだん
)
の攻撃目標を自分が
逸
(
そ
)
らしたんやから、
蔦子
(
つたこ
)
さんの
自責
(
じせき
)
の
念
(
ねん
)
は深い。 その
厄災
(
やくさい
)
がどんなもんやったか、皆も知っているかもしれへんけども、
蔦子
(
つたこ
)
さんはそれが実現する前から知っていた。 人を逃がさなあかんて、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
偉
(
えら
)
いおっちゃんらに
掛
(
か
)
け
合
(
お
)
うたけど、
鬼道
(
きどう
)
の
小娘
(
こむすめ
)
が何言うとんねんて、相手にしてもらわれへんかったんやって。
大和魂
(
やまとだましい
)
があれば、
爆弾
(
ばくだん
)
なんか
避
(
よ
)
けていく。そういう
信仰
(
しんこう
)
が、当時はあったんや。 しかし残念ながらこの時は、
大和魂
(
やまとだましい
)
だけやと、あかんかったな。 その後、
予知
(
よち
)
した
悲惨
(
ひさん
)
な現実が、ほんまに現実になるのを
眺
(
なが
)
め、
蔦子
(
つたこ
)
さんはくたびれた。未来なんか
視
(
み
)
たくないって、まあ思うわな。 そこに、
暁彦
(
あきひこ
)
様
戦死
(
せんし
)
の
報
(
ほう
)
もあり、すっかりへこたれてもうたんやって。 がっくり来すぎて、三年
寝太郎
(
ねたろう
)
。それを、アキちゃんのおかんが
看病
(
かんびょう
)
してやったらしい。自分の血をやって、
従妹
(
いとこ
)
の姉ちゃん
養
(
やしな
)
ってやった。 だからあの二人は、
親友
(
しんゆう
)
らしいで。
恋敵
(
こいがたき
)
やけど、
蔦子
(
つたこ
)
さんにはおかんは命の
恩人
(
おんじん
)
で、
可愛
(
かわい
)
い
幼馴染
(
おさななじ
)
みでもある。 おかんはお兄ちゃん好きやったけど、その
許嫁
(
いいなずけ
)
やった
蔦子
(
つたこ
)
さんのことも好きやった。
優
(
やさ
)
しい
従妹
(
いとこ
)
のお姉ちゃんやった。そやから助けたんや。 それに深い意味はない。子供のころから一緒に遊んだ、ありきたりの
絆
(
きずな
)
があるだけで。 しかし
蔦子
(
つたこ
)
さんはそれを
恩
(
おん
)
に着ている。今さらもう、アキちゃんのおとんに手を出そうとは思うてへんわ。 今でも好きは好きなんやろうけど、あれは
登与
(
とよ
)
ちゃんのもんやと思うてる。 せやから自分には、違う未来を選択した。アキちゃんのお
嫁
(
よめ
)
さんになる未来を捨てて、もっと別の、また違う幸せを探そうとした。 幸せに
至
(
いた
)
る道は、ひとつではない。未来にはいくつもの可能性がある。
諦
(
あきら
)
めたら負けやって、気の弱い逃げ
腰
(
ごし
)
なりに、歯を食いしばって
頑張
(
がんば
)
ってはったんやろな。あの人にはあの人の、プライドがあるわ。 自分も
秋津家
(
あきつけ
)
の
巫女
(
みこ
)
として、
成
(
な
)
すべき事を
成
(
な
)
す。
惨
(
みじ
)
めな負け犬にはならへんでって、幸せ探して生きてきたんやろ。 「
蔦子
(
つたこ
)
は不幸を
視
(
み
)
る
傾向
(
けいこう
)
がある。
破滅
(
はめつ
)
と
幸運
(
こううん
)
と、ふたつの道がある時に、なぜか
破滅
(
はめつ
)
を引き寄せる
相
(
そう
)
の女や。それはもう、仕方のないことや。
天性
(
てんせい
)
のもんやからな」
信太
(
しんた
)
を見上げて、
水煙
(
すいえん
)
は
真顔
(
まがお
)
で話した。 どことなく鳥さんに似たとこもある
面差
(
おもざ
)
しやけど、実は全然似ていない。ほわぁん、みたいな所が全くと言っていいほどに無い。
厳
(
きび
)
しい暗い目や。
底知
(
そこし
)
れぬ
闇
(
やみ
)
を見つめてるような。 「
蔦子
(
つたこ
)
にとって
最良
(
さいりょう
)
の選択は、自分の力を使わないことやろう。不幸な未来を引き寄せて
視
(
み
)
るくらいやったら、いっそ
盲目
(
もうもく
)
でいるほうがいい。誰か他のが、もっとマシな未来を
視
(
み
)
るかもしれへんのやからな。何を
視
(
み
)
ようが押し
黙
(
だま
)
り、自分の中に
抱
(
かか
)
えた
秘密
(
ひみつ
)
にしておくほうがええわ」 「
蔦子
(
つたこ
)
さんは、俺が
鯰
(
なまず
)
に食われる未来を
視
(
み
)
たと言うてた」
信太
(
しんた
)
はにこりともしない
真顔
(
まがお
)
で答え、
水煙
(
すいえん
)
に話してた。 「その未来は、どうあっても
視
(
み
)
えるらしい。十年前から
視
(
み
)
えてるけども、前にはそれを
拒
(
こば
)
んだ。それでもまだ
視
(
み
)
える。きっと
避
(
さ
)
けがたい
運命
(
うんめい
)
なんやろうと」 それは、
覚悟
(
かくご
)
を決めて見つめてるような目ではあったけど、暗くはあった。 そらそうやろう。死にたくはないわ。
可愛
(
かわい
)
い
不死鳥
(
ふしちょう
)
かて、やっと
変転
(
へんてん
)
したばかり。まだまだ
雛
(
ひな
)
やって心配やろうし、なにより一度
掴
(
つか
)
んだ幸せを、あっさり手放せる
奴
(
やつ
)
はおらへん。 「未来はまだ確定していない。うちの
坊
(
ぼん
)
はお前やのうて、
朧
(
おぼろ
)
を
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
に出すつもりでおるわ」 「
怜司
(
れいじ
)
を?」 どこか
気味
(
きみ
)
良さそうに言う
水煙
(
すいえん
)
の話に、
信太
(
しんた
)
は初めて顔をしかめた。 「なんでそんなことになっとうのや。そんな話、俺は聞いてない。
蔦子
(
つたこ
)
さんはなんも言うてへんかった」 「
蔦子
(
つたこ
)
はまだ知らんのやろう。
予知者
(
よちしゃ
)
でも未来を全て知っているわけやない」 「なんで
怜司
(
れいじ
)
が
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
なんて。そんなこと
承知
(
しょうち
)
するような
奴
(
やつ
)
やない」
拒
(
こば
)
む
口調
(
くちょう
)
で
訊
(
たず
)
ね、
信太
(
しんた
)
はイライラすんのか、
訳
(
わけ
)
もなく部屋のあちこちを
睨
(
にら
)
むような目で見た。 それが何や、
檻
(
おり
)
の中でうろうろしてる、
囚
(
とら
)
われた
虎
(
とら
)
みたいやった。
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椎堂かおる
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