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22-10 トオル

 世にも(めずら)しい朝寝坊(あさねぼう)のアキちゃんは、(とら)にシバかれて、うううん、て、いかにも眠そうに(うめ)いてた。 「先生。起きてくださいったら。怜司(れいじ)とやったんか。(たら)()んで()(にえ)にするなんて、やめといてください。あいつは待ってるんや。暁彦(あきひこ)様が帰ってくんのを」  寝てるアキちゃんの耳に、信太(しんた)遠慮(えんりょ)なく、そのセンチメンタルな話をしていた。  アキちゃんはそれに、うんうん(うな)ってた。それでも起きへんなんて。こんな寝起(ねお)きの悪い男やとは知らんかった。 「先生が暁彦(あきひこ)様に()とうから、妥協(だきょう)しそうになっとうだけなんや。先生がモテてる(わけ)やないんです。勘違(かんちが)いしたらあかんのですよ」  信太(しんた)はめっちゃ(ひど)いことを平気で言うてた。  そうか。アキちゃんまた、おとんの身代(みが)わりモテか。格好(かっこう)ええもんなあ、おとん。俺も思いだしただけで、何やモジモジしてくるわ。 「妥協(だきょう)したらあかんねん。せっかく生き()びてんのやから。あいつも幸せにならなあかんのです、先生。どうせ抱くんやったら幸せにしてやってください。聞いてんのか先生?」  アキちゃんは信太(しんた)両肩(りょうかた)(つか)まれて、ゆっさゆさ()さぶられていた。()うんやないかと思うぐらいやった。なんせ船酔(ふなよ)いする子やからな。  さすがにその(さわ)ぎには、フテ()瑞希(みずき)ちゃんもお目覚めになっていた。起きたら(とら)がアキちゃん(おそ)ってて、ビビったみたいやった。  それでも信太(しんた)害意(がいい)がないのは分かるんか、(けわ)しい顔はしたものの、ただ(にら)むだけで、ベッドに半身(はんしん)を起こした格好(かっこう)のまま、軽く唖然(あぜん)としているだけや。  (とら)はふと気づいたように、布団(ふとん)から(はだか)の上半身出てる美少年をじっと見た。 「あれ。なに。先生。乱交(らんこう)()けです?」  それが普通みたいに言うなやで、信太(しんた)。そんなん、うちではせえへんのやで。少なくとも、一昨日(おととい)まではな。 「ほんなら、なおさら一緒(いっしょ)やないか。この(さい)、一人増えようが二人増えようが同じですよ。先生んとこで()うてやってください。あいつ()(まま)は言わん(やつ)やしな、見かけよりずっと、ええ(やつ)なんです。(やさ)しいで。フェラ上手(うま)いしな。イクとき可愛(かわい)かったやろ?」  何の話してんのや信太(しんた)(いきお)(あま)って、えっらい話になってるで。瑞希(みずき)ちゃん、わなわな来てるで。俺も若干(じゃっかん)来てるけどやな、今はむしろ、犬がぶっ殺すモード入ったらどっちに加勢(かせい)しようかなって、決めかねていて、それどころではない。 「先生、俺があいつの性感帯(せいかんたい)教えてやるから、幸せにしてやって」  信太(しんた)はどうも真剣(しんけん)に言うてるらしい。  アキちゃんはそれに、うわあって言うてた。やっと気がついたらしい。誰に乗っかられているか。  それで、めちゃめちゃ逃げていた。目()めたら(とら)が乗ってた。それだけやない(おどろ)き方やった。まるで今から(おか)されるみたいな逃げ方や。 「あれ……先生。もしかして、下やったですか? ()()まれちゃった?」  聞き()てならへん話やった。瑞希(みずき)ちゃん、可哀想(かわいそう)にな、ドン引きしてるわ。声もなく、(けわ)しい(おどろ)いた顔になっていた。  俺はもう、(おどろ)こうという気がせえへんかった。水煙(すいえん)は、聞いてないふりしてた。(なさ)けないんか、泣いてるようなため息やった。 「()()まれてへん! なんの話や!」  なんの話か分かってるっぽいのに、アキちゃんはとぼけてた。  そして、ベッドのヘッドボードに背がつくくらい、(とら)から逃げてた。  よかったなあ、全裸(ぜんら)やのうて。(はだか)やったら、(とら)にオールヌード見られてた。でも、服着たままやったんや。()()もなく寝てもうてたから。 「そうやろなあ。あいつ、暁彦(あきひこ)様には()()んでへんらしいから。あいつは下のほうが可愛(かわい)いですよね。俺はそういう趣味(しゅみ)なんやけど。まあどっちでもええんやけどな、それは先生んとこの趣向(しゅこう)しだいで……ここの面子(めんつ)からして、先生ひとりやと大変やろから、あいつは上でもええやろうけど」 「何の話してんのや! 何でお前がここに()るねん!?」  アキちゃんめっちゃ絶叫(ぜっきょう)してたわ。めくるめく何かが頭をよぎったんかな? 「水煙(すいえん)()りにきたんです」 「()さへん! なんでお前に()さなあかんねん!」 「先生、テンパってません? 竜太郎(りゅうたろう)()すんやで。ほら、予知(よち)介助(かいじょ)に……」  (とら)に言われてアキちゃんは、やっと(われ)(かえ)ってきたらしかった。  ええと何やったっけみたいな目で、きょろきょろ不安そうにシーツの上を視線(しせん)()めて、それから俺と水煙(すいえん)(なが)め、くらくらしたような二日酔(ふつかよ)いの顔になり、また(とら)を見た。 「予知(よち)」 「そうや。竜太郎(りゅうたろう)がまた()りたいそうです。俺は(つか)いです。心配せんでも水煙(すいえん)は俺のタイプやないから。どっちか言うたら(とおる)ちゃんのほうが?」  そうなんや。ありがとう(とら)。俺に一票(いっぴょう)入れてくれて。  仲良(なかよ)うしよか。今、お前でもええからやりたいわ。お(なか)ぺっこぺこやから。 「()さへん!!」  アキちゃんはますます、玩具(おもちゃ)せしめる駄々(だだ)っ子みたいに、必死で言うてた。  やっぱりそうやんな。アキちゃんは、自分のもんやと思うてる(やつ)を、他のに(さわ)らせとうないねん。水煙(すいえん)も、俺も、勝呂(すぐろ)瑞希(みずき)も、もしかしたら新しいラジオもそうや。俺のもんやと思うたら、誰にも()さへん。

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