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22-13 トオル

 そうやろ。(とおる)ちゃん、アキちゃんのこと、めちゃめちゃ()やしてやってるよ。  それに言わせてもらえばやな、アキちゃんの()(まま)かて、めっちゃ(ゆる)してやってるよ。浮気(うわき)したら、怒るけど、でも結局は(ゆる)してやってるやないか?  それで気楽(きらく)やなかったら、どんなんが気楽(きらく)やねん。いくらボンボンや言うたかて、アキちゃん()(まま)にも(ほど)がある。 「(いや)(けい)かなあ? 絶叫系(ぜっきょうけい)やのうて?」  俺はテーマパークのアトラクションか。でも信太(しんた)真面目(まじめ)に言うてた。 「うちで(へび)なって(あば)れたときの(とおる)ちゃん、最高にホラー(けい)やったで。ちょっとキスしたくらいでな、どこに相方(あいかた)ぶっ殺す(いや)(けい)がおるねん?」  そんなこと、ありましたっけねえ?  俺、自分に都合(つごう)の悪いことは、さっさと(わす)れる主義(しゅぎ)やから。(おぼ)えてへんなあ。  確か、まだ天使(てんし)やった(ころ)勝呂(すぐろ)瑞希(みずき)と、アキちゃんがこっそりキスしかけてたという話を聞いて、ブチキレてもうてん。  ほんで変転(へんてん)して(あば)れてん。アキちゃんぶっ殺すモードやってん。  でもな、しゃあない。だって、ムカついたんだもん。えへっ。 「怜司(れいじ)はそんなん怒らへんで。俺が寛太(かんた)好きやて言うたときにも、ええ子やなあて言うてただけや。そんな浮気(うわき)が本気になってもうたんや。面目(めんもく)次第(しだい)もございませんけども、それでも、怒られへんかった。幸せなってよかったなあて言われただけやで。軽い軽い……まるで何事(なにごと)もなかったようや」  そんなん愛やない。お前は愛されてへんかったんや。それが結論(けつろん)信太(しんた)。 「あいつは俺を、好きやなかったんかな。どうでもええわって思われてたんかもしれへん。でも、なんでそんな(やつ)が、代わりに死んでくれんの?」 「よっぽどアキちゃんに(ほだ)されたんやろ。(たら)()まれて前後不覚(ぜんごふかく)や」  水煙(すいえん)は、つんと()まして、いかにもそれが当然のように言うてた。どんだけジュニアが好きやねん。  (とら)はそれを聞いて、にやにや笑っていたわ。 「それはない。あいつに限って」  何をそんな自信を持って言うてんのや信太(しんた)。 「あいつは俺に()れてたはずや。代わりに死んでやってもええわという程度(ていど)には。まあな。暁彦(あきひこ)様の後追(あとお)自殺(じさつ)にちょうどええ口実(こうじつ)なんかもしれへんけども、そんなんさせへん。それが(いや)やと思う程度(ていど)には、俺も()れてたんやで、(とおる)ちゃん。()(こう)から否定(ひてい)せえへんと、お前らちょっと怜司(れいじ)に学んでみたら? (いや)しの極意(ごくい)みたいなのを」  そんなもんが、あのラジオにあると思われへん。  ていうか信太(しんた)。てめえは何を惚気(のろけ)とんのや。(ゆる)せへん。 「寛太(かんた)好きやはどないなってん、(とら)」  俺は、お前を見下(みさ)()てたというニュアンスを眼力(がんりき)()めて、信太(しんた)をジトッと見つめてやった。  それを信太(しんた)は、なんでかちょっと可愛(かわい)いというように、細めた目で()り返って見た。  鳥さん見るような、ドロッドロに溶けた熱いバターではないけども、やや溶けてる。常温放置で三時間後くらいか。 「好きやで、寛太(かんた)。あいつは俺の理想(りそう)にめちゃめちゃ近い。ほぼ完璧(かんぺき)や。でも気がついてみたらな、怜司(れいじ)がこんなんやったらええのにっていう、そんなご都合(つごう)のいい改造(かいぞう)モンみたいな感じやわ。そんなモンにハマってもうて、()ずかしいけども、俺には運命的(うんめいてき)相手(あいて)やと思うてる。あいつは俺の不死鳥(ふしちょう)で、そんな寛太(かんた)夢中(むちゅう)になられへんかったら、俺の相手はどこを探しても見つからんやろ。感謝(かんしゃ)してるで、(とおる)ちゃん」  ほな(ひざまず)け。ひれ()して感謝(かんしゃ)せえ(とら)。  ふん。別にええけど。どうせ俺は恋のキューピッドさんや。他人ばっかし幸せにしてやって、自分はツレに浮気(うわき)されまくり。それでも皆さんがお幸せなんやったら俺も幸せです。そんな犠牲的(ぎせいてき)精神に(あふ)れた、じつに()(がた)(へび)なんです。  って、そんなわけあるかい。むかつくわ!  なんやねんラジオ。モテモテか。(とら)にもモテモテか。そのうえアキちゃんまで食らうのか。  どんな妖怪(ようかい)や! きっと悪魔(サタン)(ちが)いない。神楽(かぐら)(よう)退治(たいじ)させよう。それか絶対、(なまず)に食わせよう。  あいつしかありえへんやないか。信太(しんた)が死ぬのは論外(ろんがい)やないか。  今ちょっと俺は、お前も()ってよしと(とら)が憎いが、それでも寛太(かんた)可哀想(かわいそう)やからな。ほんまに死ねとは思うてない。ラジオが()けばよし。 「言うといて。本間(ほんま)先生に。怜司(れいじ)殺したら、(とら)が永遠に(うら)むって。力ずくでも俺が()(にえ)行くから」 「死ぬ気まんまんやな(とら)」  ほんまに(あき)()てて、俺は(とら)を見た。それに信太(しんた)は笑っていた。 「まんまんやで。もう覚悟(かくご)は決めてある。ほんまはな、(とおる)ちゃん。それは十年前にもう起きてるはずのことやったんや。前の地震の時にな。それとも……もっともっと前に、俺は死んどかんとあかん(とら)やったんかもしれへんわ。城を守護(しゅご)する霊獣(れいじゅう)やったしな。それに、(たみ)守護(しゅご)する霊獣(れいじゅう)でもあった。守って死んでりゃ、遠いあの世に()ってもうても、今もどこかで有り難く、神様やって、御霊(みたま)(おが)んでもらってたやろう」 「今も神やん、お前。虎虎(とらとら)タイガースの」  熱気(ねっき)みなぎる甲子園(こうしえん)球場(きゅうじょう)の、あたかも神殿(しんでん)のような霊気(れいき)を思い返しつつ、俺は教えてやった。

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