356 / 928
22-15 トオル
お前はイケてる。虎 、イケてる。ものすご格好 いい。抱かれたいリスト上位ランクイン。それは俺だけか。そうでもないか? 皆 はどんな感じ?
俺的には、そうやなあ。今の気持ちで、抱かれたいリストは上から順 に、アキちゃん、藤堂 さん、ジョン・ローン、虎 、ぐらいやな。四位か。微妙やな。俺がジョン・ローンのこと思い出してへんかったら三位やったのになぁ、惜 しい。
本人には言わんといたろ。自信なくすやろから。ええねん別に、鳥さんにとっては永久不滅 の、抱かれたいリストのダントツ首位 やねんから。ぶっちぎりですよ、ほんまに。
ええんですよ、ラブラブしてくれる相手なんて、一人居 ったら充分 なんです。いっぱい居 ったらアキちゃんみたいになるんです。悪い男に!
信太 は、ほなまたなー、と、軽い調子で水煙 連れて出ていった。
アキちゃんが風呂 から出てきたのは、それとほとんどすれ違いみたいやった。
水煙 、居 らんようになっちゃったって、アキちゃんはちょっと探すような切 ない目をしてた。俺はそれに、もちろん、イラッと来てた。俺もいますが気づいていますか、アキちゃん。
「飯 食って、街 行こか」
それはたぶん俺に言うてくれてるんですよね。そう思うのは俺の自意識過剰 ですか。
いや。そうではなく。アキちゃんは俺に訊 いてた。
「街 行って何すんのん」
俺、寂 しいんですけど。アキちゃん、朝チュー忘れてへんか。
そんなニュアンスを眼力 にこめて、俺はジトッと横目 にアキちゃんを見てやった。でも、この男は鈍 い。そんなん、耳クソほども気がついてへん。
「瑞希 に首輪買 うてやろうと思って。それに、服も。水煙 も着替 えがいるし」
俺は?
「お前も暇 やったら来るか?」
ついで?
アキちゃんの、心の抱きたいリスト、今の気持ちで言うと、水煙 、瑞希 ちゃん、そして俺? 三位?
微妙 ……。
ラジオか鳥さんか神楽 遥 居 ったら四位やったんちゃうか。まさかな。まさか、それはないよな、アキちゃん。俺がダントツ首位 なんやろ、アキちゃんにとって。
そうやって言うてくれ!
そうでないなら、俺は死ぬ。負けたくないねん、誰にも。そのリストではいつも、二位以下をはるかに引き離 した、ダントツ首位 でいたいねん、俺は。
二位以下が、居 ってもええよ。それはもう、仕方ない。俺にも居 るしな。というか、俺のそのリスト、たぶん余裕 で地球を七回り半ぐらいできるニョロニョロさやし。そっと心に仕舞 っておくのにも、若干 場所とりすぎてるような長さや。
アキちゃんのこと、とやかく言われへん。たぶんまだアキちゃんのは、手で持っても足に届 かへん程度 の可愛 い長さなんやろうからな。
でも。でもな、重要なのは、そこに書いてある名前の順位 や。お前の愛 しい蛇 が一位でないなら、許 せへんのやで。
「連 れて行きとうないんやったら、誘 わんといて……」
俺は必死でそう訊 いた。そんなことない、お前が居 らんと俺は死ぬって、アキちゃんが返事するのを期待 しつつ。ちょっとばかし、祈 るような気持ちで。
「連れて行きたくない訳やないけど。でも、お前は何も用事ないやろ。来たくなかったら、無理に付き合わせんのも、どうかなあと思って」
遠慮 したように、アキちゃん言うてた。
どうも、俺が怒ってると思うてるらしい。ビビってる。
俺はその顔を見て、ピンと来た。酔 うてへんかったんや。昨日も、ラジオと一発やったこと、憶 えてんのや。俺を口説 いた時のことは、全然憶 えてへんくせに、ラジオ口説 いた時のことは、憶 えてる。それで後ろめたいんや。
「そうか……アキちゃん。ほんなら俺は行かんわ。犬連れて行け。俺はお前のペットと違うしな、うろうろ後付いて歩いたりせえへんねん」
うわっ。何言うてんのや俺は。言うてもうてから、自分の声が、めっちゃ恨 んでるようなのに驚 いた。
アキちゃんはそんな俺を、困 ったように悲しそうに見て、タオルでごそごそ髪拭 きながら言うた。
「ごめんな……」
「ごめんで済 むか……」
ごめんで済 む済 む! アキちゃん愛してる! 素直 になれ俺。
昨夜 、どんだけ必死で探したか。
水煙 が、アキちゃん中々 帰って来えへんかったんで、まさか神隠 しではと心配していた。俺がアキちゃんはもしかすると、ラジオ狙 いやないやろかと話したせいやった。そんなことをメリケンパークで、アキちゃんの耳に吹 き込んでもうたのは俺やしな。
ラジオは昔、アキちゃんのおとんと何やかんやあったらしい。式 の一人や。そらまあ、何かあるやろ。
せやけど奴 は、ただ時々抱いてもらえるローテーション組やのうて、アキちゃんのおとんがストレス発狂 したときに、シケ込 んで逃げ隠 れする隠 れ家 みたいな相手やったらしい。
アキちゃんのおとんも、大概 悪い子やったんやわ。
何か耐 え難 いことがあると、ふらっと消える。さすが覡 やというべきか。誰にも気づかれずに、ふわあーっ、と消えられるらしい。水煙 ですら、気づかんかったらしい。とにかく居 らんという事になって、皆、必死で探す。それでもどこにも居 らんらしいねん。
ともだちにシェアしよう!