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三都幻妖夜話(3)神戸編 22-20 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
22-20 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
361 / 928
22-20 トオル
一分
(
いちぶ
)
の
隙
(
すき
)
なくダンディやったのに。なんでそんな、やんわりアホみたいになってもうたん、
藤堂
(
とうどう
)
さん。
遥
(
よう
)
ちゃんのせいか。それとも俺のアホな血が、あんたを
毒
(
どく
)
してもうたんか。 「
気配
(
けはい
)
がせえへんねん、お前は。もっと足音する
靴
(
くつ
)
を
履
(
は
)
け」 俺の足もとを見て、
藤堂
(
とうどう
)
さんは
咎
(
とが
)
めるような目をした。スニーカー
履
(
は
)
いてたからやと思う。
藤堂
(
とうどう
)
さんの
美学
(
びがく
)
では、俺は
革靴
(
かわぐつ
)
。そして
絹
(
きぬ
)
シャツ。
間違
(
まちが
)
ってもユニクロの休日フリースとか着てたらあかん。それは
罪
(
つみ
)
やから。だらだらする時でも、
綺麗
(
きれい
)
系
(
けい
)
美青年は
絹
(
きぬ
)
を着ろというのが、おっちゃんの世界観やねん。 でもさ、
絹
(
きぬ
)
ええけど。
肌触
(
はだざわ
)
りええねんけど。
汗
(
あせ
)
かいた時、
嫌
(
いや
)
やない? 家で
洗濯
(
せんたく
)
でけへんしさ。うっかり
乾燥機
(
かんそうき
)
かけてもうたら、えっらいことなるねんで。 いちいちクリーニング出すの
面倒
(
めんどう
)
くせえしさ。ホテル
居
(
お
)
る時はええよ、いつでも専門家が
居
(
お
)
ってクリーニングしてくれるから。でも
出町
(
でまち
)
の家ではさ、自分で
洗濯
(
せんたく
)
するか、店持っていって洗ってもらうかやんか。
面倒
(
めんどう
)
くさいねん、
絹
(
きぬ
)
なんて。 俺はもともと、着るモンなんて大して
興味
(
きょうみ
)
ないほうやねん。
裸
(
はだか
)
でもええくらいやからさ。服は
下僕
(
げぼく
)
が
貢
(
みつ
)
いで着せるモンなんやんか。
神官
(
しんかん
)
どもが。 今も結局アキちゃんが選んでるようなもんやんか。俺は
突
(
つ
)
き
詰
(
つ
)
めれば何でもええわってなるけど、あいつは、
亨
(
とおる
)
にはこれはあかん、あれはあかんていう、
拒絶
(
きょぜつ
)
反応
(
はんのう
)
があるからさ。アロハも
嫌
(
いや
)
なんやんか?
藤堂
(
とうどう
)
さんも、
嫌
(
いや
)
なんやろな。赤い
蝶々
(
ちょうちょ
)
さんのアロハ。それに、グレーの
錦蛇
(
パイソン
)
のパンツ。そして
靴
(
くつ
)
は
適当
(
てきとう
)
にはいた白いスニーカーやし。 なんちゅう服をお前は着てんのや、って、そういう目で俺を見てるんやんな? 「なんちゅう服をお前は着てんのや……」 思ったとおりのことを、
藤堂
(
とうどう
)
さんは俺にぼやいた。 俺は思わず、目がしょぼしょぼした。あんたにそれを言われるために着たんやないねん。アキちゃんへの、あてつけやってんけど。あいつ気がついてたか。 たぶん気づいてなかったで。あいつに
爆弾
(
ばくだん
)
投げつけてやるつもりが、うっかり
自爆
(
じばく
)
のためのネタになってもうてるやんか? 「ほっといて……
諸事情
(
しょじじょう
)
あるねん……」 「
本間
(
ほんま
)
先生、元気出てたか、
白蛇
(
しろへび
)
ちゃん?」 気まずいという言葉はお前の
辞書
(
じしょ
)
にはないんか。
朧
(
おぼろ
)
は
遠慮
(
えんりょ
)
無く
嘴
(
くちばし
)
挟
(
はさ
)
んできて、悲しく
藤堂
(
とうどう
)
さんと話している俺の話の
腰
(
こし
)
を、ぼきっと
折
(
お
)
ってくれた。 俺に話しかけないでくれる?
雀
(
すずめ
)
ちゃん。焼いてバリバリ食うてまうわよ? 俺はそういう目で見てやったけど、
湊川
(
みなとがわ
)
は平気なもんやった。機材に
肘
(
ひじ
)
ついて、
頬
(
ほほ
)
を
支
(
ささ
)
え、眠そうな睡眠不足の青白い顔で、にっこにこ俺を見てた。 そうしてると確かにちょっと、
寛太
(
かんた
)
に
似
(
に
)
てた。鳥さんに。 「先生なあ、
相当
(
そうとう
)
キてたで。あんまり
虐
(
いじ
)
めんといてやったら?
折
(
お
)
れてしまうで。
寄
(
よ
)
って
集
(
たか
)
って、あんまり追いつめたら」 「
貴重
(
きちょう
)
なご意見、ありがとうございます……」 俺は
呆然
(
ぼうぜん
)
と
殺意
(
さつい
)
をこらえ、
雀
(
すずめ
)
にそう言うといた。 いや。ほら。
藤堂
(
とうどう
)
さん
居
(
い
)
てるしね。うるせえ何言うとんねんワレ、どの
面
(
つら
)
提
(
さ
)
げて俺にもの言うとんじゃボケエ、とか言われへんやん?
亨
(
とおる
)
ちゃん、お
品
(
ひん
)
が悪いて思われたないから、このオッサンには。お
上品
(
じょうひん
)
にいきたいねんから。 「
仲良
(
なかよ
)
うしてなあ、
亨
(
とおる
)
ちゃん。短い間やけど、一応、仲間やねんから」 にっこりして、
朧
(
おぼろ
)
は俺にそう
挨拶
(
あいさつ
)
した。 仲間! よう言うわ。お前なんか、仲間やないから。アキちゃん好きすぎるチームのメンバーはもう、俺と
水煙
(
すいえん
)
と犬の、三人だけでも
超満員
(
ちょうまんいん
)
やから。 すらりと
品
(
ひん
)
のいい体に
纏
(
まと
)
う、
砂色
(
すないろ
)
のパンツのヒップポケットから、
煙草
(
たばこ
)
出してる
朧
(
おぼろ
)
の手を見て、そこに指輪がないことに、俺は気がついた。指輪の
跡
(
あと
)
は残っていたけど、
信太
(
しんた
)
がくれてやったという、銀の
髑髏
(
どくろ
)
はなくなっていた。
捨
(
す
)
てたん。指輪。
信太
(
しんた
)
のこと、もう、どうでもええのか。 あいつ、お前のこと好きらしいで。今でもちょっと好きらしい。
未練
(
みれん
)
たらたら、あるらしい。 どうせやったら、あっち
口説
(
くど
)
いてくれればええのに。アキちゃんとか、
藤堂
(
とうどう
)
さんとか、俺の
縄張
(
なわば
)
りにいる男に、つまみ食い
感覚
(
かんかく
)
で手出すの、やめといてくれへんか。俺にとっては遊びやないねん。 「なんの話?」 わからんという顔で、
藤堂
(
とうどう
)
さんは顔をしかめ、俺でなく
朧
(
おぼろ
)
に目を向けた。
煙草
(
たばこ
)
の先を銀のライターで、ゆっくり
炙
(
あぶ
)
りつつ、
朧
(
おぼろ
)
は皮肉に笑っていた。 その
火種
(
ひだね
)
は、ずいぶん古いように見えるオイルライターやった。そしてその古びた銀には、
彫
(
ほ
)
られた
蜻蛉
(
とんぼ
)
が
一匹
(
いっぴき
)
、とまっていた。 なんでか俺は、それにちょっと
動揺
(
どうよう
)
した。
貰
(
もら
)
ったもんやろうか。こいつは
仲
(
なか
)
いい男に物を
強請
(
ねだ
)
るタイプらしい。 つんけんしてるようでいて、そんな甘ったるいところも
隠
(
かく
)
し持っている。 アキちゃんのおとんに、ライターくれって
強請
(
ねだ
)
ったんやないか。それは
形見
(
かたみ
)
の
品
(
しな
)
やないか。
信太
(
しんた
)
の指輪は
捨
(
す
)
てたのに、
蜻蛉
(
とんぼ
)
さんは
捨
(
す
)
ててない。それはあんまり、
虎
(
とら
)
が
不憫
(
ふびん
)
やないのか。
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椎堂かおる
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