368 / 928
22-27 トオル
アキちゃんはどう思うやろう。そういうの好きか。
今は居 らへん、自分の心の中の相方 に、そう訊 いている自分を感じて、俺は困 った苦笑 いやった。
好きも嫌いもないやろう。俺が黒いシーツで抱いてほしいって頼 んだら、アキちゃんは抱いてくれる。俺が気持ちええわって悦 べば、アキちゃんも嬉 しい。そういう男やねん。
藤堂 さんとは真逆 やな。オッサンは頑 とした美学 のある男。それに相手を押し込めようとする。鉄の処女 に押し込んで蓋 閉める。それで相手が痛いって、苦しがってようが、気がつかへん。お前はこのほうが美しい。そのほうが、俺は好きやって、そんな理由が通用 すると思うてる。
そんなふうに調教 されて、気持ちええような変態 でないと、このオッサンとは上手 く付き合 うていかれへん。
よかったなあ、遥 ちゃんみたいな変態 が見つかって。割 れ鍋 に綴 じ蓋 。価値観押しつけサド男には、洗脳されたら気持ちいい、パパが大好きなマゾ男やで。合 うてる奴 どうしくっつくのが、たぶん一番気持ちいい。
俺がアキちゃんとくっつくのが、一番気持ちいいみたいに。
しかし俺、今はほんまに藤堂 さんと、くっつこうと言うのか。なんや今さら急に、心臓ばくばくしてきた。緊張 してきた。
見慣れん、お洒落 すぎる美しい部屋。ピンスポットで照らされている暗い舞台 みたいな黒ベッド。オッサンの読書灯 やろけど、どうしても、なんか気恥 ずかしい。全部見ちゃうわよみたいな感じがして。まっ暗くせえへんのか、藤堂 さん。
俺を裸 に脱 がせつつ、藤堂 さんは自分も脱 いだ。
変やと思うやろけど、俺がこの人の裸 を見たのは、これが初めてやった。いつも脱 がへんかったんや。風呂 も一緒には入らへん。たまに泊 まる時でも、ひとりで風呂浴びて、寝るときはパジャマ着てやがんのやで。
だから俺は、ちょっとドキドキした。思わず視線そらした。けっこう、ええ体してたんやなあと思って。
それにのしかかられつつ、首筋に触 れる唇 や、体を撫 でる手を許 し、俺は素肌 の感触 に、そわそわしていた。
脱 いでることを別にしたら、このへんまでは、昔馴染 みの感覚やった。藤堂 さんが俺の体で、触 ったことない場所なんかない。どこか手慣 れたような、懐 かしい愛撫 で、俺が心地 よくなるところを、のんびり撫 でていた。
「勃 たへん男は卒業か……?」
恥 ずかしいのを紛 らわせたくて、俺は藤堂 さんに嫌 みを言うた。
藤堂 さんは不思議 そうに、ふと手を止めて、俺の顔を見たようやった。
特に返事はなかったけども、俺は藤堂 さんに手を握 られた。そしてその手に、わかりやすい答えを触 れさせられた。
ああ。単純明快 やな。勃 ってるわ。
それにちょっと、思ってたより凄 いみたいやわ。
ヤバいよう、これは。遥 ちゃん泣くわけよ。詳 しく言うたらあかんかな。まあ、ご想像にお任 せで。
アキちゃん、若干 、敗北したかな。若干 な……。ちょっとだけ。あいつもなかなか、立派 な男なんやけどな。そんな話、別にええか。うんうん、気になるな。俺も気になる。気になるなあ。
「あのさあ……一体いつから、男の抱き方なんか覚 えたん。実は元々知ってたんか? そんなことないよな……藤堂 さん」
知らんみたいやったで。前は。俺と京都のホテルで何やかんやあった頃 には。
せやから俺は、どうやってご奉仕 するか、このオッサンに教えてやらなあかんかった。アキちゃんと同じや。初物 やってん。
藤堂 さんは、画商 西森 が連れてる俺を見て、一目惚 れしてもうたらしい。不道徳 な話やなあ。男抱いたらあかんはずの、ヤハウェの僕 が、友達で仕事仲間の男が連れてる男見て、欲しいなあと思う。
藤堂 さんが俺に気があるふうなのは、俺もすぐ気がついた。西森 さんも気づいたんやないか。あの人、そういうの聡 い男で、いろいろ弁 えてるからなあ。
俺も藤堂 卓 を気に入ったらしい。ホテルのレストランで、めちゃめちゃ美味 い鉄板焼きの松坂肉 とロブスター食らった後に、もう一腹 満たすデザートとして、藤堂 卓 を食いたいらしい。西森 さんは、そう感知 したそうや。
でも、藤堂 さんがそういう趣味 のある男なやい。それどころか浮気 もせえへんお堅 い奴 やって、西森 さんは知ってたはずやで。
そやけど絶対、才能あるわ。あの人は絶対、潜在能力 あるからって、西森 さんは言うてた。亨 やったらその能力を、立派 に開花 されてやれると、思ったらしい。
余計 なお世話 やで、西森 さん。ええ人やねんけど。悪戯 小僧 みたいやねん。友達を嵌 めて、楽しいか。それで死ぬ目に遭 うたんやで、藤堂 さんも俺も。
あいつがホンマモンの悪魔 やで。あの画商 。
けど西森 さんは、ほんまに藤堂 さんの友達やったんかもしれへん。
癌 やていうのを、聞いてたらしい。そして俺に、怪我 や病気を治すような、延命 の御利益 があることも、知っていた。
もしかしたらその縁 を取り持てば、友達助かるんやないかと目論 んだんやろうなあ。
ともだちにシェアしよう!