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22-27 トオル

 アキちゃんはどう思うやろう。そういうの好きか。  今は()らへん、自分の心の中の相方(あいかた)に、そう()いている自分を感じて、俺は(こま)った苦笑(にがわら)いやった。  好きも嫌いもないやろう。俺が黒いシーツで抱いてほしいって(たの)んだら、アキちゃんは抱いてくれる。俺が気持ちええわって(よろこ)べば、アキちゃんも(うれ)しい。そういう男やねん。  藤堂(とうどう)さんとは真逆(まぎゃく)やな。オッサンは(がん)とした美学(びがく)のある男。それに相手を押し込めようとする。鉄の処女(しょじょ)に押し込んで(ふた)閉める。それで相手が痛いって、苦しがってようが、気がつかへん。お前はこのほうが美しい。そのほうが、俺は好きやって、そんな理由が通用(つうよう)すると思うてる。  そんなふうに調教(ちょうきょう)されて、気持ちええような変態(へんたい)でないと、このオッサンとは上手(うま)く付き()うていかれへん。  よかったなあ、(よう)ちゃんみたいな変態(へんたい)が見つかって。()(なべ)()(ぶた)。価値観押しつけサド男には、洗脳されたら気持ちいい、パパが大好きなマゾ男やで。()うてる(やつ)どうしくっつくのが、たぶん一番気持ちいい。  俺がアキちゃんとくっつくのが、一番気持ちいいみたいに。  しかし俺、今はほんまに藤堂(とうどう)さんと、くっつこうと言うのか。なんや今さら急に、心臓ばくばくしてきた。緊張(きんちょう)してきた。  見慣れん、お洒落(しゃれ)すぎる美しい部屋。ピンスポットで照らされている暗い舞台(ステージ)みたいな黒ベッド。オッサンの読書(とう)やろけど、どうしても、なんか気恥(きは)ずかしい。全部見ちゃうわよみたいな感じがして。まっ暗くせえへんのか、藤堂(とうどう)さん。  俺を(はだか)()がせつつ、藤堂(とうどう)さんは自分も()いだ。  変やと思うやろけど、俺がこの人の(はだか)を見たのは、これが初めてやった。いつも()がへんかったんや。風呂(ふろ)も一緒には入らへん。たまに()まる時でも、ひとりで風呂浴びて、寝るときはパジャマ着てやがんのやで。  だから俺は、ちょっとドキドキした。思わず視線そらした。けっこう、ええ体してたんやなあと思って。  それにのしかかられつつ、首筋に()れる(くちびる)や、体を()でる手を(ゆる)し、俺は素肌(すはだ)感触(かんしょく)に、そわそわしていた。  ()いでることを別にしたら、このへんまでは、昔馴染(むかしなじ)みの感覚やった。藤堂(とうどう)さんが俺の体で、(さわ)ったことない場所なんかない。どこか手慣(てな)れたような、(なつ)かしい愛撫(あいぶ)で、俺が心地(ここち)よくなるところを、のんびり()でていた。 「()たへん男は卒業か……?」  ()ずかしいのを(まぎ)らわせたくて、俺は藤堂(とうどう)さんに(いや)みを言うた。  藤堂(とうどう)さんは不思議(ふしぎ)そうに、ふと手を止めて、俺の顔を見たようやった。  特に返事はなかったけども、俺は藤堂(とうどう)さんに手を(にぎ)られた。そしてその手に、わかりやすい答えを()れさせられた。  ああ。単純明快(たんじゅんめいかい)やな。()ってるわ。  それにちょっと、思ってたより(すご)いみたいやわ。  ヤバいよう、これは。(よう)ちゃん泣くわけよ。(くわ)しく言うたらあかんかな。まあ、ご想像にお(まか)せで。  アキちゃん、若干(じゃっかん)、敗北したかな。若干(じゃっかん)な……。ちょっとだけ。あいつもなかなか、立派(りっぱ)な男なんやけどな。そんな話、別にええか。うんうん、気になるな。俺も気になる。気になるなあ。 「あのさあ……一体いつから、男の抱き方なんか(おぼ)えたん。実は元々知ってたんか? そんなことないよな……藤堂(とうどう)さん」  知らんみたいやったで。前は。俺と京都のホテルで何やかんやあった(ころ)には。  せやから俺は、どうやってご奉仕(ほうし)するか、このオッサンに教えてやらなあかんかった。アキちゃんと同じや。初物(はつもん)やってん。  藤堂(とうどう)さんは、画商(がしょう)西森(にしもり)が連れてる俺を見て、一目惚(ひとめぼ)れしてもうたらしい。不道徳(インモラル)な話やなあ。男抱いたらあかんはずの、ヤハウェの(しもべ)が、友達で仕事仲間の男が連れてる男見て、欲しいなあと思う。  藤堂(とうどう)さんが俺に気があるふうなのは、俺もすぐ気がついた。西森(にしもり)さんも気づいたんやないか。あの人、そういうの(さと)い男で、いろいろ(わきま)えてるからなあ。  俺も藤堂(とうどう)(すぐる)を気に入ったらしい。ホテルのレストランで、めちゃめちゃ美味(うま)い鉄板焼きの松坂肉(まつざかにく)とロブスター食らった後に、もう一腹(ひとはら)満たすデザートとして、藤堂(とうどう)(すぐる)を食いたいらしい。西森(にしもり)さんは、そう感知(かんち)したそうや。  でも、藤堂(とうどう)さんがそういう趣味(しゅみ)のある男なやい。それどころか浮気(うわき)もせえへんお(かた)(やつ)やって、西森(にしもり)さんは知ってたはずやで。  そやけど絶対、才能あるわ。あの人は絶対、潜在能力(せんざいのうりょく)あるからって、西森(にしもり)さんは言うてた。(とおる)やったらその能力を、立派(りっぱ)開花(かいか)されてやれると、思ったらしい。  余計(よけい)なお世話(せわ)やで、西森(にしもり)さん。ええ人やねんけど。悪戯(いたずら)小僧(こぞう)みたいやねん。友達を()めて、楽しいか。それで死ぬ目に()うたんやで、藤堂(とうどう)さんも俺も。  あいつがホンマモンの悪魔(サタン)やで。あの画商(がしょう)。  けど西森(にしもり)さんは、ほんまに藤堂(とうどう)さんの友達やったんかもしれへん。  (がん)やていうのを、聞いてたらしい。そして俺に、怪我(けが)や病気を治すような、延命(えんめい)御利益(ごりやく)があることも、知っていた。  もしかしたらその(えん)を取り持てば、友達助かるんやないかと目論(もくろ)んだんやろうなあ。

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