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22-28 トオル

 まぁ、実際助かった。死んだけど。(よみがえ)ったし。今も生きてる。外道(げどう)やけど。でも元気やで。めっちゃ元気。ものすご元気。こんなに元気でええのかなっていうぐらい元気。  どうしよう、俺、(おか)される。早くしてえ。楽しみすぎる! 今で何分経過(けいか)してんの。早うせな三十分過ぎてまうよ!  (しゃべ)ってる場合やないよ俺。いっそ自分から(またが)るくらいの気合いで行け。  頭の司令塔(しれいとう)はそう命令してんのに、俺はなんでか()ずかしそうに、藤堂(とうどう)さんに話しかけていた。 「あんた初心(うぶ)やったやん。初め。モテるけど、ケチやし抱かんて、西森(にしもり)さん言うてたし。ほんまに初めてやったんやろ、俺と最初にやったとき」  ()れながら、俺はそれでもしっかり指先で、藤堂(とうどう)さんを(あお)りはしたわ。いやあ、折角(せっかく)やし、いっぱい(さわ)っとかんと。 「ほんまに初めてやったで。そんなん普通そうやろ?」  気持ちええらしい。ため息つきつつ、藤堂(とうどう)さんは俺の質問に答えてた。  何が普通か微妙やけども。まあ、そういうもんやろか。  それでもオッサン、ほんまに男にモテてたで。西森(にしもり)さんが藤堂(とうどう)さん好きやったんも、恋愛というほどではないけど、藤堂(とうどう)さんから何かエロくさいオーラがゆんゆん出てたせいやろうし、藤堂(とうどう)支配人の放つ悩殺(のうさつ)フェロモンみたいなのに、めろめろなってるホテルマンも客も、いっぱいおった。(えら)そうな(じい)さんが、藤堂君可愛いなあて定宿(じょうやど)にしてたりもした。  でもオッサン、天然(てんねん)やから気がつかへん。若い頃からそうやったんやろ。(えら)いさんが自分を可愛(かわい)がってくれても、ええ人やなあで終了、みたいな。礼節(れいせつ)のある男やし、中元(ちゅうげん)歳暮(せいぼ)は欠かさんかったやろうけど、相手がほんまに期待してるもんには、ほんまに気がついてへんかったやろう。  それが西森(にしもり)さんには爆笑らしいで。おもろいんやって。  (えら)そうな(じじい)どもが肩すかし食う。でっかい(あめ)みたいなエメラルドの指輪した、有閑(ゆうかん)マダムがお(あず)けを食う。抱いて犯して好きにしてみたいな可愛(かわい)い従業員が、ほなさいならって飲み会の後の木屋町(きやまち)にうち捨てられていく。その、(さわ)やかに去る藤堂(とうどう)(すぐる)の後ろ姿が、いつも西森(にしもり)さんの爆笑のツボやったんや。  俺のこと、抱いてくれへんて西森(にしもり)さんに愚痴(ぐち)ったら、それにもめちゃめちゃ笑ってた。しゃあないから代わりに食うてやろうって言うて、俺の欲求(よっきゅう)不満(ふまん)の処理はしたけど、あの人、基本、藤堂(とうどう)さんが好きやったんやで。  オヤジ・ミーツ・オヤジやな。(みにく)い。オッサン同士(どうし)の恋愛未満なんて。お前らどっちも俺を虚仮(こけ)にしている。俺みたいな神のごとき美青年を間に(はさ)んで、無視するやなんて。  言うたろ。西森(にしもり)さんに会うたら。藤堂(とうどう)(すぐる)をとうとうモノにした。何かお祝いよこせって。  でもまだ、それは完遂(かんすい)されてない。まだ前戯(ぜんぎ)。 「ジョージに習ってん」  ぶっ。何言うてんの急に。  藤堂(とうどう)さんは()いてへんのに、むっちゃ正直に暴露(ばくろ)していた。  ジョージって、朝飯屋(あさめしや)のマスターやんか。あのガイジン。小説家やで。 「はじめはただ(めし)食いに行ってただけやったんやけど。ベッド行こうか(すぐる)さんて、あいつが(さそ)うもんやから、ほな行ってみようかなあ、と思って……」  行ってみるなオヤジ。それでセックスフレンドか。どんだけ解放されたんや。  アホは死なんと治らんて言うけど、いっぺん死んで治ったんか、アホが。欲しいもんは欲しいって、やっと気がついたんか。 「やったんか、ジョージと!」 「うん。やった。週一(しゅういち)くらいで、勉強会」  どんな魅惑(みわく)の勉強会や。そんなん俺がレクチャーしたかった。  おのれジョージ。ちょい(やく)分際(ぶんざい)で、なんで藤堂(とうどう)さんの初物(はつもん)もっていくんや。俺がどんだけこの人のために、ひいひい言うたり、十一階のテラスからダイブまでしたと思うとんのや。  お前、朝飯(あさめし)食わしてやってただけやないか。ポリッジ食わして初物(はつもん)食えるんやったら、俺なんか、毎朝バケツ一杯でも作ってやったわ。どんだけでも(めし)作ってやったわ! 「今までの人生、俺はなにをしてたんやろ」  藤堂(とうどう)さんはしみじみと、俺の体を()()でしつつ、そう独白(どくはく)していた。そんなに目からウロコやったんか。そんなに()かったんか、ジョージの勉強会は。 「こっちのほうが合ってると思う。気持ちいい」  こっちのほうって、男のほうが好きって意味やろな。藤堂(とうどう)さんは俺の体に指入れて、ごそごそしつつ、そう言うてた。いやあんやめて、相変わらず器用(きよう)なんやから。(とおる)ちゃん、もじもじしちゃうやんか。 「(よう)とも結構(けっこう)()うてるようやで。毎日やってる。もう病みつきや」 「むかつくわ……神楽(かぐら)(よう)」  俺がまた新しい()(もち)(あみ)に乗せていると、藤堂(とうどう)さんは声もなく、笑っていた。そして白い歯に混じる、(するど)(きば)の先を、ちらりと一瞬、口元に見せた。 「お前が俺を()ったんやで。本間(ほんま)先生が好きやと言うて」 「そうや……好きやで……」  ごそごそされんのがつらい。もう、入れて。ちょっと早いけど、待ちきれへん。時間もないしと、気になってしょうがない。 「そうやろ。あいつもそう言うてる」  首を(めぐ)らせ、藤堂(とうどう)さんは何かを指し示した。  それで初めて俺は、部屋の壁にあるでかい絵を、藤堂(とうどう)さんの肩ごしに、じっと見つめた。

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