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三都幻妖夜話(3)神戸編 22-37 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
22-37 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
378 / 928
22-37 トオル
瑞希
(
みずき
)
ちゃん、そんな家のこと、内心では、アホかと思うてたんやろ。そんなオッサンやおかんの、アホみたいなドリームを押しつけられて、犬はギャオーンと思うてた。 だってこいつ、下品やでえ。言うたらなんやけど、どっちか言うたら
水煙
(
すいえん
)
よりは俺に近い。ほんまに
血統書
(
けっとうしょ
)
付きなんか。 初めて観たんか知らんけど、ゴレンジャイ観てアイス吹いてた。 すごいやろ。面白いやろ、ダウンタウン。 アキちゃんはいつも通り、軽く引いていたけどな、俺と
瑞希
(
みずき
)
は笑っていた。おもろいねんて。わからへんのかなあ、京都のボンボンには。分かると思うんやけどなあ。大阪のお笑いは世界一なんやで。
堪
(
こら
)
えきれへんのか、顔を
覆
(
おお
)
ってひくひく笑い死にしている犬を、アキちゃんは見るのを
諦
(
あきら
)
めたテレビの代わりに、時々ちらちら
眺
(
なが
)
めてた。どうせ
可愛
(
かわい
)
いなあとか思うてんのやろ。まあええわ。しゃあない男や。時には俺も見ろ。 「アキちゃん、コーヒーちょうだい、コーヒーちょうだい」 アキちゃんが持てあましているコーヒー味のアイスを、俺は横からスプーンで
奪
(
うば
)
った。アキちゃんはそれで俺に気づいて、またこっちを見てくれた。 「お前、
紅茶
(
こうちゃ
)
が好きやったんか?」 「そうやで。知らんかったやろ」
苦笑
(
にがわら
)
いして、俺はアキちゃんのアイスを
遠慮
(
えんりょ
)
なく食った。それにカップを差し出してくれて、アキちゃんはちょっと、ショックみたいな顔やった。 まだ俺に、知らんところがあるというのが、アキちゃんにはつらいんやと思う。なんか、
眩
(
まぶ
)
しそうな目をされた。アキちゃんが俺を、
切
(
せつ
)
なく
愛
(
いと
)
しく見るときの、そういう顔やった。 「なんで知らんのやろ、俺」 「
隠
(
かく
)
しててん。トミ子とおんなじやんか。アキちゃんコーヒー
党
(
とう
)
やし、なんとなく合わせてただけ」 コーヒーも別に嫌いやないもん。ひとりぶんも、ふたりぶんも、
淹
(
い
)
れるんやったら同じ
手間
(
てま
)
やないか。どうせやったら同じもん飲んで、
美味
(
うま
)
いなあって言いたいもん。 「そんなん……合わせる必要なんかないやん。お前の好きにすりゃ良かったんやで」 「そうやなあ。そうなんやけど……初めは俺も、いろいろ考えちゃってたのよ」 「今はもう、初めやないやんか」 じっと見つめる悲しい目をして、アキちゃんはそう
訊
(
き
)
いた。 俺はそれがやっぱり
不思議
(
ふしぎ
)
で、こっちもじっと、アキちゃんを
眺
(
なが
)
めたわ。 「そうやな……もう、初めやないわ」 うんうんて、それに熱っぽく
頷
(
うなず
)
いて、アキちゃんは
不意
(
ふい
)
に、俺の肩をぎゅうっと抱き寄せてきた。 それにびっくりしたように、
勝呂
(
すぐろ
)
瑞希
(
みずき
)
が俺を見た。なんか、
可哀想
(
かわいそう
)
みたいな、悲しい目やった。 俺はその目としばし、見つめ合っていた。ざまあみろとは思うてへんかった。そう思うにしては、あんまり悲しいような目やったもんで。
困
(
こま
)
ったように、つらく苦しい顔をして、目を
背
(
そむ
)
けていく犬には目もくれず、アキちゃんはますますぎゅうっと、両腕で俺を抱きしめてきた。 抱き
合
(
お
)
うてええもんか。ちょっと気まずうないか、アキちゃん。 それで俺は、やんわりとしか、抱き返してやらんかったかもしれへん。 そんなこと、せえへんかったらよかった。だって俺は大体いつも、誰がおろうが
遠慮
(
えんりょ
)
なしやで。アキちゃん好きやで
絡
(
から
)
みつく、そんな
蛇
(
へび
)
やったんやから。 「好きや、
亨
(
とおる
)
。お前のこと、もっと知りたい。何もかも、全部知りたかった。俺のこと好きか。それとももう、前より嫌いか……?」 アキちゃんは、どうしたんやろか。また何か、思い
詰
(
つ
)
めるような事があんのか。 今度はそれが
可哀想
(
かわいそう
)
になってきて、俺は
仕方
(
しかた
)
なく、アキちゃんの背をよしよししてやった。 「
嫌
(
きら
)
いやないよ。前とおんなじくらい好きや」
浮気
(
うわき
)
したし、気にしてんのやろ。
可愛
(
かわい
)
い
奴
(
やつ
)
や。
反省
(
はんせい
)
したんやったら、もう
許
(
ゆる
)
すしな。もうええよアキちゃん、変に思い
詰
(
つ
)
めんといてくれ。 そう思って、笑って俺はアキちゃんの顔を、
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
もうとした。 アキちゃんもそんな俺の顔を、じいっと見つめてた。
真面目
(
まじめ
)
な、じっと見つめる、食い入るような
怖
(
こわ
)
い目で。 「
亨
(
とおる
)
……お前は」 アキちゃんがどんな甘い
台詞
(
せりふ
)
を
吐
(
は
)
くのかと、俺はうっとり期待して見つめてたんや。 せやのにアキちゃん、死にそうな顔をして、真っ青なってた。 「どこで
風呂
(
ふろ
)
入ってきたんや……?」 それを
訊
(
き
)
かれて、
半笑
(
はんわら
)
いのまま、俺は
静止
(
せいし
)
していた。 え。なんでそんなこと
訊
(
き
)
くの。 「
違
(
ちが
)
う
石鹸
(
せっけん
)
の、
匂
(
にお
)
いがする」
違
(
ちが
)
うっけ? そうかもしれへん。 そういえば、
藤堂
(
とうどう
)
さんちの
風呂
(
ふろ
)
、なんかええ
匂
(
にお
)
いのする
石鹸
(
せっけん
)
使
(
つこ
)
うてた。 サンタ・マリア・ノヴェッラのアーモンド・ソープ。箱があったしな、ええ
匂
(
にお
)
いやなあ。うちもこれにしようかなあって、
眺
(
なが
)
めてみてたから、
憶
(
おぼ
)
えてたんや。 ええ
匂
(
にお
)
いやろ、アキちゃん。これにしようかなあ。 確か京都にも店あるで。イタリアの、ずっと昔からある薬屋が作ってる、古い
処方
(
しょほう
)
の
石鹸
(
せっけん
)
や。たぶん
遥
(
よう
)
ちゃんの趣味なんやないか。それとも
藤堂
(
とうどう
)
さんかな。 アキちゃん、お前はどう思う。これが好きか。 でも、今はそんなこと、
訊
(
き
)
いてもしゃあないよなあ。
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椎堂かおる
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