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三都幻妖夜話(3)神戸編 22-39 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
22-39 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
380 / 928
22-39 トオル
天地
(
あめつち
)
が聞いてはる。いつも楽しいことや、美しいことだけ口にして、
言祝
(
ことほ
)
ぎなはれって、やんわり
厳
(
きび
)
しく
説教
(
せっきょう
)
されんで。 「もう決めてん。お前には済まんけど、俺はもうすぐ死ぬことになる。誰かを身代わりに、生け
贄
(
にえ
)
にするのは
嫌
(
いや
)
やねん。俺が死ぬ。永遠に、一緒に
居
(
お
)
るって約束しておきながら、我が
儘
(
まま
)
やけども、そうさせてくれ」 アキちゃんは俺の
肩
(
かた
)
を
掴
(
つか
)
んで、頭を下げていた。
項垂
(
うなだ
)
れてるだけやない、ほんまに頭下げてる。 そんなん
頼
(
たの
)
み込まれても、あかんで、アキちゃん。絶対あかん。 「何を言うねんお前はアホか! そんなん、あかんに決まってるやろ。止めてほしくて言うてんのか? そうなんやったら
何遍
(
なんべん
)
でも、あかんて言うてやるで?」 そうなんやろって、俺が必死でかき
口説
(
くど
)
くと、アキちゃんはそうではないと言うふうに、小さく首を横に振っていた。 「もう決めたんや、
亨
(
とおる
)
。分かってくれ」 「分かるわけあるか! それこそ我が
儘
(
まま
)
や。ええかげんにせえ、アキちゃん!」 俺は
怒鳴
(
どな
)
ったけども、アキちゃんはそれに、ただ
黙
(
だま
)
って
耐
(
た
)
えてるだけやった。 返事する気も、考え直す気もないみたいやった。
頑固一徹
(
がんこいってつ
)
、思いこんだら
梃子
(
てこ
)
でも動かん。そういう感じ。 俺は本気で
焦
(
あせ
)
って、あわあわしながら視線を泳がせていた。
水煙
(
すいえん
)
を探してたんやと思うわ。無意識に。お前もなんか言うてやれって。 でも、そういう
肝心
(
かんじん
)
なときに、あいつ
居
(
お
)
らんのやもんなあ。アホか
水煙
(
すいえん
)
。役立たず! しゃあないから俺は、
瑞希
(
みずき
)
ちゃんを見た。他に誰もおらんのやもん。 お前もアキちゃんが好きすぎるチームの
一員
(
いちいん
)
なんやったら、
加勢
(
かせい
)
しろ。 「なんとか言え、
瑞希
(
みずき
)
ちゃん。お前もアキちゃん止めろ!」 俺がそう
頼
(
たの
)
むと、犬は暗い思い詰めた顔に、うっすら
淡
(
あわ
)
い笑みを見せた。 「なんで止めなあかんねん」 ぽつりと答えられたそのお返事に、俺はぽかんとした。 「は? 何言うてんのお前。アホなんか?」 「アホやない。俺はもともと
地獄
(
じごく
)
の犬や……」 そう話し、
瑞希
(
みずき
)
ちゃんはアイス食うてた。スプーンくわえて、
反
(
そ
)
らした
喉
(
のど
)
には、
黒革
(
くろかわ
)
の
首輪
(
くびわ
)
が巻かれていた。 アキちゃんが
買
(
こ
)
うてやったんやろう。犬が
強請
(
ねだ
)
って、お前は俺のもんやと、首に巻いてやったんや。 変やでえ。シルクのシャツの王子様ルックにな、首輪してんのやもん。
倒錯感
(
とうさくかん
)
たっぷりや。 「
堕天使
(
だてんし
)
なんやもん、俺は。また
地獄
(
じごく
)
に
堕
(
お
)
とされた。でも今度は、
囚人
(
しゅうじん
)
やのうて
獄吏
(
ごくり
)
のほうやで。
冥界
(
めいかい
)
のスタッフや。死ねばつらいやろ……先輩も。痛いかもしれへんしな。でもそれは、一瞬ですから。
冥界
(
めいかい
)
は、つらいところやけど、でも、そこでやったら俺も、やっと
独
(
ひと
)
り
占
(
じ
)
めできる」 アイス食うてる舌が、なんか長いような気がした。
可愛
(
かわい
)
い顔してんのに、こいつは
悪魔
(
サタン
)
や。
堕天使
(
だてんし
)
なんやった。暗く
邪悪
(
じゃあく
)
な
地獄
(
じごく
)
の
位相
(
いそう
)
に、片足突っ込んで立っている。 いったいそこでは、どんな
姿
(
すがた
)
をしてんのやろ。 きっとアキちゃんが見たらドン引きするような、えぐい
姿
(
すがた
)
に
違
(
ちが
)
いないんやで。 「絵、描けんのか、そこでは」 俺は念のため
訊
(
き
)
いた。実は案外、ええとこか、
冥界
(
めいかい
)
は。 「いいや。描かれへん」 「それは
地獄
(
じごく
)
やろ、アキちゃんにとって」 「
地獄
(
じごく
)
やで、誰にとっても」 けろっとして、犬は答えた。アキちゃんはそれを、
黙
(
だま
)
って聞いていた。 「なんでアキちゃんが
地獄
(
じごく
)
に
堕
(
お
)
ちなあかんのや。何も悪さしてへんのやで?」 「そうやろか。先輩は鬼やで。それでも、天国行けるやろけど……」 カップからアイスをひと
匙
(
さじ
)
すくって、
瑞希
(
みずき
)
ちゃんはそれを
舐
(
な
)
め、また言葉を
繋
(
つな
)
いだ。 「でも、天国
逝
(
い
)
かれたら、俺がついていかれへんやん」 俺はほんまに
唖然
(
あぜん
)
とした。何か、腹の底が
震
(
ふる
)
えた。 やめろ。
瑞希
(
みずき
)
ちゃん。お前はほんまに、悪魔になってる。 アキちゃんがどうなってもええんか。
可哀想
(
かわいそう
)
やって思わへんのか。自分がアキちゃんと一緒に
居
(
お
)
れれば、それでええわって事なんか。 「あかんで……なにアホなこと言うてんのや! お前、アキちゃんの絵が好きやったんやろ! そんな男を絵も描かれへんような所に引きずり込んで、どうしようっていうんや」 「もう約束したもん。この世では無理やったけど、結婚の
契約
(
けいやく
)
は死が二人を分かつまでやろ。死んだらフリーなんやから、次は俺の
番
(
ばん
)
や」 犬は本気で言うてるみたいやった。そういうふうに、思い
定
(
さだ
)
めた目をしてた。 俺と向き合うアキちゃんを、見ないようにしている横顔が、暗く
窶
(
やつ
)
れた
獄門
(
ごくもん
)
帰りで、いかにも不幸そうやった。 「本気で言うてんのか……」 それでも俺は一応
訊
(
き
)
いた。お前さっきは、笑ってたやんか。笑ってる時、
可愛
(
かわい
)
かったで。
悪魔
(
サタン
)
でええわって、
諦
(
あきら
)
めてまうんか。そんなんしたら、ほんまに悪魔になってまうんやで。 「本気やで。だってお前がいる限り、先輩は俺のもんにはならへん。お前を
殺
(
や
)
ったら
許
(
ゆる
)
さへんて、先輩言うてはるし、俺はお前には何もせえへんて約束してる。それならもう、先輩のほうに死んでもらうしかない。
鯰
(
なまず
)
が取るのは、命だけやろ。
魂
(
たましい
)
のほうは、俺がもらう。ずっと俺が、抱いといてやる。そしたら
地獄
(
じごく
)
でも、いつか幸せになれるかもしれへん。先輩がお前のことを忘れて、俺を好きになるまで、何万年でも待つわ」 そんな日は
来
(
こ
)
んわ。何万年待っても
無駄
(
むだ
)
やで。
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椎堂かおる
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