383 / 928
22-42 トオル
信じる者は救 われるって言うやないか。信じなあかんねん。
アキちゃんは、死んだりせえへん。絶対助かる。誰も死なへん。絶対ハッピーエンド。大丈夫やから。
俺がついてる! 神様やから! 守護神 なんやから。亨 ちゃんに任 せとき。
「守ってくれんのは……嬉 しいんやけど。具体的 に、どうするつもりや。鯰 や龍 と戦って、お前は勝てるのか?」
アキちゃんはむっちゃ心配そうに俺に訊 いた。
心配してくれてんのか、アキちゃん。俺のこと愛してんのやな。ありがとう嬉 しいわ。俺も愛してる。
「なんか、作戦 でもあんのか、亨 」
あるなら聞かせといてくれって、アキちゃんは真面目 な顔をした。
俺はそれに、優しく微笑 んだ。神様っぽく。
「いいや。全然」
「えっ……」
アキちゃんはまた、気が遠いみたいな目をした。
出会ったばかりのころ、あなたはよくそういう目つきをしてたわね。
なにこれ。どないなってんの、こいつ何者なんや、みたいな動揺 した目で、俺のこと見てたわね。
懐 かしいわあ。
「ないの、作戦」
「ない」
俺は断言 しました。
「……なくて、どうやって何とかすんの?」
アキちゃん、目眩 してるみたいな顔してた。
「その場のノリで」
俺は満面 の笑 みで、そう答えた。
ああ……、って、アキちゃんはすごく感心 したような、ため息みたいな声で唸 った。
感動してるみたいやった。ご託宣 やから。ありがたーい神様の、ご神託 やから。
「大丈夫かな。俺また超不安になってきてもうた。せっかくまた覚悟 決めたのに、やめてくれへんか。三回目はもうあかんで。しんどすぎなんやで」
泣きそうな声で、アキちゃんは俺にくよくよ言うてた。
「平気平気。何も考えんと絵描いとったらええねん。俺に任 せろ!」
俺は男らしく断言 した。
アキちゃんはそれでも、まだ不安そうやった。ものすご悩 んでる顔してた。
あかんなあお前、そうやって深刻 やからあかんねん。俺を見習え。
そんな俺らを見て、犬は可哀想 に、わなわな震 えてた。そして瑞希 ちゃんは俺を見て、震 えた声で、ぽつりと言うた。
「蛇 、アホ……ちゃう?」
「アホやで」
俺は優 しく頷 いて教えてやった。
それを犬は気の毒なほど青い顔で、思い詰 めて見てた。
お前も大概 思い詰 めるタイプやな。俺が調教 したろ。アホになれるように。
毎日、十時間くらいダウンタウン見ろ。頭真っ白なってくるまでな。
「あ……っ、アホが好きなんですか先輩。俺、そんなふうにはなられへん。そこまでアホには……」
むっちゃ苦悩 してるような声で、瑞希 ちゃんはがっくり来てた。
俺は笑ったね。勝利の哄笑 や。
オーッホッホッ!!
そうやで犬。お前は俺には勝たれへん。なんでか知ってる?
そんなん、考えんでもわかるやん。アキちゃんが愛してるのは、俺なんや・か・ら。
結婚までしてんねんで。永遠の愛を誓 った間柄 やで。誰が俺に勝てんの。
勝てへん勝てへん。最後に勝つのは、いつも亨 ちゃんなのよ。そんなん常識でしょ。お約束なのよ。
知らんかったんか? 無知 やなあ犬。可哀想 。
負けへんで。俺は。絶対に負けへん。
ほんま言うたらな、それは自己暗示 やねん。
俺かて負けることはある。ほんまは不安でいっぱいや。ふらふら悩 む時もある。めそめそ泣いてる時もあるわ。そんなん皆もよう知ってるやろ。
でもな、そういう時こそ、自信持っていかなあかんねん。言霊 や。
絶対大丈夫。心配いらへん。お前は俺が守ってやるわ。俺を信じろって、誰かが言うてやらなあかんねん。
そしたら、ほっと安心できて、不思議と湧 いてくる力もあるやろ。
それこそが神さんの効用 やないか。具体的 にはなんもしてくれへんでもええねん。
実際戦うのは人間様や。俺は、平気平気、任 しとき、って言うてればええねん。そして自信ありげな美しい笑 みで、アキちゃんを励 ます。
「生け贄 出すの嫌 やし、俺が行くっていうんやったら、行ってみよ。俺も一緒に行ってやるから。二人で手つないで、行き着くとこまで行ってみようよアキちゃん。なんも心配いらへん。俺がおったら、お前はいつでも幸せやねん。もっと、どっしり構 えとき」
にっこり笑って、俺はアキちゃんの背を撫 でてやった。
そんな俺を、アキちゃんは感動したんか、失笑 したんか、どうしてええかわからんみたいな目で、がっくりソファにもたれて、見上げていた。
「亨 ……お前ってやつはほんまに……よう分からん奴や……よう分からん」
抱いてやってる俺の腹に、くんくん懐 いて、アキちゃんはそう言うてた。
うんうん、そうやでって、俺はアキちゃんを撫 でてやった。
神様ってそんなもんやん? よう分からんもんなのよ。
それでも俺は確かに存在してて、お前を愛してる。お前のことを守ってる。
その愛に、お前が応 えて愛してくれたら、俺はどんな奇跡 でも起こしてみせる。
俺に祈 ってくれアキちゃん、お前が好きや、ずっとお前と一緒に居たい、ずっと永遠に、一緒に居たいって。そしたら俺は、それを叶 えてやろう。神様級の、嘘 みたいな奇跡 で。
ふたりで平成 の、奇跡 を起こそうよ。絶対できるよ。めちゃめちゃ愛し合ってんのやから。
俺とアキちゃんがずっと一緒にいてる、それより正しいもんが、この世にあんのか。
あるわけない。あるわけないねん。
さあ。
あと二日。
いよいよ差 し迫 って参 りました。今回のメイン・イベント。鯰 様。いよいよご登場の時が、近づいて参 りました。
さああ行くでえ。水地 亨 。作戦はないぶっつけ本番!
どんな展開が待っておりますか。聞いてみてのお楽しみ。
それでは今回はこのへんで。皆さん、どうぞ、ご機嫌 よろしゅう。
次回もまた、聞きに来てね〜。
――第22話 おわり――
ともだちにシェアしよう!