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22-42 トオル

 信じる者は(すく)われるって言うやないか。信じなあかんねん。  アキちゃんは、死んだりせえへん。絶対助かる。誰も死なへん。絶対ハッピーエンド。大丈夫やから。  俺がついてる! 神様やから! 守護神(しゅごしん)なんやから。(とおる)ちゃんに(まか)せとき。 「守ってくれんのは……(うれ)しいんやけど。具体的(ぐたいてき)に、どうするつもりや。(なまず)(りゅう)と戦って、お前は勝てるのか?」  アキちゃんはむっちゃ心配そうに俺に()いた。  心配してくれてんのか、アキちゃん。俺のこと愛してんのやな。ありがとう(うれ)しいわ。俺も愛してる。 「なんか、作戦(さくせん)でもあんのか、(とおる)」  あるなら聞かせといてくれって、アキちゃんは真面目(まじめ)な顔をした。  俺はそれに、優しく微笑(ほほえ)んだ。神様っぽく。 「いいや。全然」 「えっ……」  アキちゃんはまた、気が遠いみたいな目をした。  出会ったばかりのころ、あなたはよくそういう目つきをしてたわね。  なにこれ。どないなってんの、こいつ何者なんや、みたいな動揺(どうよう)した目で、俺のこと見てたわね。  (なつ)かしいわあ。 「ないの、作戦」 「ない」  俺は断言(だんげん)しました。 「……なくて、どうやって何とかすんの?」  アキちゃん、目眩(めまい)してるみたいな顔してた。 「その場のノリで」  俺は満面(まんめん)()みで、そう答えた。  ああ……、って、アキちゃんはすごく感心(かんしん)したような、ため息みたいな声で(うな)った。  感動してるみたいやった。ご託宣(たくせん)やから。ありがたーい神様の、ご神託(しんたく)やから。 「大丈夫かな。俺また超不安になってきてもうた。せっかくまた覚悟(かくご)決めたのに、やめてくれへんか。三回目はもうあかんで。しんどすぎなんやで」  泣きそうな声で、アキちゃんは俺にくよくよ言うてた。 「平気平気。何も考えんと絵描いとったらええねん。俺に(まか)せろ!」  俺は男らしく断言(だんげん)した。  アキちゃんはそれでも、まだ不安そうやった。ものすご(なや)んでる顔してた。  あかんなあお前、そうやって深刻(しんこく)やからあかんねん。俺を見習え。  そんな俺らを見て、犬は可哀想(かわいそう)に、わなわな(ふる)えてた。そして瑞希(みずき)ちゃんは俺を見て、(ふる)えた声で、ぽつりと言うた。 「(へび)、アホ……ちゃう?」 「アホやで」  俺は(やさ)しく(うなず)いて教えてやった。  それを犬は気の毒なほど青い顔で、思い()めて見てた。  お前も大概(たいがい)思い()めるタイプやな。俺が調教(ちょうきょう)したろ。アホになれるように。  毎日、十時間くらいダウンタウン見ろ。頭真っ白なってくるまでな。 「あ……っ、アホが好きなんですか先輩。俺、そんなふうにはなられへん。そこまでアホには……」  むっちゃ苦悩(くのう)してるような声で、瑞希(みずき)ちゃんはがっくり来てた。  俺は笑ったね。勝利の哄笑(こうしょう)や。  オーッホッホッ!!  そうやで犬。お前は俺には勝たれへん。なんでか知ってる?  そんなん、考えんでもわかるやん。アキちゃんが愛してるのは、俺なんや・か・ら。  結婚までしてんねんで。永遠の愛を(ちか)った間柄(あいだがら)やで。誰が俺に勝てんの。  勝てへん勝てへん。最後に勝つのは、いつも(とおる)ちゃんなのよ。そんなん常識でしょ。お約束なのよ。  知らんかったんか? 無知(むち)やなあ犬。可哀想(かわいそう)。  負けへんで。俺は。絶対に負けへん。  ほんま言うたらな、それは自己暗示(じこあんじ)やねん。  俺かて負けることはある。ほんまは不安でいっぱいや。ふらふら(なや)む時もある。めそめそ泣いてる時もあるわ。そんなん皆もよう知ってるやろ。  でもな、そういう時こそ、自信持っていかなあかんねん。言霊(ことだま)や。  絶対大丈夫。心配いらへん。お前は俺が守ってやるわ。俺を信じろって、誰かが言うてやらなあかんねん。  そしたら、ほっと安心できて、不思議と()いてくる力もあるやろ。  それこそが神さんの効用(こうよう)やないか。具体的(ぐたいてき)にはなんもしてくれへんでもええねん。  実際戦うのは人間様や。俺は、平気平気、(まか)しとき、って言うてればええねん。そして自信ありげな美しい()みで、アキちゃんを(はげ)ます。 「生け(にえ)出すの(いや)やし、俺が行くっていうんやったら、行ってみよ。俺も一緒に行ってやるから。二人で手つないで、行き着くとこまで行ってみようよアキちゃん。なんも心配いらへん。俺がおったら、お前はいつでも幸せやねん。もっと、どっしり(かま)えとき」  にっこり笑って、俺はアキちゃんの背を()でてやった。  そんな俺を、アキちゃんは感動したんか、失笑(しっしょう)したんか、どうしてええかわからんみたいな目で、がっくりソファにもたれて、見上げていた。 「(とおる)……お前ってやつはほんまに……よう分からん奴や……よう分からん」  抱いてやってる俺の腹に、くんくん(なつ)いて、アキちゃんはそう言うてた。  うんうん、そうやでって、俺はアキちゃんを()でてやった。  神様ってそんなもんやん? よう分からんもんなのよ。  それでも俺は確かに存在してて、お前を愛してる。お前のことを守ってる。  その愛に、お前が(こた)えて愛してくれたら、俺はどんな奇跡(きせき)でも起こしてみせる。  俺に(いの)ってくれアキちゃん、お前が好きや、ずっとお前と一緒に居たい、ずっと永遠に、一緒に居たいって。そしたら俺は、それを(かな)えてやろう。神様級の、(うそ)みたいな奇跡(きせき)で。  ふたりで平成(へいせい)の、奇跡(きせき)を起こそうよ。絶対できるよ。めちゃめちゃ愛し合ってんのやから。  俺とアキちゃんがずっと一緒にいてる、それより正しいもんが、この世にあんのか。  あるわけない。あるわけないねん。  さあ。  あと二日。  いよいよ()(せま)って(まい)りました。今回のメイン・イベント。(なまず)様。いよいよご登場の時が、近づいて(まい)りました。  さああ行くでえ。水地(みずち)(とおる)。作戦はないぶっつけ本番!  どんな展開が待っておりますか。聞いてみてのお楽しみ。  それでは今回はこのへんで。皆さん、どうぞ、ご機嫌(きげん)よろしゅう。  次回もまた、聞きに来てね〜。 ――第22話 おわり――

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