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23-1 アキヒコ
ありえませんから。
先輩 、ほんまに、ありえませんから、って言われてもうたで。瑞希 に。ものすご呆 れ果 ててるみたいな、わなわな震 えた青い顔で、俺の顔をまっすぐに見ての、真っ正面からの、先輩ありえへん宣言 。
俺は正直それにちょっと、グサーッて来てた。
幻滅 されてもうた。ありえへん言われてた。いつも先輩すごいなあて言うてた奴 に。俺のこと、憧 れてますっていう目で見てくれてた瑞希 に。ありえへんて言われたで!!
格好 悪いんや俺!
そんな衝撃 のインパルスが全身を駆 けめぐる。雷 に打たれたようなもんや。
今まで、何とかしてそれだけは避 けなあかんと内心思ってたのに、結局、お前はアホかみたいな目で瑞希 に見られたで!
そうや。俺は実はアホやったんやで瑞希 。知らんかったやろ。
三万三年の恋も醒 めたやろ。俺のこともう忘れられるようになってきたやろ。
それでええねん。涙 が出そう!
今後はただのご主人様と犬で、お前は誰か良さそうな相手がおったら、新しい恋をすりゃええから。大体、俺は三日後にはもう、どないなってるか分からんような男なんやから。お前はお前で幸せ探しを頑張 ってくれ。
すまんかった瑞希 。俺は俺でほんま言うたらお前のこと、ものすご好きやったんやけど、結局ほとんど何も応 えてやれんままやったな。
でも、しょうがない。水地 亨 が強すぎる。俺はこいつを愛してんねん。もうどうしようもない。
お前が俺に幻滅 してくれて良かったわ。これで俺もちょっと肩の荷 が降 りる。
その割 に泣きそうやけど、胸 の奥 がズキズキするけど、でもきっとお前のこと、幸せになれよって優 しく笑って送り出してやれる。それぐらいのエエカッコやったらできる程度 には、俺も大人のつもりやわ。先輩やからな!
でも、あいつ、まさかその足で出ていくやなんて……。よっぽど幻滅 したんやで。
亨 と俺の無計画すぎる話を聞いてもうた直後に、あいつは、ありえへん言うて、逃げるように部屋から出て行った。ほんまに走って出ていったで。声かける間 もなかった。
たとえ間 があっても、どうせ気まずすぎて、俺は声なんか出えへんかったけどな。
俺はめちゃめちゃクヨクヨしていた。ベッドで裸 で、水地 亨 と抱き合いながら。
まだ真 っ昼間 やで。もろに飯時 や。そやのにパン食いながらベッドでお医者さんごっこや。
布団 でパン食うなんて。そやけど亨 がパン食いたい言うし、食い終わるまでいちゃつくの我慢 できひんて言うから、しょうがない。同時にやるしか。
瑞希 は亨 のノー・プラン作戦の堂々 たる宣言 を聞き、度肝 を抜 かれたようやった。感心したわけやない。悪い意味でのカルチャーショックで、腰抜 けそうなったらしい。
死ぬか生きるか、伸 るか反 るかの危険な局面 で、ぶっつけ本番。アイデア無し。基本アドリブ。出たとこ勝負。それでええやん。愛があれば大丈夫みたいな、亨 の突 き抜 けたノリを見て、それでええのか先輩と、瑞希 は必死で俺に訊 いてた。
それでええのかどうか、正直、俺には分からん。どうすりゃええのか、もう分からん。
めっちゃ一杯 悩 んだよ。悩 んでたやろ。その話は延々 したやろ。
紆余曲折 あったよ。
ここは潔 く俺が死のう。
いや、やっぱあかん。水煙 、あかん言うてる。
いや、でも、やっぱここは男らしく俺が逝 こう。
いや、そんなん許 さへん。亨 が、あかんて言うてる。
ほんならどないすんねん。堂々ノー・プラン宣言 。そういう経過やないか。
もう訳 わからんのや。真面目 に考えんのアホくさなってきた。
もちろん真面目 に考えなあかんのやけど、アホの考え休むに似 たりや。いっぱい考えたけども、結論出えへん。出たと思ったら崩 される。
俺がどんなに英雄的 決意を固めても、水煙 出てきてあかんて一喝 。亨 が出てきて、許さへんでと回し蹴 り。その攻撃に、気の弱い俺の決意は脆 くも崩 れ去る。
迷 ってんねんから。俺かて死にたい訳やないから。怖いねんから。それでも必死で覚悟 決めてんのやないか。
なんで誰も賛成してくれへんの?
俺も自分なりに、よくよく考えた結果の決意やのに。
止めてくれるのは嬉 しいよ。亨 や水煙 に、ああそうかアキちゃん、ほな死ねば、とか言われたら、それはそれでションボリやからな……。
そうやけど、俺にも、もうちょっと、英雄性 を期待してくれてもええんやないのか。一応やけど、俺も英雄 の息子なんやから。
顔そっくりなんやで、おとんと俺は。靴 のサイズまで同じなんやで。
なんであのアホみたいなおっさんが人々のために潔 く死ねて、俺にできへん訳 がある。
瑞希 はそれでええって言うてたで。義 のために死ぬ。それでこそ男みたいな世界はありますねって言うてた。そうやろ。俺もそう思う。
まあ、あいつはな、俺のこと、ほんまに死ねばええわと思ってたみたいや。とっととくたばって、地獄 へ堕 ちろと。まあ、思われてもしゃあないわ……。
それに、瑞希 はほんまに、死ぬのが怖くないらしい。経験者やから?
死ぬことそのものは、もう平気なんやって。めちゃくちゃ苦しいけど、一回死んでるからな。どの程度、苦しいもんか分かってる。
そやからそれはもう覚悟 決められるんやって。強い子すぎやな、あいつ。
それより怖ろしいのは、死んだ後のほうらしい。冥界 や。
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