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23-6 アキヒコ
「嘘 であんなに喘 ぐわけないやん……俺かて恥 ずかしいんやで。あんまり乱 れると」
「知らんかった。お前にも羞恥心 があるとは」
俺は半 ば本気で思わず言うてた。亨 はそれに、顔を背 けて、フフッて黄昏 れる笑い方をした。
「俺をなんやと思うとんのや……」
「恥知 らずのエロエロ妖怪」
俺が笑って正直に言うと、亨 はムカッときてる赤い顔で、俺を睨 んだ。
「なんやと……言わせておけば」
涙 出そうに情 けない。そやけど否定 できひん面 もある。それが悔 しいという顔で、亨 はどさりとまた俺に抱きついてきて、その腹いせを俺にではなく、下の人にした。めちゃめちゃ強く握 られて、ひいってなった。
「お前も今はそうやで。エロエロ妖怪やないか。よう言うわ、俺が好きやて言いながら、他に何人抱くつもりやねん。そんな余 りがあるんやったら、それも全部、俺に食わせろ。いくらでも食うてやるから……」
「く……亨 、それはヤバい」
余 りの件 ではないです。指で激しく責めすぎなんです。最近、とても敏感 なので、あんまり虐 めんといてほしいんです。せめて、そうっと優しく。
「悪い子や。浮気 なんかしてからに。こいつはほんまに、悪い子どすわ。めっ! お仕置 きどすえ!」
亨 は、俺のおかんみたいな口調で、自分がいま虐 めてるもんを叱 りつけていた。
怒られてはるわ、下の人。すみません。アホなことしてて。二人っきりやから見逃 してくれ。
もちろん亨 はお仕置 きもした。蔵 に閉じこめたわけやない。もっと悲鳴の漏 れるようなこと。
でも、当たり前やけど、悲鳴あげてんのは下の人やのうて、俺のほうやで。
「堪忍 してくれ、亨 ……壊 れそう」
ぼんやり泣き言 言うてみたら、亨 は気味 良さそうに笑っていた。でも一応、虐 めんのはやめてくれた。
「よしよし。反省したか、下の人? 反省したんやったら、亨 ちゃんが気持ちようしたろ……」
頼 むし、下の人に話しかけんのやめてくれへんか。正直、恥 ずかしい。そんなんする奴 、この世にお前だけやったらどうしよう。
とりあえず今んところは会 うたことない。聞いたこともない。朧 様、そんなんしいひんかった。たぶん普通はしいひんのやで。こんなアホみたいなこと。
「アキちゃん、下の人、ごめんなさい、早うやりたい言うてはるで」
「そうやろか。そういうことは何でまず俺に言うてくれへんのやろなあ」
愛撫 する手つきに戻った亨 の指にため息つかされつつ、俺は毎度のその疑問 を伝えた。それに亨 は真面目 に悩 んだような表情を作った。
「しゃあない。下の人はアキちゃんより俺のほうが好きやねんから。亨 ちゃんのケツに早う入りたい入りたい言うてはるで。聞こえへんか?」
聞こえたら俺もほんまに終わりやと思う。
「可哀想 やから、早うしたろか……?」
早うしてくれという、とろんと濡 れた目で、亨 は俺の顔を覗 き込 んできた。やっと上の人の意見も聞いてくれるんや。
「どうやってやるか、お前が決めてくれ」
隣 に寝転がってきて、キスしてほしそうな顔の亨 にキスしてやりつつ、俺はそう頼 んだ。そしたら亨 は、嬉 しそうにデレデレ悩 む顔になった。
「ええ。俺が決めんの? そうやなあ……ここはオーソドックスに正常位もいいが。後ろからも萌 える。困るなあ。間 をとって、側臥 でいくか」
間 をとるんや。別になんでもええけど。お前がしたいやつで。あんまり鬼畜 なネタでなければ。
「横でして、アキちゃん。それは最近やってへんかったやろ」
苦笑 して、俺は頷 いた。そんなん、チェックしてんのや。どれでやったとか。
まあ、時間 測 ってるような奴 やしな。それくらいチェックしてるかもしれへんよな。その辺までやったら、俺かてもう驚きはしいひん。言うても亨 と八ヶ月付き合うてんのや。この恥知 らずな蛇 と。
「前にやったの、いつやったかな。手帳見たらわかるんやけど」
ものすご普通にそう言われ、俺はぎょっとしていた。
「な……なに、手帳って……?」
まだ何も聞かされてへんのに、俺の声はすでに上ずっていた。これが予知能力やな。
「書いてんねん。スケジュール帳に。どんな体位で何回やって、タイムは何分とか、そういうの」
亨 はちょっと恥 ずかしいなあという顔で、心持ちくねくねしながら、そう言うた。
でも、ちょっとだけやった。恥 ずかしい言うても、ちょっとだけ。ちょっとだけやで?
「なんで書くねん、そんなこと!」
俺、また絶叫 や。久々で絶叫 や。顔真っ青や。いや、真っ赤やったか。自分では見えへんし、わからへんけど、普通の顔色でないことは確実や。
亨 はちょっと驚 いた顔やった。
「えっ。書いとくと、後で反省 できるやん。いろいろ分かるし」
便利やで、これ豆知識 みたいに亨 に言われ、俺は汗 が出てきた。もちろん冷 や汗 。それとも脂汗 ?
「なにが分かるねん! というか、何をお前が反省 してんのや!?」
俺は思わずベッドの上で起きあがっていた。寝てる場合やなかった。亨 はちょっと、びっくり顔 やった。
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