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三都幻妖夜話(3)神戸編 23-10 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
23-10 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
393 / 928
23-10 アキヒコ
写生
(
しゃせい
)
した絵で
桂川
(
かつらがわ
)
を
暴
(
あば
)
れさしたと言うて、おかんに怒られた話もそうやし、夏に
疫神
(
えきしん
)
の絵を描いて、あんなことにもなってもうた。 俺はもう、絵描いたらあかんのやないか。そういう気もするのに、
筆
(
ふで
)
を
折
(
お
)
るのはどうにも無理で、自分の
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
だけで描き続けてる。 息をするのはやめられへん。それと同じで、絵を描くのをやめられへんねん。 毎日毎日、心の奥底からあふれ出すみたいに、描きたい絵が
湧
(
わ
)
いてくる。それを描かずに
我慢
(
がまん
)
してたら、それこそ頭がおかしくなりそう。生きてられへんような気がする。 「鳥さん喜んでたやん? アキちゃんが描いた絵のお
陰
(
かげ
)
でさ、あいつもほんまの
不死鳥
(
ふしちょう
)
や。実は悪魔で、
虎
(
とら
)
的
(
てき
)
にはなんか予定と違うっぽかったけど、でもまあええやん。
不死鳥
(
ふしちょう
)
、
不死鳥
(
ふしちょう
)
。
上出来
(
じょうでき
)
やったやんか?」 にこにこ言うて、
亨
(
とおる
)
はよしよしみたいに、わざわざ腕を
伸
(
の
)
ばして、俺の頭を
撫
(
な
)
でてくれていた。 「夏の
疫神
(
えきしん
)
の
件
(
けん
)
かて、確かに元はアキちゃんの絵やったかもしれへんけど、それを解決したのかて、アキちゃんの絵やったんやんか?
豚
(
ぶた
)
の丸焼きの絵、めっちゃ
美味
(
うま
)
そうやったで」
涎
(
よだれ
)
出そうみたいに言うて、
亨
(
とおる
)
はほんまに口元を手で
拭
(
ぬぐ
)
ってた。こんな話の時にほんまに
涎
(
よだれ
)
を出すな……。 「アキちゃんの絵のお
陰
(
かげ
)
で、
水煙
(
すいえん
)
様かて
穴無
(
あなな
)
し治ったしさあ」 「見たんか!?」 俺は思わず
叫
(
さけ
)
んでもうてた。
亨
(
とおる
)
はむっと
意地
(
いじ
)
悪いしかめっ
面
(
つら
)
になった。 「見てへん。そうなんとちゃうかなあ、という話や! 大体お前はどこまで想像してあの絵を描いたんや。
脱
(
ぬ
)
いだらどんなんなってんのか、想像しながら描いてたんか!?」 想像しながら描くよ! それは! 言い
訳
(
わけ
)
ちゃうで。ほんまにそうやで。人の絵を描くときは、
骨格
(
こっかく
)
とか考えながら描くもんなんやで。だから中の骨とか
内臓
(
ないぞう
)
入ってるのとかも、ちゃんと
想定
(
そうてい
)
して描くもんなんや。それで普通やねん。俺がエロなんやないよ。
絵師
(
えし
)
の
常識
(
じょうしき
)
! でも、それを
亨
(
とおる
)
には口に出して言われへんで、俺はあわあわしていた。言わんでも知ってんのとちがうんか、お前。
亜里砂
(
ありさ
)
……やのうて、トミ子の
画才
(
がさい
)
をイタダキしたんやったら、あいつかて
絵師
(
えし
)
なんやもん。それくらいのこと知ってるはずやで。
美大
(
びだい
)
にいた
奴
(
やつ
)
なんやから。 「想像してたんや……」 ジトッと言われて、俺はぶんぶん首を横に
振
(
ふ
)
っていた。
嘘
(
うそ
)
やった。でもそれは何を否定してんのか。 想像したけど、それはあくまで
純粋
(
じゅんすい
)
に絵を描く上での何やかんやや。決して変な
妄想
(
もうそう
)
を
抱
(
いだ
)
いた
訳
(
わけ
)
やない。そうやと思いたい。
進退
(
しんたい
)
窮
(
きわ
)
まった顔をして、ぐっと押し黙っている俺の頭を、
亨
(
とおる
)
が突然、
腕
(
うで
)
振り上げて、ぽかっと
殴
(
なぐ
)
った。俺はそれに、びっくりした。 「この、
浮気者
(
うわきもの
)
! そんなん想像すんなら俺のケツにしろ! ぼけっとしとらんで、いいかげんにいちゃいちゃしろ! 何をすっかり
平常心
(
へいじょうしん
)
なっとんねん。人生相談しとる
暇
(
ひま
)
あったら、もっとムラムラしろ!」 「痛い痛い!」 ぽかぽか
殴
(
なぐ
)
られて、俺は必死で
避
(
よ
)
けていた。
亨
(
とおる
)
に
叩
(
たた
)
かれたことなんかない。本気で
殴
(
なぐ
)
ってるわけやない、ふざけて
叩
(
たた
)
く程度なんやけど、
亨
(
とおる
)
がそれを、遊びやのうて、焼き
餅
(
もち
)
焼いてほんまに
殴
(
なぐ
)
ってることは
確
(
たし
)
かやったわ。 「アキちゃんのアホ」 さんざん
叩
(
たた
)
いて気が済んだんか、脚をからめて抱きついてきて、
亨
(
とおる
)
は俺に長いキスをした。ちゅうちゅう吸われて、俺は必死で
応
(
こた
)
えてたけど、そうするうちに、なんか熱い安らぎに
浸
(
ひた
)
れてた。 何も考えんと、
亨
(
とおる
)
と抱き
合
(
お
)
うてる時が、いちばん幸せ。それは何となく、
夢中
(
むちゅう
)
で絵を描いている時の感じと似てる。楽しい楽しいって、のめり込んでて、時の
経
(
た
)
つのを忘れてしまう。 「アキちゃん、抱いて。抱いてほしい……」 俺を
奮
(
ふる
)
い立たせようとする指で
愛撫
(
あいぶ
)
してきて、
亨
(
とおる
)
は
切
(
せつ
)
なげにそう
囁
(
ささや
)
いた。 「お前の絵が好き。顔も好き、体も声も、性格も、全部好き。めちゃめちゃ好きやねん、アキちゃん。俺とひとつになって……ずっと抱いといてくれ」 ずっとは無理や。でも、できるだけ長く。 早くひとつになれるように。でも、
焦
(
あせ
)
ったらあかん。俺はなるべく、ゆっくりと、
亨
(
とおる
)
の体を開く
愛撫
(
あいぶ
)
をした。
並
(
なら
)
んで
側臥
(
そくが
)
した片足抱えて、中を
撫
(
な
)
でると、
亨
(
とおる
)
は俺の胸に
擦
(
す
)
り寄って、すぐに甘く
喘
(
あえ
)
ぐ顔になってた。 よっぽど気持ちいいのか、
亨
(
とおる
)
はいつも、あられもなく乱れて
喘
(
あえ
)
ぐ。それが俺には当たり前。すでに
慣
(
な
)
れてて、いちいち何とも思わへん。 でも、ほんま言うたらそれにはすごく
癒
(
い
)
やされてる。俺はお前を幸せにしてやれている。そんな実感のある瞬間やから。 「アキちゃん、気持ちいい……いっぱいしてくれるか?」 「うん……いっぱいしてやる……」 甘く
強請
(
ねだ
)
る舌に
応
(
こた
)
えてキスをして、無言で
嬲
(
なぶ
)
りあってると、だんだん熱い
沈黙
(
ちんもく
)
に
溺
(
おぼ
)
れ、胸が
詰
(
つ
)
まるような
興奮
(
こうふん
)
が押し寄せてくる。みるみる
潮
(
しお
)
が満ちるみたいに。 それに押し流される。理性も苦悩も。
面子
(
めんつ
)
も弱気も、しがらみも。ただ
夢中
(
むちゅう
)
で思ってる。お前が欲しい。好きや好きやで、何も考えてへん。 どっぷり
浸
(
ひた
)
る深い深い
陶酔感
(
とうすいかん
)
で、頭の
芯
(
しん
)
まで
酔
(
よ
)
うてきて、感じる
愉悦
(
ゆえつ
)
と愛だけが、世界の全てみたいになってる。
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椎堂かおる
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