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23-11 アキヒコ

「アキちゃん……俺、今、ものすご幸せ……」  言うてやらんと、お前は分からんのやろうと、どこか()めるような(せつ)ない顔で、(とおる)は俺に教えてくれた。  確かに俺は、分かってなかったかもしれへん。そう言われて、ものすごく感激していた。 「(とおる)。お前とずっとこうしてたい。百年でも、千年でも……」  泣きつく声で(たの)むと、(とおる)(あえ)ぐ顔で笑って、(せつ)なそうに背を()らした。 「できれば俺は入れてほしい」  そう言う(とおる)可笑(おか)しいてしゃあない。情けないというか、現実的というか。ムードの欠片(かけら)もない。でも、それが正直すぎて可愛(かわい)いような気がして、俺はうんうんと(うなず)いていた。  そんなら入れようか。そろそろ。俺も早くしたい。お前の中に押し入って、(ふる)えるような愉悦(ゆえつ)に酔いたい。気持ちよすぎて、すぐ(きわ)まりそうになる、そんな(はげ)しい愛をこらえて、お前をいっぱい(あえ)がせてやりたい。  すでに、ぐったり(もだ)える姿勢(しせい)(とおる)を、そのまま側臥(そくが)で横たわらせて、さっき聞いてたご要望(ようぼう)通り、(あいだ)をとった体位で入れた。(ひざ)(とおる)の白い(もも)を、後ろから割って(あし)開かせて、ゆっくり入ると、ぞくぞく怖気(おぞけ)立つように、(とおる)が背を(ふる)わせて、短く(せつ)なそうに(あえ)ぐ声を上げていた。  それがすごく、気持ちよさそうに見える。 「あ……っ、たまらん。めっちゃ()えとこ当たってる……気持ちええよう……幸せすぎる……」  そうなんや。(あえ)いで涙目(なみだめ)になった(とおる)が、ほんまに辛抱(しんぼう)たまらんように、小刻(こきざ)みに(ふる)えて言うのを、俺は不思議(ふしぎ)(なが)めてた。  なんでなんやろ。たぶん(たん)なる偶然(ぐうぜん)なんやろうけど、(とおる)と俺は、ほんまに体の相性(あいしょう)がいいらしい。作戦要らへん。ただ入れただけで毎回ジャストミート。たまらんたまらんて、(とおる)頬染(ほほそ)めて(あえ)ぐ。我慢(がまん)しいひんかったら、あっと言う()に上り()めていく。  (うそ)で感じてるふりはできても、(うそ)絶頂(ぜっちょう)は無理やから。いくらなんでもそれは、無理やろうから。ほんまに感じてんのやろ。  不思議(ふしぎ)や。(おぼろ)様とは、あんなに大変やったのに。  実はあれが普通なんやないか。そういうもんやと湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)は言うてたで。ただやるだけで気持ちええなんてのは、よっぽど()うてるんやで、その(へび)と。それが先生の、運命の相手なんやでと、俺とやりつつあいつは言うてた。  ようそんなこと言うわ。普通で言うても変やのに、よりにもよって自分がやってる()最中(さいちゅう)の相手に、そんなこと言うなんて。  俺は正直、()いてみたかった。お前は、うちのおとんと、どうやったんや。運命の相手みたいに()かったんか。それで今でもずっと、おとんのこと待ってんのかと。  鳥は(とら)に抱かれると、気持ちよすぎて泣くらしい。(とおる)がそんな、()らん話を俺にしていた。  その時、泣くほどすごい快感を感じてんのが、体のほうなんか、それとも別のところか。あくまでそれは、俺の想像で、センチメンタルな妄想(もうそう)やけども、こういうのは相手のことが、好きやから気持ちええんやないか。  たとえ行きずりの、ちょっと寝てみただけの相手でも、基本、嫌いやったら寝たりしいひん。好きな相手と深いところで()()うている。その感覚が気持ちいいんやないか。  少なくとも、俺はそう。誰とやっても実は感じる。そういうもんなんやろうけど。でも、俺が今、抱き合うている相手は誰あろう、俺の守護神(しゅごしん)水地(みずち)(とおる)大明神(だいみょうじん)やからと思うと、その事実だけで気持ちいい。(とおる)とやってる。そう思うだけで辛抱(しんぼう)たまらん。ほんまそういう面がある。  どうしよう俺は、めちゃめちゃ好きな相手とやってる。それが(うれ)しいと相手も言うてくれている。めちゃめちゃ()えわと(あえ)いでる。そんな心地(ここち)よいことが、この世に他にあるやろか。  そう思うと、すでに若干(じゃっかん)、いきそうなんです。 「アキちゃんの、今日、めっちゃ固くないか……? 当社比(とうしゃひ)で、1.25倍くらい……」  ひいひい(あえ)ぎつつ(まくら)(つか)み、(とおる)はものすご具体的(ぐたいてき)なことを言うてた。 「そんなんまでチェックしてんのか……?」  また書かれんのか。エロログに。アキちゃんと(とおる)の、明日はどっちだダイアリーに。  絶対(いや)や。絶対に書かんといてくれ。どうしても書くんやったら、お前にしか読まれへんような(なぞ)暗号文(あんごうぶん)で書いてくれ。  そうでないと俺は、気が気でない。もし万が一、誰かにそれを読まれたら、俺はどうしたらええんや。八月二十三日のアキちゃんは、普段より固め。体位は側臥位(そくがい)でした。タイムは何分何秒。そんなん書かれんねんで! 「アホなこと言うてんと、もっとしてえな、アキちゃん! なんでやめんの!」  怒られた。元はといえば自分がアホなこと言うて、俺を若干(じゃっかん)()えさせたのに。  それでも何とか持ち直し、また()めにかかると、(とおる)はのたうつ白い(へび)のようになっていた。悪い大蛇(おろち)や。成敗(せいばい)成敗(せいばい)。 「ああ……気持ちええよぅ、めっちゃいい……やっぱアキちゃんが、最高やわ……」  何と(くら)べてんのか。俺が微妙になるような事を(あえ)(あえ)ぎ言いながら、(とおる)はもう汗びっしょりやった。

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