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23-12 アキヒコ

 ()らした白い背に、きらきら汗が浮いている。(もだ)えるような腰使いに()れて、その汗が、(したた)り落ちる(しずく)に変わる。  汗まみれで(はげ)む、その顔の、美しいことといったら。ほんまにもう、絵に描いて残したいくらい。でもそれは、今まではずっと我慢(がまん)してきた。  それはあかん。  いくらなんでも、あかんと思う。  (とおる)が別によくても、俺が()ずかしい。だいたい、いつ描くんや。  今か。  変態(へんたい)すぎる。うちのおとんやあるまいし。セックスしながら絵を描くな。  その考えに、めちゃめちゃ()ずかしなってきて、俺は勝手に赤面(せきめん)していた。  あかんわあ。()ずかしなったらあかん。精神状態、如実(にょじつ)に出るから。下の人のコンディションに。 「どしたん、アキちゃん。もう、いきそうなんか? 早ない?」 「いけない想像をした……」 「どんな想像?」  ()められて、苦しいみたいな愉悦(ゆえつ)の顔で、(とおる)()いてきた。俺の手を(にぎ)って。 「話したら、エロログに書かれるから(いや)や」 「書かへんて約束するから、こっそり教えて」 「(いや)や。教えへん」  俺は必死で首()って(こば)んだ。自分の変な妄想(もうそう)()(はら)いたくて。  変すぎる。それは俺が(はだか)にした(とおる)(はだ)に絵を描いている夢やねん。寝てるわけやないけど、夢みたいやった。筆が(すべ)ると(とおる)(あえ)ぐ。  たぶん、(おぼろ)様に聞いたおとんの武勇伝(ぶゆうでん)のパクりなんやけど、でも、想像すると、つらい。自分もそれが好きなような気がして。  ()らんとこばっかり似てる。悪いとこしか似てへん。  (みだ)らな白日夢(はくじつむ)の世界で、筆が白い足指の間をなぞると、(とおる)(もだ)えた。  代わりに本物のほうの足指を舌で(なぶ)ると、想い描いたのと、ほとんど変わらん敏感(びんかん)さで、(とおる)(もだ)えた。  それが俺には、むちゃくちゃ(こた)えた。下の人も、もうあかんて言うてた。たぶん言うてたやろ。もし俺に、そんなヤバい声がほんまに聞こえていたら。  そんな妄想(もうそう)悶絶(もんぜつ)しつつ、気がついたら俺は、ものすご激しく(とおる)()めてた。それとも自分を()めてたんか。  (とおる)の中の、熱くて(せま)いところで、もう死ぬって(もだ)えてんのは、俺のほうかもしれへん。 「もう我慢(がまん)できひん……」  情けない気分になって、追いつめられた俺は、小さく(せけ)ぶ声やった。  でも(とおる)は、それを全然聞いてへんかった。今にも(きわ)まりそうな顔をして、熱く(もだ)えて、はあはあと身を()()らせてた。もう何も耳に入ってへんような、赤い夢中の顔やった。 「イクよぅ……アキちゃん、もう、あかん……もう、ダメ……あ……っ」  ()り上げられた魚みたいに、(とおる)は激しく身を(よじ)ってた。(とど)めをさしてくれと、(あえ)いで苦しげにのたうち回る体に、俺は夢中で追撃(ついげき)をかけていた。  それはやっぱり、(とおる)()めてるんやない。自分を()めてる。(とおる)()めてる。どっちでも同じこと。  俺が()ければ、(とおる)()えらしい。やりたいように暴れるだけで、(とおる)(もだ)える。アキちゃん好きやって、いつも甘く(すす)り泣いてくれる。 「アキちゃん好きや……好き、好きやねん、いっしょにイって……!」  必死で言うてる(とおる)に、俺も好きやって言いたかった。でももう、それどころやない感じで、もう言葉にならん声あげて、最後の愉悦(ゆえつ)(きわ)めた(とおる)の体を抱きしめて、俺も必死で()てていた。  ものすごく満たされて、混ざり合う感じがする。  きつく抱き合いながら、(あえ)(とおる)(くちびる)をキスで(ふさ)いで、その甘い声を震える舌から(じか)()めると、(とおる)が強い指で俺の背を()(いだ)く。その()け合うような抱擁(ほうよう)と、その時、感じる愉悦(ゆえつ)の深さに、ほんまに(たましい)まで()け合っているような気がする。  それも俺の妄想(もうそう)かもしれへん。でも、この瞬間が、このまま永遠に続けばいい。  きっと天国って、()けるとしたら、そういう所やという気がする。何も考えんと(とおる)と熱く抱き()うて、好きや好きやって朦朧(もうろう)として、(とろ)ける愉悦(ゆえつ)の中にいる。  誰にも分かたれないぐらい、どろどろに()け合って、混ざり合っている。そういう感じ。  だけど、もし、それが本当に永遠に続いたら、きっと頭おかしなる。幸せすぎて()えられへん。  たぶん、ほんの何十秒か。せいぜい一分かそこら。長い一生の目で見れば、そんな一瞬で()ぎる世界やねんけど、でもその瞬間にだけ語り合える言葉でない何かが、あるような気がする。  やがて()ぎ去った、そんな熱い波の名残(なごり)に、まだ()れているような()かされた目で、(とおる)は俺と抱き合ったまま、うっとり間近(まぢか)に目を見つめてきた。 「好きや、アキちゃん。ほんまに愛してる。ずっと俺を、離さんといて……」  甘く(ささや)く声で、(ねつ)っぽく言うて、(とおる)はそれで気が済んだみたいに、とろんと目を閉じ、小さく(くちびる)を合わせるだけのキスをした。  そのまま身を寄せてくる白い裸体(らたい)は、深く満足したような、しどけない弛緩(しかん)の中にいて、ぐんにゃり俺に体を(あず)けてる。  ずっと離さんといてくれと、(とおる)は時々俺に(たの)んでる。俺はそれに、ずっと離さへんと答える。いつもやったら、そうやねんけど。この時ばかりは、目が(まど)った。  甘い息をして、まだ胸を(あえ)がせている、汗をかいた白い体を抱いて、お前は俺のもんやという、強い恋着(れんちゃく)は感じたけども、それを口に出していいのかどうか、自信無かった。

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