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23-14 アキヒコ

「何、それ?」 「何って。だから。そう言うて(たの)んで、事情話したら、湊川(みなとがわ)大爆笑(だいばくしょう)して、ほんなら可哀想(かわいそう)やから俺が()ってやろう、って……」  ダイジェスト的にはそうやんか。気まずいところはカットしたけど。カットしたとこが、たぶん一番の見所(みどころ)やけど。 「えっ……実はアキちゃん、あいつとやってへんのか?」  (とおる)に本気の目で()かれて、もちろん俺の目は泳いだよ。(うそ)はつけへん性格やねんから。  (うそ)つくよりええやろ? やってません言うたほうが良かったか?  言えばよかったかな。(とおる)は俺の無言の回答に、わなわな来ていた。目が怖かった。ちょっと金色がかってた。たぶん、(はだ)(さぐ)ればどこかには、白い(うろこ)が浮いていたやろ。 「やったんか……」 「お前もやったんやろ、藤堂(とうどう)さんと」  そやから引き分け(ひきわけ)という話なんやろ。殺さんといてくれ。俺も今は一応、秋津(あきつ)家の当主(とうしゅ)として、生きとかなあかん義務(ぎむ)がある。 「また、そんな手か! お前はずるい!」  そう!? そうやろか?  俺もずるいかもしれへんけど、そもそも、その論法(ろんぽう)で来たんはお前なんやで、(とおる)。 「俺はちゃんと言うたやん。藤堂(とうどう)さんよりアキちゃんが好きやって、ちゃんと言うたで。せやのにお前は曖昧(あいまい)やねん。誰でもええんとちゃうのか。水煙(すいえん)でも、ワンワンでもラジオでも、お前は誰でもええんやろ?」  それが(にく)いみたいに、(とおる)は焼き(もち)焼いてる顔をして、俺を(にら)んだ。それが何か、ずいぶん(せつ)なそうに見えて、俺は(あせ)った。 「アキちゃんは俺のこと、大したことないと思うてんのやろ。もう、()った魚やしな。(へび)やけど。とにかくもう、(とおる)(ほね)(ずい)まで(たら)()んであるから、(えさ)なんかやらんでええわと思うてんのや。どうせ俺は、ワンワンみたいに可愛(かわい)ないしな、水煙(すいえん)みたいにお高くもないし、アホやし、アキちゃん大好きなエロエロ妖怪(ようかい)ですよ! せやけどラジオよりマシやろ。あいつ藤堂(とうどう)さんまで口説(くど)いとったで。アキちゃんと寝た翌朝(よくあさ)にはもう、他の男なんやで!?」  涙目(なみだめ)なって、(とおる)()えてた。めちゃめちゃ(くや)しそうやった。 「お前、それで(くや)しなって、藤堂(とうどう)さんコースやったんか……」  その光景(こうけい)が目に見えるようやった。もともと未練(みれん)たらたらやった藤堂(とうどう)さんに、湊川(みなとがわ)(こな)かけてるの見て、ブチッと来たんやろ。どうせそんなとこやねん。 「違う! そうやけど……そういう話やない。あいつはな、水煙(すいえん)言うてたけど、乱交(らんこう)する妖怪やで。男でも女でも上でも下でもええねんで。三人でも四人でも十五人でもええねんで!? そんなんが好きなんか、アキちゃん。アキちゃんのおとんに()かせるために、他のと寝てみせるような男なんやで!?」  お前もそうやん?  俺は思わずそうツッコミそうになったけど、我慢(がまん)はしたんやで。  でも、さすがに(とおる)は俺と気心(きごころ)()れてるわ。目を見ただけで、俺が何て言おうとしたか、わかってもうたらしい。それだけで、真っ赤になって怒っていた。 「違う!! 俺はアキちゃんの目の前で藤堂(とうどう)さんとやったわけやないやんか。あいつは目の前でやるねんで。最低やろ!?」  最低かなあ。  俺、今、たぶん、想像したらあかんと思うねん。それでもし、()えるわあみたいな結果が出たら、ヤバいやんか。いろんな意味で。今、(はだか)なんやし。アキちゃん、それもアリかと水地(みずち)(とおる)勘違(かんちが)いしたら悲しいし。  お前はあかんねんで。(とおる)は俺のモンやし。絶対そんなんしたらあかん。(かげ)ですんのも、ほんま言うたら絶対あかん。相手が一人でもあかん。十五人なんか当然あかん。  ラジオやからええねん。(おぼろ)様は俺のモンやないし、泣くの俺やのうて、おとん大明神(だいみょうじん)やしな。ざまあみろ。  それに、なんというか若干(じゃっかん)湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)は俺の心の中で、セクシー系アイドルみたいになってきてる。なんかもう、エロの偶像(ぐうぞう)やから。 「アキちゃんちょっと想像してみろ、ラジオの十五人総受(そうう)けとかを! ドン引きやろ!?」  想像させるな。必死で考えんようにしてんのに。  ()めたらあかん、俺の想像力を。  良かったほんまに、事前やのうて事後の話で。下の人、めって言われるだけやのうて、水地(みずち)(とおる)に殺されてたかもしれへん。二度と悪さできへんように。 「悪い(やつ)やで。昔、軍部(ぐんぶ)(えら)いおっさんとか、ガイジンの接待(せったい)とかともやってたんやで。今はイイ子みたいにしてるけど、元々は男娼(だんしょう)なんやで、あいつは。しかもワールドワイドやで。ナチのゲシュタポとも寝てたんやで。悪い子なんやで、節操(せっそう)なんか耳クソほどもない(やつ)や!! そいつが何で()()ちやねん。キャラの辻褄(つじつま)()うてへん!!」  そんなことない。遊郭(ゆうかく)女郎(じょろう)足抜(あしぬ)けして客と()()ちする話なんか、ようあるネタやで。案外そういう(やつ)()純情(じゅんじょう)やったりするパターンやんか。 「そんなんでもええの……アキちゃん」  つらそうに()いて、(とおる)は苦しいという顔をしていた。 「せやから俺でもええんやな……別に誰でもええんや、アキちゃんは。顔さえ良ければ、(へび)でもナチでも、なんでもええようなキャパの男やから、俺でもええんや。あいつも好きなんか。ラジオも。水煙(すいえん)や犬より好きか。俺より好きなんか。どういう順番になってんの、アキちゃんの中で…………俺って、何番目?」  くよくよ言うて、(とおる)はほんまに(くや)しいみたいに、眉間(みけん)()せた(しわ)を、俺の胸に(ひたい)をくっつけて(かく)していた。

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