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23-16 アキヒコ

「なんで水煙(すいえん)が一位やねん。どのパターンでも……」 「何か、そうかなぁと思って。アキちゃん、あいつが自分好みの姿に変転(へんてん)して、さらに()()えなんやろ。水煙(すいえん)様、もう無敵(むてき)やろ」  俺より好きかと、悲しいような悋気(りんき)の顔で、(とおる)は俺が、そうやと答えるものと、信じて(おそ)れてるような顔をしていた。  その顔は、なんとなく、俺に水煙(すいえん)連想(れんそう)させた。  あいつはいつも、そういう顔をしてる。(りん)として(ほこ)り高いけど、でも臆病(おくびょう)そうな太刀(たち)や。戦う前から負けてるみたいな。  あいつも、おとんに言うてみればよかった。(とおる)みたいに。瑞希(みずき)みたいに。俺のことを一番に(おも)うてくれ、(はな)さんといてくれって。  そしたら、おとんは(こま)ったやろけど。俺が(こま)ったように、死ぬほど(なや)んで地獄(じごく)みたいやったやろけど、でも、それくらい(こま)らせてやればよかってん。理解してやったりせず。  湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)も、一度は駄々(だだ)をこねている。俺と()()ちしろと(せま)って。  おとんは(こま)ったやろう。水煙(すいえん)か、あいつか、選ばなあかんようになってもうて。  どっちとも(うま)いこと付き合うていきたいというのが、ずるい男の本音(ほんね)やったやろ。  そんなずるい男、めちゃめちゃ駄々(だだ)こねて、死ぬほど(なや)ませてやったらええねん。それで因果応報(いんがおうほう)や。  水煙(すいえん)駄々(だだ)こねへんのは、たぶん、亜里砂(ありさ)が俺に唯々諾々(いいだくだく)の女やったのと同じ理由やねん。(さか)らったら(きら)われると思いこんでんねん。駄々(だだ)こねたら愛してもらわれへんと思うてる。  でも別に、そんなことはないと思うよ。  はいはい、亜里砂(ありさ)やのうて(せい)トミ子。俺はあいつの事も、付き()うてた時にはもちろん好きで()れてたけども、でも、もしかすると今のほうが好きかもしれへん。  怒鳴(どな)って俺を(ののし)って、泣きべそかいてた時のほうが、実を言うたら可愛(かわい)いと思う。顔、無かったけどな。  そのほうが、人間味(にんげんみ)があるやん。お人形やのうて。ちゃんと心のある一個の人間やねんから。  いや。人間やないか。天使か。その前は黒猫で。その前は死体に()いてる自縛霊(じばくれい)やったけど。  ええと。とにかく、お人形さんみたいな愛され方やと、ほんまには幸せになられへんのと違うか。  やっぱ、どっか(みにく)いくらいでないと、手応(てごた)えがないんや。  まあ、そんなこと思うようになれたというのは、俺も多少は成長したということか。  亜里砂(ありさ)喧嘩(かんか)して、キレて、別れて、やけ酒飲んでた去年のクリスマス・イブから、遠いような近いような波瀾万丈(はらんばんじょう)の道のりやった。まだまだお子ちゃまやけども、俺も前進はしてる。  よかったなあ。もう死ぬかっていう時に直面(ちょくめん)して、キレて(あば)れる餓鬼(がき)のままやのうて。  それもこれも、水地(みずち)(とおる)大明神(だいみょうじん)のお(かげ)やと俺は思うてる。もちろん他の皆々様(みなみなさま)のお陰様(かげさま)でもあるけども、(とおる)がいいひんかったら、俺には無理やったやろ。  だって俺は、いつもこいつのために頑張(がんば)ったり()えたりしてた。(とおる)が俺のツレでなければ、きっと何も頑張(がんば)ってへんかったやろ。  だって、しんどいもん。  俺、(あま)えん(ぼう)のボンボンやしな。努力できひん。努力なんかしたことないもん。  勉強もスポーツも、努力しいひんでも何でもできたし、顔もええし背も高いんやで。食いモンに好き嫌いないし、アレルギーもあれへん。持病(じびょう)もない。めちゃくちゃ健康優良児(けんこうゆうりょうじ)で、家は金持ちやし、おかんは美人や。女にもめちゃめちゃモテたしな。ほんまに、思い返せば、愚痴(ぐち)らなあかんようなつらいことなんて、なぁんもない人生やったわ。  今もないんかもしれへん。別にない。  つらいことがない人生なんか無い。皆、何かに()えて生きている。  その中で、自分の(つと)めを果たしてる。誰かを守ったりしてる。  それが大人の一生や。俺もそうして生きていくことに変わりはあれへん。  その上で、俺には(いと)しい俺のツレ、水地(みずち)(とおる)大明神(だいみょうじん)がいるわけやから、ほんまに幸せな男やで。ありがたや、ありがたや。  でも、それ、本人に言うとかなあかん?  言わなあかんかなあ……。  言わなあかんのやろなあ。  (いや)やわあ、()ずかしいやんか。言いたくない。  もう言うたやん。お前は別格(べっかく)やって。それで終わりにしよ?  ああもう、何で水煙(すいえん)が一位と思うんやなんて、()かんかったらよかった。また話がループしてもうた。  無限(むげん)ループやったらどうしよう。ハメられてるんとちゃうか、俺。エロエロ妖怪の、俺に()ずかしいことを言わせて(よろこ)羞恥(しゅうち)プレイに。  そういうのもあるからな、(とおる)のレパートリーには。ほんま(なさ)けない……。 「水煙(すいえん)の、今の姿(すがた)は、しょせん俺の絵やんか。俺の想像を(ぜっ)してへん。そやけど(とおる)、お前はな……いつも俺の想像を()えてるから。先の見えへん絶叫(ぜっきょう)マシーンやから。俺はもう、それにハマってもうてるから。無敵(むてき)なのは、水煙(すいえん)やのうて、お前のほうやで」  一応そう言うといた。  でもそれはちょっと、リップサービス入ってたかもしれへん。ここだけの話。  ほんま言うたら俺の中では順位(じゅんい)はないんや。誰か一人と選択を(せま)られれば、(なや)余地(よち)なく(とおる)やねんけど、それは俺にとって(とおる)のほうが、水煙(すいえん)よりイケてるという意味やない。  怒られるんやろなあ、そんなこと言うたら。  でも、神様に優劣(ゆうれつ)はないよ。たとえ、ちっぽけな鉛筆削(えんぴつけず)大明神(だいみょうじん)でも、神は神や。大事(だいじ)にせなあかん。  どっちの神が(えら)いかなんて、そんな話したらあかん。戦争なってまうからな。  片方が神で、もう片方が(おに)になってまう。そんなんあかんねん。どっちも(とうと)い神さんやねん。

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