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23-26 アキヒコ

 え。誰やったっけ。(わす)れたわ。と俺は言いたい。でも(うそ)やし言えない。 「湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)」 「なんでラジオが電話してくんねん!」 「なんでって……心配してくれたらしいわ、俺のこと」 「それは(なか)がよろしいなあ!!」  めっちゃ怒鳴(どな)ってたわ、水地(みずち)(とおる)。  でも、俺、なんか悪いこと、した? 怒られなあかんような事、なんかしたっけ?  電話かけたの、俺やないで。向こうがかけてきたんやで。俺はそれに出ただけなんやで。 「何を親しげに甘え声出しとんねん、アキちゃん。そんなん俺か、せいぜい水煙(すいえん)までにしろ。俺の見てる前で、平気でラジオといちゃつくな。ぶっ殺すぞテメエ」  めっちゃめちゃ怒ってるわ、水地(みずち)(とおる)。俺はビビって硬直(こうちょく)していた。  その(わり)(とおる)はすぐふにゃふにゃになって、ベッドに丸くなって両手で顔を(おお)ってた。  うわあ、泣かんといてくれ。なんで泣いてんのやお前。まさか泣いてんのか? 「いちゃついてへんやん……ただ電話で話しただけやんか?」  まだ(はだか)のままで、ごろんと寝てる(とおる)の背中をごしごし()でて、俺は()てて(なぐさ)める口調になっていた。まったく、また修羅場(しゅらば)やで。 「ほんまに俺が別格(べっかく)なんか? 畜生(ちくしょう)……。アキちゃんのアホ。すまんと思うてるんやったら、ごめんなさいのキスをしろ!」  すまんと思う必要あるのか確信(かくしん)ないけど、しゃあないので俺は(とおる)にキスをした。(とおる)はめそめそ抱きついてきて、正直ちょっと可愛かったけど、いちゃついてる場合ではなかった。  バアン、て蹴破(けやぶ)るようにドアが開く音がした。 「どこや、暁彦(あきひこ)様!! クソでもしてんのか!」  とにかく、言うてることに(ひん)はないけど、上品(じょうひん)みたいな美声(びせい)やった。間違いない。ラジオが来たんや。  めっちゃ早い。どこから電話してて、どんな近道通ってきたんやろ。  ずかずか(ゆか)()んでくる、大股(おおまた)の足音がして、でかいベッドを居間(いま)から(かく)(かざ)(かべ)の向こうから、すらりとした細身(ほそみ)の長身が現れた。もちろん、激怒(げきど)してますみたいな美貌(びぼう)を乗っけて。  そして湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)は、()(ぱだか)(とおる)と抱き合っている俺を、じろじろ見たわ。ものすご見た。 「俺にもやらせろ。一発()いて三時間ぐらい寝たいわ」  まさか俺を(ねら)ってるわけやないやろう。(とおる)のほうやろう。  それもやめてくれ。俺のツレがラジオに(おか)される!  ぎょっとしたように、(とおる)(やつ)()り返っていた。 「お……お前、両刀(りょうとう)なんやっけ」 「そうや。俺は両方いける。上でも下でも、ええ仕事するで。そいつよりテクニック的には確実(かくじつ)に上や!」  そいつ呼ばわりされた。指まで指された。俺がご主人様やのに。 「三人がかりで寛太(かんた)気絶(きぜつ)するまでやったことあるで。お前もしたろか!?」 「やめて言わんといて悪魔の誘惑(ゆうわく)すぎる!! 有害(ゆうがい)な放送電波や!」  耳を(ふさ)いで、(とおる)は俺の胸でじたばたしていた。  (とおる)。お前という(やつ)は。(うらや)ましいんか!  そんなお前がどうやって、このラジオを(ののし)れるんや。どう見ても気が合いそうやないか。どう考えても瑞希(みずき)水煙(すいえん)より気が合うタイプやないんか! 「いくじなし! てめえの調教(ちょうきょう)がヌルいから、先生、へったくそやないか。いくのに三十分もかかったわ!」  湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)は、今度は(とおる)怒鳴(どな)ってた。  お前も時間(はか)ってたんか!?  普通(はか)ってるもんなんか!?  ていうか、そんな話いきなり暴露(ばくろ)せんといてくれへんか!?  (とおる)、口開いたまま、愕然(がくぜん)みたいな顔なってきてるやないか。殺されるの俺なんやぞ。 「そ……そんなことないもん。アキちゃん、めちゃめちゃ上手(じょうず)やで?」 「お前ちょっと淫魔(いんま)気味なんちゃうか? 話聞いてて思うけど。そんなチョロい体やめとけ。入れときゃええわみたいなヌルい体やから、ナメられんねん。難度(なんど)も味のうちや! お前も外道(げどう)なんやったら、もっと相手が悶絶(もんぜつ)するような複雑怪奇(ふくざつかいき)なことをしてやれ」 「えっ、たとえば……?」  真面目(まじめ)に聞いてる。言いながら歩いてくる湊川(みなとがわ)を見上げて、正座みたいになってる、水地(みずち)(とおる)。話し込むな、(つま)(めかけ)で。 「あのな、湊川(みなとがわ)」  俺は一応、口を(はさ)んだ。でも、うるさいなみたいに(とおる)に顔を押しのけられた。  湊川(みなとがわ)は、よいしょとベッドに座ってきて、優雅(ゆうが)に脚を組み、()(ぱだか)のままの(とおる)に、ひそひそ耳打(みみう)ちしてやっていた。  それを聞きつつ、(とおる)はくすぐったいみたいに、もそもそ落ち着き無かったけども、やがて()ずかしそうにくすくす笑った。 「ええー……それはちょっと()けモンすぎへんか?」 「ええのええの。それぐらい()けモン地味(じみ)てるほうが燃えるから。ところで今夜、(ひま)?」  にこにこ口説(くど)く笑顔と口調で言うて、湊川(みなとがわ)はシャツの胸ポケットから煙草(たばこ)を取り出し、火をつけた。 「ええー……って、俺、アキちゃんのツレやしな」  (とおる)はなんでか、口説(くど)かれてもじもじしていた。  (うれ)しいのか。何やってんの、お前。ラジオやで。それが、お前がさっき(ののし)っていたラジオや。気がついてるか? 「ほな三人でしよか。今から先生と俺と、二人がかりで、お前のこと、十回くらいいかせよか? マジで死にそうなるで? ほんまに死んだら、どうしよか?」  ふわあっと甘い煙を()いて、湊川(みなとがわ)はにっこりと(とおる)()いた。  そして二人は、あははははー、と(なご)やかに笑った。  まさか合意(ごうい)ってことはないよな。俺は(いや)やで。一応(いや)や。たぶん(いや)やと思います。

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