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23-31 アキヒコ

「なんもしてへん、血()うただけ。式神(しきがみ)なるし、給料代わりやで。お前ももらえば? 精力(せいりょく)足りてへんやんか。別に抱いてもらわれへんでも、血飲めばええんやで。つまらへんけどな?」  たぶん親切で言うてんのやろけど。湊川(みなとがわ)。  にこにこ余裕(よゆう)の笑顔で言われ、瑞希(みずき)は顔真っ青やったのに、見る間に真っ赤になっていた。  でも、()れてるわけやないと思う。怒ってんのやろ。()ずかしかったんやろけど、でも頭に来てもいる。図星(ずぼし)やったし、そんなん言われたくないよな。  すんません。全部俺が悪いです。先輩ありえへんから。殺してええから。地獄(じごく)()ちろやから。全部その通りです……。 「吸わへん……血なんか。そんなん、外道(げどう)そのものやないか!」 「外道(げどう)そのものやもん」  必死で(わめ)いている瑞希(みずき)に、けろっと(おう)じて、湊川(みなとがわ)は、なぁ? みたいに小首(こくび)(かし)げて、いかにも親しげに(とおる)に同意を求めていた。  でも(とおる)は、話()らんといてくれみたいに、ブルブル首()って(こば)んでた。巻き込まれたくないよな。  俺も(いや)やわ。できれば修羅場は嫌や。  せっかく(へび)VSラジオは奇跡的(きせきてき)回避(かいひ)されたのに。結局、犬VSラジオでアキちゃん血まみれになるんや。 「格好(かっこう)つけんでええやん。我慢(がまん)しすぎて人食うてまうよりマシやで。本間(ほんま)先生の血()うの()ずかしいんやったら、別に(げき)やのうてもエサはやれるで。俺でもやれるし、信太(しんた)夏場(なつば)は食い放題(ほうだい)やしな。冬場(ふゆば)冬場(ふゆば)でかき氷がおるわ。寒いけどなあ」  あっはっはと笑って言うて、ねえ先生て、湊川(みなとがわ)は今度は俺を巻き込んできた。  ねえ先生やないから。俺の口から言うたら鬼すぎるから。  お前ほんまに俺の話ちゃんと聞いとったんか。理解してんのか。しててもこれか、湊川(みなとがわ)。 「抱いたろか。()えてんのやったら」  首を(かし)げて、湊川(みなとがわ)はそれが、何でもないことみたいに()いた。  俺にもそんな態度(たいど)やったわ。やるか、やらんのか、俺はどっちでもええけどみたいな、(よく)があるのかどうか、よう分からんような、(さば)けた感じで。  俺にはそれが気楽(きらく)やったけど、でも瑞希(みずき)にとっては腹立つだけやろ。馬鹿にされてるとしか思えへんやろ。  湊川(みなとがわ)にはそんな悪気はないんやろけど。むしろ親切心なんかもしれへんのやけど。こいつちょっと邪悪系(じゃあくけい)入ってるからなあ。  瑞希(みずき)末期的(まっきてき)にワナワナしていた。好き勝手に喧嘩(けんか)できるんやったら、もう(なぐ)ってる。変転(へんてん)して飛びかかってる。そんな感じやったし、俺ははらはらしてたけど、忘れてたんや。  こいつも俺の(しき)やから、戦うのにも主人の命令がいる。()して相手も俺の(しき)やし、一種の財産(ざいさん)やからな。勝手にはドツキ(たお)されへんのや。 「……死ね!」  めっちゃ憎いみたいに、瑞希(みずき)はそれだけ()台詞(ぜりふ)()いていた。でも、顔を(おお)って()えてる姿(すがた)やった。  そういえば、俺はこいつにエサやってない。実はもともと、戻ってきた時点で腹ぺこやったんやないか。しんどそうやったもん。  なんで気がつかんかったんやろうか。(とおる)が元気ないときに、どうすりゃええか、よう知ってるはずやのに。 「言われんでも、もうすぐ死ぬよう。ざまあ見ろやろ? なあ、先生」  可笑(おか)しそうに、くつくつ笑って、湊川(みなとがわ)は新しい煙草(たばこ)に火をつけていた。  モク中やなあ、こいつ。信太もそうやし、二人で居るとひっきりなしに()うてる感じなんやろなあ。きっと、そんな悪い影響(えいきょう)で、不死鳥(ふしちょう)まで煙草(たばこ)()うんや。 「その(けん)やけど……」  今言うような事やろか。でも、せっかく話題に出たし。言うなら早う言うてやらんとと、俺は思った。 「お前はもう、()(にえ)行かんでええしな……」 「なんでや。信太(しんた)か? あんなん、言うてるだけや。俺にも電話してきよったけどなあ、(あま)ってんのが死ぬのが合理的(ごうりてき)やで。アホか、お前のためやない、寛太(かんた)が好きやねんて言うといてやった。そしたら(だま)ってたで?」  くすくす皮肉(ひにく)に笑って、湊川(みなとがわ)は俺の話を押しのけていた。  電話したんや、信太(しんた)。なんでしたんや。最後にええ格好(かっこう)したかったんか。アホみたい。  けど俺も、ある意味そうかもしれへん。俺の代わりに死んでくれとは、格好(かっこう)悪うて(たの)みたくない。俺が()くからって、ええ格好(かっこう)したいだけなんやないか。  せやけど、どうせ男なんて、そんなもんやで。モテたいだけ。格好(かっこう)ええなあって思うてもらいたいだけ。  それで俺のこと、ずうっと(おぼ)えておいてくれって、必死になってるだけ。  本能(ほんのう)やねん、たぶん。自分が犠牲(ぎせい)になってでも、(いと)しいものを守れたら、それで本望(ほんもう)と思うのは。腹減ったら飯食うのと同じ。 「いや、信太(しんた)も違う。心配せんといてくれ。俺が(たの)んだことは、もう忘れてくれてええから。変なこと(たの)んで、悪かったな」  ()びを入れてる俺の顔を、じいっと見て、湊川(みなとがわ)煙草(たばこ)()うてた。ふうっと()き出される(けむり)文様(もんよう)が、ゆらゆらたなびいてきて、俺の胸に当たって(みだ)れた。 「ふうん。()かんでええなら、別に生きとくけど……」  もう一息、香炉(こうろ)(けむり)(にお)いがする煙草(たばこ)()って、湊川(みなとがわ)はちょっと、考えているふうやった。 「でも、信太(しんた)はマジやで。あいつのアホは、死なんと直らへん。神として、(たみ)(すく)って死ぬんでなきゃ、生きてる意味ないと思うてる。負け犬ならぬ、負け(とら)や。自信がないねん。お前は俺を愛してへんて、そればっかり言うてる。それは自分にそれだけの価値がないからやと思うてんねん」

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