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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-2 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-2 トオル
作者:
椎堂かおる
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24-2 トオル
勝呂
(
すぐろ
)
瑞希
(
みずき
)
は
宙
(
ちゅう
)
ぶらりんやった。
堕天使
(
だてんし
)
なんやで。
地獄
(
じごく
)
の
眷属
(
けんぞく
)
や。せやから
人界
(
じんかい
)
に
留
(
とど
)
まるよりは、いっそ
素直
(
すなお
)
に
地獄
(
じごく
)
に戻って、そこで誰か、名のある
悪魔
(
サタン
)
か
悪鬼
(
ジン
)
にでも
仕
(
つか
)
えることにして、ご主人様から
漲
(
みなぎ
)
る
邪悪
(
じゃあく
)
なエナジーを
注
(
そそ
)
ぎ込んでいただけばええわけですよ。
可愛
(
かわい
)
い犬や、ご主人様かて、別に
嫌
(
いや
)
とは言わへんやろ。冷たい黒い血と
密
(
みつ
)
で、
養
(
やしの
)
うてくれる。 せやのに、あいつは
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
な犬やねん。それは
嫌
(
いや
)
やと言いやがる。 とっくに
純白
(
じゅんぱく
)
の
羽根
(
はね
)
も抜け落ちて、神聖なる
天使
(
エンジェル
)
ではなくなったというのに、
未
(
いま
)
だに
綺麗
(
きれい
)
なつもりでおるわ。 もう
罪
(
つみ
)
は
償
(
つぐな
)
ってきた。俺はもう、
悔
(
く
)
い
改
(
あらた
)
めた。鬼やない。血なんか
啜
(
すす
)
らへん。人も食わん。前にそれで、
本間
(
ほんま
)
先輩に
嫌
(
きら
)
われてもうた。お前は鬼やって、
斬
(
き
)
られて死んだんやしな。それはあいつの
精神的外傷
(
トラウマ
)
やねん。 気の毒やなあ。
未
(
いま
)
だにその傷が
疼
(
うず
)
くんやろう。 けど、アキちゃんかて今や
外道
(
げどう
)
や。血を
吸
(
す
)
うぐらい何でもないわ。 だって自分も
吸
(
す
)
うんやもん。俺が
吸
(
す
)
うても平気やし、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
にも
吸血
(
きゅうけつ
)
を許してやっていた。 せやし
可愛
(
かわい
)
いワンワンが、腹が
減
(
へ
)
った血をくれと、くんくん鳴いて求めれば、アキちゃん、
嫌
(
いや
)
やとは言わへんわ。誰にでも
優
(
やさ
)
しい男やし、犬には
未練
(
みれん
)
があるんやからな。
吸
(
す
)
えばええねん。アキちゃんの血を。
飢
(
う
)
えに
飢
(
う
)
えて、また抱いてくれとゴネられるよりは、いっそ普通に血
吸
(
す
)
うといてもらいたい。俺としてはな。 それに人食うてもマズい。
振
(
ふ
)
り出しに戻ってまうやんか。 ほんま学習せん犬や。パブロフ博士の犬を見習え。
犬種
(
けんしゅ
)
が違うからあかんのか。アホか、
地獄
(
じごく
)
の
猟犬
(
りょうけん
)
は。
空
(
す
)
きっ
腹
(
ぱら
)
抱
(
かか
)
えて
意地
(
いじ
)
張
(
は
)
って。
我慢
(
がまん
)
もええけど、それで死んだらアホやんか? 俺はそれでもええけどさ、アキちゃんはまた、悲しくなるやろ。
可愛
(
かわい
)
い犬が
餓死
(
がし
)
してもうたなんて、それはあんまり
悲惨
(
ひさん
)
やで。
惨
(
みじ
)
めやわ。 「お前、腹
減
(
へ
)
ってんのとちゃうの?」 いかにもフラフラみたいな青い顔色で、ぼけっとソファに座っている犬を見て、俺はシャワーから出てきたバスローブ
姿
(
すがた
)
のまま、ごしごしタオルで
髪
(
かみ
)
を
拭
(
ふ
)
いていた。 いっぱい
汗
(
あせ
)
かいちゃったから。
亨
(
とおる
)
ちゃん、めちゃめちゃ
汗
(
あせ
)
かくくらいアキちゃんと
悶
(
もだ
)
えちゃったから。お
風呂
(
ふろ
)
入ってきたの。身だしなみやろ。 そのことは
敢
(
あ
)
えて、犬に言うたりせえへんよ。でも見れば分かるやろ。自分が
居
(
お
)
らん間に、アキちゃんが俺と何しとったか、アホやないなら分かるはず。 口に出しては
悔
(
く
)
やまんけども、
瑞希
(
みずき
)
ちゃん
誤解
(
ごかい
)
しとったんやないか。アキちゃんがラジオともやったんやないかって。 血
吸
(
す
)
うただけなんやけど、ラジオは何や
妙
(
みょう
)
にエロくさい
奴
(
やつ
)
やしな。だらんとベッドに座ってたりすると、あたかも一発やった後みたいやねん。 しどけないんや、普通にしてても。その上ちょっと、
酔
(
よ
)
っぱらってたみたいやったしな。たぶんアキちゃんの血に
酔
(
よ
)
うてもうてたんやろ。 なまじな酒よりガツンと来るわ。 あの
妙
(
みょう
)
な、でかい力の
奔流
(
ほんりゅう
)
のようなのが、地下から
吹
(
ふ
)
き上げてきたのにどつかれてから、アキちゃんはなんか目覚めてもうたらしい。 血の中に混じる、
天地
(
あめつち
)
の
精気
(
せいき
)
が、ハンパねえ
濃度
(
のうど
)
になってた。ものすご
美味
(
うま
)
い。ちょっと
舐
(
な
)
めたら止まらんようになってもうて、今はお腹いっぱいで別に
要
(
い
)
らんはずやのに、
吸血
(
きゅうけつ
)
は
別腹
(
べつばら
)
みたいに、てんこもり
吸
(
す
)
うてもうた。
止
(
や
)
められない
止
(
と
)
まらないやで。ほんまにもう、カッパえびせん状態。まったくもう、こんなに食うててええかしらみたいな、幸せいっぱい、
満腹感
(
まんぷくかん
)
。 ラジオも必死で食うてたわ。よっぽど
美味
(
うま
)
かったんやろ。腹
減
(
へ
)
ってへん
奴
(
やつ
)
らでも、そんなんやねんから、アキちゃんの血の
臭
(
にお
)
いが、
飢
(
う
)
えてる犬にはどんだけ
美味
(
うま
)
そうに思えたやろか。 それを
我慢
(
がまん
)
できるというんやから、こいつ絶対、
変態
(
へんたい
)
なんやで。
我慢
(
がまん
)
プレイやで。それが気持ちええんやとしか思われへん。 俺なら
我慢
(
がまん
)
できるわけないもん。アキちゃんが
嫌
(
いや
)
やて言うても絶対食いつくわ。お願い、ちょっとだけって
可愛
(
かわい
)
くお
強請
(
ねだ
)
りして。がっつり食うで、腹が満ちるまで。 「なんで
吸
(
す
)
わへんのや。俺に
遠慮
(
えんりょ
)
してんのか。血吸うぐらいは
大目
(
おおめ
)
に見たるで。
飢
(
う
)
え
死
(
じ
)
にされたら気ぃ悪いからな」 せっかく
亨
(
とおる
)
ちゃんが親切に言うてやってんのに、犬は俺を
無視
(
むし
)
してた。俺とは口きかへんと決めてるみたいに、ソファでがっくり
項垂
(
うなだ
)
れて、何か考え込んでいた。 まあ、ええか。
喋
(
しゃべ
)
りたくないなら。俺かてワンワンとお
喋
(
しゃべ
)
りしたい
訳
(
わけ
)
やない。ただ、
黙
(
だま
)
ってると
間
(
ま
)
が
保
(
も
)
たんなと思うただけや。 お前がそう来るんやったら、俺かて
無視
(
むし
)
したろと思て、俺は気にせず
身支度
(
みじたく
)
をした。服を着て、
髪
(
かみ
)
の毛
乾
(
かわ
)
かして、そして水を飲む。 ごくごく飲んでる
喉
(
のど
)
の音が、自分でも気まずいくらい、はっきり聞こえた。そんな
沈黙
(
ちんもく
)
やった。 「なあ。
瑞希
(
みずき
)
ちゃん。なんか言うたら?
愛想
(
あいそう
)
ない犬やなあ、お前は……」 むすっと青い無表情の、
可愛
(
かわい
)
げのある顔立ちを
眺
(
なが
)
め、俺は差し向かいのソファに、
水
(
エヴィアン
)
の入ったバカラのグラスを片手に、
敢
(
あ
)
えてでかい
態度
(
たいど
)
でふんぞり返ってみた。 もちろん
極
(
きわ
)
めて
優雅
(
ゆうが
)
っぽく。 けど、それは、かつて俺が
偉大
(
いだい
)
な神やった
頃
(
ころ
)
のようにではない。
藤堂
(
とうどう
)
さんのところで、
邪悪
(
じゃあく
)
な
蛇
(
へび
)
やった時のようにや。
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椎堂かおる
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