fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 24-4 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-4 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
426 / 928
24-4 トオル
瑞希
(
みずき
)
ちゃんやったら、やるやろなあ。先輩
逝
(
い
)
くなら俺も
逝
(
い
)
くって、死んでみせるやろう。
一遍
(
いっぺん
)
やったんや、二度目なんやし、前より
慣
(
な
)
れてるくらいやで。
経験者
(
けいけんしゃ
)
やもんな。 「ついていったら、あかんのか」 むっと
身構
(
みがま
)
えた固い表情で、犬は俺に
訊
(
き
)
いてきた。あかん言われたら、どうしようかって、まるで俺もご主人様二号みたいな、そんな顔色の
伺
(
うかが
)
い方をしてた。 「知らん。アキちゃんに
訊
(
き
)
いてくれ」 笑って、俺はそう答えた。俺のツレはほんまに、どうしようもない男やで。時々俺の想像を
超
(
こ
)
えてくる。愛しい俺と
連
(
つ
)
れ
立
(
だ
)
って、
鯰
(
なまず
)
様に食われようという時に、犬も連れてく言うかもしれへん。 どこの世界に、これからツレと
心中
(
しんじゅう
)
しようという男が、ついでに
浮気
(
うわき
)
相手の
可愛
(
かわい
)
いワン公も連れてったろかという話があるんや。
訳
(
わけ
)
わからへん。 それでもアキちゃんやったら、やるかもしれへんやんか?
訊
(
き
)
かんと分からへん。あいつがどういうつもりで
居
(
お
)
るかは。 「先輩は、俺と二人で
逝
(
い
)
くって言うてた。それでいいって」 俺とは目を合わせずに、
悔
(
くや
)
しそうに言うて、犬はもじもじ自分の
膝
(
ひざ
)
を
掴
(
つか
)
んでた。まるでもっと小さい
餓鬼
(
がき
)
んちょが
駄々
(
だだ
)
こねてるみたいやった。 「それはアキちゃんが、俺と
直談判
(
じかだんぱん
)
する前の、古いバージョンやろ。もうチャラやで、その
企画
(
きかく
)
。お前もそこで聞いとったやないか」 俺がアキちゃんと
心中
(
しんじゅう
)
を決意した、その瞬間にも座っていた場所に、
瑞希
(
みずき
)
ちゃんは座っていた。あの時は
驚
(
おどろ
)
いてたけど、今はもう、どっぷり
沈
(
しず
)
んでもうたような暗い顔や。 「結局、お前が勝つんやな」 「そらそうや。それがお
約束
(
やくそく
)
。
世間
(
せけん
)
のルールやで、犬。しっかり
憶
(
おぼ
)
えときや」 悲しげにぼやく犬に、俺は笑って答えてやった。どうも、
苦笑
(
にがわら
)
いやった。 もう
喧嘩
(
けんか
)
したないねん。俺にはそんな気力がない。俺の
生涯
(
しょうがい
)
、いつも
修羅場
(
しゅらば
)
やったで。戦争に、政争に、
悪魔狩
(
あくまが
)
り。金の
絡
(
から
)
んだ
骨肉
(
こつにく
)
の争い。そして必死の
痴話
(
ちわ
)
ゲンカ。
命汚
(
いのちぎた
)
い
爺
(
じじい
)
の
執念
(
しゅうねん
)
。そんなんばっかり。もう
嫌
(
いや
)
やねん。 アキちゃんとこに来て、やっとで
安
(
やす
)
らいだと思ったら、この犬が現れて、それからまた
修羅場
(
しゅらば
)
やないか。もう、ええかげんにせえよ。俺かて、長い一生の終わりの一日二日くらいは、平和に楽しく
過
(
す
)
ごしていたいわ。さらば
愛
(
いと
)
しき
人界
(
じんかい
)
の日々の、最後の
名残
(
なごり
)
を
惜
(
お
)
しみたい。 「お前はええかもしれへんよ、それで」 ぽつりと犬は
非難
(
ひなん
)
した。なんやねん、もう。まだ言うか。当たり
障
(
さわ
)
りのない
世間話
(
せけんばなし
)
とかでけへんのか。
水煙
(
すいえん
)
でさえ、それくらいするで。あいつもあれで最近、俺にはけっこう
気安
(
きやす
)
いからな。 「俺も
冷静
(
れいせい
)
になって考えてみたんやけど、やっぱり、死ぬのはあかんのと
違
(
ちが
)
うか? お前が死ぬのは好きにすりゃええけど……先輩はまだ若いんやし……絵の才能かてあるのに……」 なに言うとんねん犬。お前がアキちゃんに
地獄
(
じごく
)
に
堕
(
お
)
ちろて言うてたんやないか? 絵描かれへんでも知ったことかて言うとったんやで。忘れたんか。 俺はそういう、ポカーン
顔
(
がお
)
したんやろな。犬は決まり悪そうに、
視線
(
しせん
)
を
彷徨
(
さまよ
)
わせて
床
(
ゆか
)
を見た。俺はしょうがなくて、
上
(
うわ
)
ずり声で返事していた。 「若いんやし、って……お前……はぁ? て言うてもええですか? 死んで一緒に
地獄
(
じごく
)
逝
(
い
)
け言うとったの、どこのどなたさんでしたっけ?」 「俺やけど……」 さらに気まずそうになって、犬はもじもじ自分の指を
握
(
にぎ
)
り合わせていた。白い指の、
案外
(
あんがい
)
小さい手やった。 「俺、ちょっと、テンパってもうてた」 「お前がテンパってもうてない時を見たことがない」 俺は
断言
(
だんげん
)
してやった。だってそうやろ。俺はそうやで。
平常心
(
へいじょうしん
)
の犬なんか見たことない。いつもキレてる。キレまくっている。それか必死や。思い
詰
(
つ
)
めてる。
正気
(
しょうき
)
の時なんか知らんのや。 だからこれが、俺が正気の
瑞希
(
みずき
)
ちゃんを見る、記念すべき最初の
瞬間
(
しゅんかん
)
やった。 犬は
我
(
われ
)
に
返
(
かえ
)
ったらしい。俺とアキちゃんのあまりに深い愛を
目
(
ま
)
の当たりにして、
度肝
(
どぎも
)
を
抜
(
ぬ
)
かれ、これはあかんと
悟
(
さと
)
ったんやろか。 俺にはもう勝ち目はないわと、とうとう理解できたか。
頑張
(
がんば
)
ったなあ、犬。えらい。ようやった。ごほうびにビーフジャーキーやろか? 「あかんねん……俺はすぐ、ビビってもうて。思い
詰
(
つ
)
めすぎるって、先輩にも怒られたしな。確かにそうやわ。頭
沸
(
わ
)
いてて、まともに考えられてへんかった」 「……まあ、しゃあないんと
違
(
ちが
)
うか。恋してんのやから」 言いたくないけど、
励
(
はげ
)
ましといた。しゃあない、それは事実やしな。アキちゃん
盗
(
と
)
るのは殺すけど、でも、アキちゃん好きやて思うことも、あかんと禁じるわけにはいかへん。 それは自由や。人でも人でなしでも、誰か好きになる心は、止められへん。たとえ相手に嫌われてても、それだけはしょうがないやろ。それが愛とか恋とかの、つらくて苦しいところやないか?
瑞希
(
みずき
)
ちゃんは、
黙
(
だま
)
って
居心地
(
いごこち
)
悪そうに
眉間
(
みけん
)
に
皺
(
しわ
)
を
寄
(
よ
)
せてるだけで、うつむいたまま、ノーコメントやった。どうも
恥
(
は
)
ずかしいらしいで。 なにが
恥
(
は
)
ずかしいの。お前がアキちゃんに恋しちゃってることなんか、もう皆知ってるで。俺も
勿論
(
もちろん
)
知ってるし、皆も知ってるやんか? 全部
喋
(
しゃべ
)
っといてやったしな。バレバレや。バレてへんと思うほうが変やで。
前へ
426 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧