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24-6 トオル

 言うても俺、(かしこ)かったんやなあ。学校には行っておりませんが、古代の生まれでラッキーやった。  昔の人類は、産んだ神様や(もの)()には、ちゃんと責任とっていた。そういうもんがいると信じてくれたし、イケてる神なら、(あが)(たてまつ)ってくれた。  俺は自分が人間やと勘違(かんちが)いしたことはない。明らかに人外(じんがい)不思議(ふしぎ)不思議(ふしぎ)(とおる)ちゃんやしな、その事実を否定しようと思ったことはない。  ついていけてる、自分には。一応な。 「瑞希(みずき)ちゃん……もっと、ありのままの自分を(みと)めたら? 犬やねんし。外道(げどう)やねんしな? それでも別に、アキちゃんに嫌われたりは、せえへんで。むしろ外道(げどう)ウェルカムなんやから、あいつは」  そういう家の子やねんで。俺はかいつまんで、ざっくり説明してやったよ。前には俺が、アキちゃんのおかんから、ちびちび話して聞かされたような事。  秋津家(あきつけ)は代々、巫覡(ふげき)を出してる鬼道(きどう)名門(めいもん)で、神を(まつ)って、(しき)(したが)え、悪い鬼さんは退治(たいじ)する、そういう血筋(ちすじ)なんやと。  神威(しんい)によって守られているけども、神やら名も無き怪異(かいい)やらを我が家に()ませて、身内のモンとしてお守りするのも、つとめの一つなんやで。  妖怪(ようかい)シェルターなんや、アキちゃんの実家は。蔦子(つたこ)さんちもそう。  もしかしたら、大崎(おおさき)先生の会社もそうなんかもしれへん。(きつね)秋尾(あきお)がそんなこと言うとったで。会社の社員にも、人でないのがいてるって。  大崎(おおさき)先生の会社の社屋(しゃおく)に、夜中、(きつね)の火がぼやあっと(とも)ってても、そんなんで(おどろ)いたらあかん。  その会社の会長の、ヘタレの大崎(おおさき)(しげる)ちゃんは、ほんまやったらすぐ死ぬはずの、虚弱(きょじゃく)で、異形(いぎょう)の目ぇした赤ん坊が、伏見(ふしみ)稲荷(いなり)権現(ごんげん)さんに気に入られ、お付きの(きつね)をつけてもらって生きながらえて、立派(りっぱ)(げき)に育ったという経歴(けいれき)の人物や。  秋尾(あきお)血筋(ちすじ)の、従兄弟(いとこ)子狐(こぎつね)くらい、ポケットマネーで(やと)ってやるわ。もともとお稲荷(いなり)さんのご加護(かご)で、アホみたいに(もう)かった金なんやしな。  水煙(すいえん)秋津(あきつ)血筋(ちすじ)に最初のはじめから取り()いている隕鉄(いんてつ)(せい)やし、宇宙由来の、ほんまもんの神さんや。  さっきのラジオは京雀(きょうすずめ)。あいつはアキちゃんやのうて、クローン()みにそっくりさんの、アキちゃんのおとんに()れている。  おとんは第二次世界大戦で死んだ英霊(えいれい)で、今は大明神(だいみょうじん)。おかんと世界旅行に行ってて留守(るす)や。  (まい)はそのお(とも)寒椿(かんつばき)(せい)やで。顔可愛(かわい)いけど、油断(ゆだん)したらあかん。あいつもアキちゃん(ねら)いやし、しかも油断ならんことに、アキちゃん好みの和風美少女で、はんなり京都弁で(しゃべ)りよる。要注意キャラや。  忘れたらあかんで、アキちゃんは、女でもええんや。全方向的に注意せなあかん。美形(びけい)を見たら、てきやと思え。そういう血筋(ちすじ)の子や。  そして最もヤバい強敵(きょうてき)は、誰あろう、秋津(あきつ)登与(とよ)。アキちゃんのおかんや。  生みの親やで。ほんまもんの母。アキちゃん、おかんに()れとんねん。(おど)巫女(みこ)さんやで。  どう考えても八十がらみの(ばあ)さんなはずやのに、うちは十八どす、て言うてはる。それは大げさでも、(たし)かに若いわ、精々(せいぜい)三十路(みそじ)くらいに見える。  どんだけ霊力(れいりょく)持ってるか、はかりしれん、怖いおかんや。  (さか)らったらあかん。あのオバチャンには、頭さげといたほうがええわ。そうせんかったらアキちゃんとこ()られんようになる。  アキちゃんは、いざとなったら、おかんを選ぶ。そういう危険性のあるマザコン男やで。信用したらあかん。  俺はざっとそう話した。  犬はそれを、あんぐり聞いてた。 「英霊(えいれい)、って……七十年以上前やで、第二次世界大戦」  計算できてるかって、明らかに俺の脳を(あや)ぶんでいる顔で、犬は()いてくれた。俺はゆっくり(うなず)いた。 「そうやで。せやからアキちゃんのおかんは、五十年くらい妊娠(にんしん)してたことになるな。しかも、おとんは兄ちゃんやしな。実の兄妹(きょうだい)やねん。せやからアキちゃんは血が()いんや。兄妹婚(きょうだいこん)はさすがにキワモノやったらしいけど、秋津家(あきつけ)では親類(しんるい)とくっつくのはデフォルトらしいからな。そうやって血筋(ちすじ)の力を(たも)ってる。本能(ほんのう)らしいで。せやからな、血の近い相手は気をつけなあかん。蔦子(つたこ)さんは、似たモンどうしすぎて相性(あいしょう)悪かったらしいけど、その息子の竜太郎(りゅうたろう)は、従弟(いとこ)のくせにアキちゃんラブラブやしな。あいつも()って良し」 「従弟(いとこ)竜太郎(りゅうたろう)……」  犬は、その新たな仮想敵(かそうてき)(けん)で、妊娠(にんしん)五十年の話は失念(しつねん)したらしい。お前もつくづく、アキちゃん重視(じゅうし)や。 「中一(ちゅういち)やで」 「なんや、中一(ちゅういち)か……」  そんなら俺の敵やないと、犬は油断(ゆだん)したらしかった。ソファで身を乗り出し気味(ぎみ)やったのに、ふっと脱力(だつりょく)しやがって、若干(じゃっかん)余裕(よゆう)の笑みやった。 「でも美形(びけい)やで。ほんまもんの人間の美少年(びしょうねん)」  俺が言うといてやったら、犬はビクッと来てた。  なんで人間コンプレックスがあるんやろ。店で試着(しちゃく)しとった時には、まだ見ぬ(よう)ちゃんにも()()うとったしな。  神楽(かぐら)()()うても意味ないやん。あいつアキちゃんとは友達なんやから。俺が()()うなら意味あるかもしれへんけどさ。犬には攻撃(こうげこ)レンジ(がい)やろ。 「でも……中一(ちゅういち)って……十二歳とかやで。先輩、そんなんでもええの?」  ()いてる犬は(あわ)れっぽかった。知らんうちにメキメキとシェア拡大(かくだい)していたアキちゃんの無節操(むせっそう)なキャパのでかさに、(むね)を打たれたんか、瑞希(みずき)ちゃん。

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