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24-7 トオル
「いや。さすがに竜太郎 には引いている。でも身内 やからな。血が近いんやから、要注意 や。アキちゃんが脈無 しでも、中一 はマジやから。萌 え萌 えやから。アキ兄 アキ兄 言うて懐 いて、いっしょにお絵かきしに水族館 デート連れていけって強請 ったりしよるんやで」
「行ったんか!?」
マジ切 れするな言うてるやろ。気持ちはわかるが。
「行ったよ……俺と水煙 も、くっついていったけど。イルカの絵描きに行った」
「そんな……写生 デートなんて、俺でも行ったことないのに!」
ちょっと待て、俺も行ったことない。
瑞希 ちゃんは本気で頭抱 えてた。俺でもそこまでは悔 しがらんかったのに。なんでお前が悔 しいねん。
それについて俺はとっても気になるんやけど。そういやお前、大学でアキちゃん狙 いやった時期に、なにをどんだけやってたんや。キスもしてへんのは、ええけども、ボディー・コンタクトまで行く前に、まさか何か可愛 いことしてへんかったやろうな。
アキちゃん鈍 いねんから、それとは気付かず、お前とプラトニック・デートしてたかもしれへん。そういや問いつめてへんかった。場合によっては殺さなあかんしな、この際、訊 いとくか。
「なにデートなら行ったことあるねん……」
俺はちょっとおどろおどろしかったはずやねんけど、瑞希 ちゃんは頭抱 えてて見えてへんかったらしい。
「ないよ、そんなん。学食でいっしょに飯 食ったり、図書館に資料探しに行ったり、取材で祇園祭 の資料あるとこ行ったりしただけやで」
「デートやないか!」
俺は素足 でどしどしコーヒーテーブルを蹴 りながら抗議 した。ほんま言うたら犬を蹴 りたいが、それをやったらバトルになりかねん。それはまずいし、ホテル壊 したら、彼が藤堂 さんにぶっ殺される。せやし、傷 一つつけたらあかんのやで。
「三人でやで。由香 ちゃん絶対ついてくるんやから。あの娘 、強引 やしな。積極的 やから、むしろあっちがデートで……俺なんか、オマケやで」
しょんぼりとして、犬は俺に言い訳していた。
「……邪魔 な女やな。そらもう殺さなあかんわけや」
俺は冗談 で言うたんやで。でも犬にはその話は、ぐっと来る嫌 みに聞こえたらしいわ。
犬は苦しそうな顔をして、また、ぐったりと背を丸めて項垂 れて、しばらく黙 り込 んでいた。
「あんなん、せえへんかったらよかった。そしたら今でも大学で、後輩 やれてたかもしれへんのに。由香 ちゃんも、今思えば、そんな悪い娘 やなかった。あいつも先輩のこと、好きやっただけで……ええとこも、ある奴 やったで」
俺の目を盗 んで、アキちゃんとベタベタしとった顔黒 のブスに、いったいどんなええとこがあるんや。
ブスはブスでも、トミ子クラスの怪物 やないけど、中途半端 な顔の女やったで。写真百枚撮 ったら、一枚は可愛 いかもしれへん程度 。まあ普通。
そんなレベルでアキちゃんの面食 いセンサーが反応 するはずもないのに、平気でベタベタ腕組んだりしよってからに。
犬が殺 らなきゃ、俺が殺 ってたかもしれへん。あの頃 の俺は、まだまだ必死の悪魔 やったんやからな。狂 った犬と大差 ない、イカレた蛇 さんやったわ。
ほんま言うたら、俺も疑 われててん。アキちゃん、どないしてんのかなって寂 しゅうなって、ふらっと大学まで追っていったりすると、そこでアキちゃんのご学友 に会う。
友達いうほど親 しくはない。一緒に遊んだりはせえへん。それでも大学で会えば、アキちゃんは挨拶 もするし、当たり障 りのない会話ぐらいはする。
本間 は絵が上手 いからって、アキちゃんは皆に注目 されていた。
他にもいろいろ、注目 されていた。
アキちゃんに、好きやった女を寝取 って三日で捨 てられて、恨 んでる奴 らも、少なからずおるらしい。
アキちゃんの絵が好きや、お友達になりたいわあって、こっそり見てる奴 らもいてる。むしろそっちが多数派 や。
そんな連中はなぜか、神絵師 とはいえ一応人間なアキちゃんよりも、有 り難 い神さんである俺のほうが、よっぽど話しやすかったらしい。ナメられたもんやで亨 ちゃん。あっちこっちで呼び止められて、亨 ちゃんは何者 なんやと、お菓子 くれたりして気軽に訊 いてくる。
俺がアキちゃんのツレやと知ってるような連中は、由香 ちゃんを殺 ったの、まさかお前やないやろなと、心配して訊 いていた。
アホなやつらや。もし本当にそうやったら、自分も俺に殺されると思わへんかったんやろか。絵描くやつらは暢気 やで。俺が悪いモンやないと、勘違 いしてたらしい。
なんでそんなこと思うのか。わからへん。アートな奴 らは。
そいつらが言うてた。由香 ちゃんは、確かに本間 にラブラブやったけど、あの娘 は誰にでもそうやねん。子供みたいな甘 えたで、誰とでも腕を組む。べたべた甘える。先輩愛してますぅ~言うて抱きついてくる。そこが可愛い。
皆にそうするんやから、本間 にもする。それだけなんやでと、もう死んでもうた女のことを、皆ちらほら俺に言い訳してやっていた。
せやし、ええ子やったんやろな。姫カットが死んだ時には、誰も弁護 してくれへんかった。可哀想 な女や。顔黒 普通系 よりモテてへん。美人やのに。
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