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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-14 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-14 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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24-14 トオル
水底
(
みなぞこ
)
での死って……。 それを思い出して、俺はまた、
背筋
(
せすじ
)
がぞおおおっ、てなってた。顔もたぶん紙のように真っ白くなっていた。ひいって息も
呑
(
の
)
んでいた。 「や……やめて! アキちゃん
溺
(
おぼ
)
れさすなんて!
酷
(
ひど
)
すぎるでそれは!!」 思いこみって
凄
(
すご
)
いなあ。俺はその時、
朧
(
おぼろ
)
様が
予言
(
よげん
)
された
龍
(
りゅう
)
なんやと思うてた。 アキちゃんに
水底
(
みなぞこ
)
での死を与えるのは、こいつに違いない。アキちゃんのおとんに
振
(
ふ
)
られた腹いせに、顔そっくりやし息子やから言うて、アキちゃんを代わりに連れていく気や。
水煙
(
すいえん
)
に負けて、ぶんどられてもうた、おとん
大明神
(
だいみょうじん
)
と
水死
(
すいし
)
する権利を、ジュニアでええわと今さらゲットする気なんやで。 死にたないわて言うてたくせに。
嘘
(
うそ
)
やないか! ラジオが
嘘
(
うそ
)
つくな!
JARO
(
じゃろ
)
に電話してやる! 「
頼
(
たの
)
む、
頼
(
たの
)
むから、
湊川
(
みなとがわ
)
。アキちゃんには
務
(
つと
)
めがあるねん。
鯰
(
なまず
)
様やで。どうせ死ぬんやし、ええやろと思うてんのか。今、死んでもうたら
犬死
(
いぬじ
)
にやないか!」 俺がつい言葉の
綾
(
あや
)
でそう言うたら、
瑞希
(
みずき
)
が、なんやと、みたいな怖い顔をした。 いや、そういう意味やないから。お前の死が
犬死
(
いぬじ
)
にやと言うてるわけやない。確かに
犬死
(
いぬじ
)
にやけど、犬やから。でもそれが
無駄
(
むだ
)
という
訳
(
わけ
)
では……。 ああもう、ややこしいなあ、ほんまに犬いると。
慣用句
(
かんようく
)
なんやからスルーせえよ。うちでは今、そんなんまで
差別語
(
さべつご
)
か。 俺は今、そんなしょうもないこと気にしてる場合やないねん! なんか言おう。とにかく何か! 「
心中
(
しんじゅう
)
なんかして、どないなんのや。意味ないで、そんなの。
流行
(
はや
)
らんで、今時そんなん!
近松門左衛門
(
ちかまつもんざえもん
)
とかやで、江戸時代のネタやんか。今年何年やと思うてんの。2017年やで! 平成二十九年なんやで。江戸時代と違うから!」 なに言うてんのやろ、俺。話がだんだん
訳
(
わけ
)
わからん方向へ行ってもうてる。でも必死やねん。思いつくまま
喋
(
しゃべ
)
ってんのや。アホみたいやけど、本人は
真剣
(
しんけん
)
やねん。 なんで
水煙
(
すいえん
)
おらへんのやろ。こんな時にあいつがガツンと言うてくれればええのに。 ……いや、それはまずいか。あいつがガツン言うたら、キレへんもんでもキレる。この相手をブチキレさせるのに、まさにうってつけの
奴
(
やつ
)
や。
居
(
お
)
らへん時で良かったんや。ラッキー! 「
頼
(
たの
)
むしやめて……アキちゃん返してくれ。ケツでも何でも
貸
(
か
)
すし」 『ほんまに
貸
(
か
)
すか? 今の、
録音
(
ろくおん
)
したで……』 笑いをこらえてるような声がして、俺にそう言うた。電話からなんやけど、まるで今ここで
喋
(
しゃべ
)
ってるような、はっきり
鮮明
(
せんめい
)
な声やった。 変やでえ、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
。
怪異
(
かいい
)
そのもの。みんなも
携帯
(
けいたい
)
、気つけや。あいつの
支配下
(
しはいか
)
にあるらしいから。 「いや、ちょっとそれは……犬でもよければ」 「えっ、なんの話!?」 話
振
(
ふ
)
られて、
瑞希
(
みずき
)
ちゃんビビってた。どうも犬には電話の向こうの音が聞こえてへんらしい。耳悪いんかな、犬のくせして。 どうも俺にだけ聞こえてる。
蛇
(
へび
)
にだけ聞こえる音。そんなんあんの?
蛇
(
へび
)
専用回線
(
せんようかいせん
)
やで。 『犬でも、ええよ』 くすくす笑って、声は
優
(
やさ
)
しく言うていた。 俺にはこいつの
正体
(
しょうたい
)
が、ほんまに分からへん。
龍
(
りゅう
)
やというのは分かったけど、それが
聖
(
せい
)
か
邪
(
じゃ
)
か、それが分からん。 たぶん、どっちでもないし、どっちでもある。どっちにでも
転
(
ころ
)
ぶし、
定
(
さだ
)
まった
正体
(
しょうたい
)
がない。そんな
龍
(
りゅう
)
なんや。
西洋
(
せいよう
)
では、
蛇
(
へび
)
の
眷属
(
けんぞく
)
ドラゴンは、
悪
(
わる
)
モンで、
悪魔
(
あくま
)
の
一種
(
いっしゅ
)
やけども、
東洋
(
とうよう
)
では神や。どっちにでもなれる。
善
(
ぜん
)
とか
悪
(
あく
)
とかは人間の
価値観
(
かちかん
)
で、神や
龍
(
りゅう
)
には関係ないこと。時代ごとにもころころ変わるしな、いちいち気にしてられへんわ。
善
(
ぜん
)
であり、
悪
(
あく
)
でもあるねん。人の心に、
仏
(
ほとけ
)
もいれば
鬼
(
おに
)
もいるようにな。 『なあ、
白蛇
(
しろへび
)
ちゃん。
心中
(
しんじゅう
)
なんて古いんやろ。そんなんしてええのか。それに
本間
(
ほんま
)
先生は、
駆
(
か
)
け
落
(
お
)
ちドタキャン男の息子やで。言うてることまで
暁彦
(
あきひこ
)
様そっくりや……
怪
(
あや
)
しいでえ、その、
心中
(
しんじゅう
)
しよかという
約束
(
やくそく
)
も』 「そんなことないって。アキちゃんは、
約束
(
やくそく
)
は守る男やで!」
嘘
(
うそ
)
かもしれへん。
浮気
(
うわき
)
しないって
約束
(
やくそく
)
したのに、
浮気
(
うわき
)
しまくりやしな。
嘘
(
うそ
)
つかへんように努力はしてるけど、人間なんやし、
約束
(
やくそく
)
破
(
やぶ
)
ってまうことはあるんやろ。 でも、それがそんな
土壇場
(
どたんば
)
で起きるなんて、そんなんアリかよ。
心中
(
しんじゅう
)
しよかって
連
(
つ
)
れ
立
(
だ
)
っていって、死ぬのが俺だけやったら
超
(
ちょう
)
マヌケやで。死んでも死にきれへんわ。 けど、考えてみればそんな話、ようあるで。
心中
(
しんじゅう
)
もののシナリオ書いて、
一世
(
いっせい
)
を
風靡
(
ふうび
)
した、江戸時代の
戯曲
(
ぎきょく
)
作家・
近松門左衛門
(
ちかまつもんざえもん
)
の
頃
(
ころ
)
にも、それに
影響
(
えいきょう
)
されて
心中
(
しんじゅう
)
がやたら
流行
(
はや
)
って、道ならぬ恋に燃えたカップルが、いっぱい
心中
(
しんじゅう
)
を
図
(
はか
)
ったらしいけど、
片方
(
かたほう
)
死なせて、ケツまくって逃げる、
詐欺
(
さぎ
)
みたいなツレも
居
(
お
)
ったらしいで。
可哀想
(
かわいそう
)
に、死んでもうたほうは、死に
損
(
ぞん
)
や。そんな話はごろごろしてる。 まさかアキちゃん、俺をそんな目に
遭
(
あ
)
わせる
可能性
(
かのうせい
)
があるか?
勘弁
(
かんべん
)
してくれやで。シャレにならへんわ。 『
暁彦
(
あきひこ
)
様も
約束
(
やくそく
)
は守る男やった。
嘘
(
うそ
)
はつかへんかった。あの
一遍
(
いっぺん
)
きりや……俺との
約束
(
やくそく
)
を
破
(
やぶ
)
ったのは。それが一番ひどい
裏切
(
うらぎ
)
りで、それ
一遍
(
いっぺん
)
だけやったんやで』 自分のツレは
誠実
(
せいじつ
)
やったと、そんな
惚気
(
のろけ
)
を
含
(
ふく
)
んだ声で、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
は教え、俺に
再考
(
さいこう
)
を
促
(
うなが
)
していた。 やめとけ
心中
(
しんじゅう
)
なんて、アホらしいと思わへんのかと。
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椎堂かおる
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