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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-16 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-16 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
438 / 928
24-16 トオル
諦
(
あきら
)
めてもうたら終わりやで。
潔
(
いさぎよ
)
く死ぬのが
格好
(
かっこう
)
ええて、それは
確
(
たし
)
かにそうやけど、
無様
(
ぶざま
)
に生きようとジタバタするのかて、
格好
(
かっこう
)
ええよ、
正直
(
しょうじき
)
で。 お兄ちゃん死んで来い言うて、笑って送りだしたお
登与
(
とよ
)
かて、生きてはないけど戻ってきたおとん
大明神
(
だいみょうじん
)
を見て、
嬉
(
うれ
)
し泣きに泣き
崩
(
くず
)
れたというやんか。 戻ってきてほしかったんやで、それが
本音
(
ほんね
)
のところ。愛してんのやから、死んでもええわと思うわけない。それでも
愛
(
いと
)
しい男の、男ぶりを立ててやっただけ。それが女の
甲斐性
(
かいしょう
)
と、おかんも思ったんやろな。 せやけど俺は女やないから。それに
武士道
(
ぶしどう
)
でもない。メソポタミア
系
(
けい
)
やしな。関係あらへん。 アキちゃんは俺にとって、おとんのコピーやクローンではない。最初からそうやった。そんな、
妙
(
みょう
)
なおとんが
居
(
お
)
るなんて、知らんうちから
惚
(
ほ
)
れていた。 アキちゃん死んでも、そっくりなおとん
居
(
お
)
るから、あっちを落とせばええかなんて、全然思わへん。おとんもええけどな、
正直
(
しょうじき
)
言うて、アキちゃんよりええ男かもしれへんけど、あちはお
登与
(
とよ
)
のもんやしな、おかんと戦うのはチビりそうで無理。 アキちゃんのほうがええから。
絶対
(
ぜったい
)
アキちゃんやから。 ふたりは
似
(
に
)
てへん。何がどうで
似
(
に
)
てへんか、
詳
(
くわ
)
しく
指摘
(
してき
)
はできへんのやけど、とにかく俺にとってアキちゃんは、誰かで代用できる男やないねん。 誰とも
似
(
に
)
てへん。この世にたったひとりしか
居
(
お
)
らん、俺のツレやねん。 「アキちゃんとおとんが
似
(
に
)
てんのなんて、顔だけやんか。アキちゃん俺に、
嘘
(
うそ
)
ばっかついとるわ。お前だけや言うて、犬は
飼
(
か
)
うわ、お前とは寝るわで……
無茶苦茶
(
むちゃくちゃ
)
やんか。それにヘタレや。
煙草
(
たばこ
)
も吸わへん。お前にライターくれたの、アキちゃんのおとんなんやろ。そんなん
後生
(
ごしょう
)
大事
(
だいじ
)
に持っときながら、
信太
(
しんた
)
とも寝やがって。あいつ、お前に
惚
(
ほ
)
れとるみたいやで。
虎
(
とら
)
でええやん、なんであかんの。俺のアキちゃん、
連
(
つ
)
れてかんといてくれ」 この際、
寛太
(
かんた
)
には泣いといてもらお。俺が泣くよりマシやから。 そんなこと思う俺は
鬼
(
おに
)
やけど、必死やねんて。自分の男が持ち逃げされかけてんのやから。他人の不幸なんか二の次や。俺はそういう
正直者
(
しょうじきもん
)
やねん。 『
信太
(
しんた
)
じゃあかん。あいつでは無理なんや』
憂
(
うれ
)
いのある声が、
艶
(
つや
)
っぽく答えを返してきた。 「なんであかんの。
虎
(
とら
)
もイケてるで?」 ヘボいセールスマン
並
(
なみ
)
の泣き落とし声で、俺は
頼
(
たの
)
んだ。 とりあえず
信太
(
しんた
)
で手を打ってくれ。おとん
大明神
(
だいみょうじん
)
は今、
居
(
お
)
らんから。お
登与
(
とよ
)
とブラジルやから。 なんやったら、お
登与
(
とよ
)
と
死闘
(
しとう
)
してくれてもええけど、そんなん後のイベントにして、とにかくアキちゃん返してぇな。 『あかんねん。しょうがない。あいつは
暁彦
(
あきひこ
)
様やないから。お前もそうやろ。
虎
(
とら
)
が
居
(
お
)
ったら、
本間
(
ほんま
)
先生おらんで平気か。あのホテルの
支配人
(
しはいにん
)
でもええけど……それで片付く話なんか?』
煙草
(
たばこ
)
吸うてるような、のんびりした声で、黒い
龍
(
りゅう
)
は
鬱々
(
うつうつ
)
と話していた。 平気なわけない。平気やないって言うてるやんか。 俺はもう言葉も出えへん。こいつ、話ぜんぜん聞いてへんのやないか。ほんまにラジオと
喋
(
しゃべ
)
ってるみたい。こっちの声なんて、向こうには実は聞こえてへんのやないか。
一方的
(
いっぽうてき
)
に言われてるだけで。 『
白蛇
(
しろへび
)
ちゃん。
本間
(
ほんま
)
先生は、きっとお前を
道連
(
みちづ
)
れにはしない。
暁彦
(
あきひこ
)
様とおんなじ性格や。きっと
土壇場
(
どたんば
)
で、お前を
捨
(
す
)
てていく。それでもええのか。もっと
説得
(
せっとく
)
をしろ。
信太
(
しんた
)
が代わりに死んでやる言うてんのや。俺でもええんやで。それに
任
(
まか
)
せて、お前は生きろと先生を
口説
(
くど
)
き落とせ。泣き落としでも
寝技
(
ねわざ
)
でも、
神隠
(
かみかく
)
しでも、なんでも
使
(
つこ
)
うて』 「
神隠
(
かみかく
)
しなんかでけへんもん……」 できたらやってます。そんなん、とっくにやってますがな。 神様かて
万能
(
ばんのう
)
やないねん。むしろ、できへん事のほうが多い。
得意技
(
とくいわざ
)
が、ひとつふたつあるだけやで。 俺はアキちゃんに永遠の命を与えられたけど、
水煙
(
すいえん
)
には、それはできへん
芸当
(
げいとう
)
やった。もしもできるんやったら、あいつはそんなこと、
遠
(
とお
)
の昔にやっていたやろう。
秋津
(
あきつ
)
の最初の
当主
(
とうしゅ
)
に、それを与えてやっていたに違いない。 それに、
隣
(
とな
)
り合う
位相
(
いそう
)
に
潜
(
ひそ
)
む相手を、連れ戻しに行くことも、あいつにはできへんのや。 せやから、おとんを
朧
(
おぼろ
)
に
拉致
(
らち
)
られて、死ぬような目にあった。行って助け出せるんやったら、
迷
(
まよ
)
う
間
(
ま
)
もなく乗り込んでいたやろ。俺かてそうする。今すぐ行って、アキちゃん返せって
直
(
じか
)
に連れ戻せるんやったら、こんな電話なんかダラダラ話してへんわ。 『無能やなあ……』 しみじみと、電話の声が言うていた。 なんやと、この
野郎
(
やろう
)
! 「無能やないよ! 俺には
究極
(
きゅうきょく
)
、
不老不死
(
ふろうふし
)
を
授
(
さず
)
けるという……!」
叫
(
さけ
)
び返してから、俺は、あれっ、と思った。 そうやんな。俺にはそういう力があるねん。相手と
混
(
ま
)
じり合って、それによって
不死
(
ふし
)
を与える。
不死
(
ふし
)
というか、死んでも平気な
不死
(
アンデッド
)
系のモンスターにするという、人間を、殺しても死なない体質に変える
特技
(
とくぎ
)
が。 『そうそう。それや。死なれへんのやろ、
本間
(
ほんま
)
先生とか。あの
支配人
(
しはいにん
)
もそうやろ? あれって何。お前の
元彼
(
モトカレ
)
? それとも、
二股
(
ふたまた
)
かけてんのか?』 「
二股
(
ふたまた
)
なんかかけてへん!
浮気
(
うわき
)
……」
浮気
(
うわき
)
しただけや。そう言いたかったけど、横で聞いてた
瑞希
(
みずき
)
ちゃんの目が怖すぎた。
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椎堂かおる
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