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24-17 トオル

 してません、浮気(うわき)なんて。アキちゃん一筋(ひとすじ)です。(うそ)やけど。  でもほら。事故(じこ)やから。アキちゃんも浮気(うわき)したんやし。たまたまちょうど食えたから。食うといただけ。美味(おい)しそうなんやもん、藤堂(とうどう)さん。我慢(がまん)でけへんかったんやもん。堪忍(かんにん)してくれ。 『なんや浮気(うわき)か。今度俺にも、回してよ。そこまで命あったらな。そやけど、本間(ほんま)先生なあ。()(にえ)行ったらあかんと思うねん。俺はあんまし、その(すじ)(くわ)しくないし、ただの素人(しろうと)考えやけど、(なまず)は命食うてる神なんや。それで本間(ほんま)先生は、死んでも死んでも生き返るわけやろ。無限(むげん)に食えるんやん? そんなんしたら、(なまず)様、メタボなってまうんとちがう? というか、どんどん強くなってまうんとちがうか。食い過ぎは体に毒やねんで。そのうち、取り返しのつかんような未曾有(みぞう)の大地震とか起きて、逆にえっらいことなってまうんとちがう?』  そんなこと思うてんのやったら、もっと早くに言うとけ。俺、うっかりしてて気がついてなかったわ。アキちゃん人間やという固定概念(こていがいねん)(しば)られていた。あいつ外道(げどう)なんやった。  不死系(ふしけい)の神を(なまず)に食わせて平気か。水煙(すいえん)様でも、そんなん知らんのと違うか。  秋津(あきつ)不死系(ふしけい)はおらんかったんや。死んだら死ぬような、おとなしい連中(れんちゅう)だけやった。  皆さん(ひん)がよろしいなあ。俺なんか殺しても死なへんねんから! (ぞう)()んでも生きてるで。  けど、アキちゃんもそうなんやって、(わす)れてた。  まだ(ため)してみたことはない。アキちゃんが死んだら、死んだままになるのか、それとも生き返るのか。  そんなん普通、(ため)さへんやろ。もし死んだままやったら、どないすんねん。シャレにならんわ。  そやけど、アキちゃんよりは完成度が低いらしい藤堂(とうどう)さんが、ほんまに死んで生き返ったっていうんやから、アキちゃんかて、そうなんやろう。不死(ふし)の肉体になっている。  いっぺん、ほんまに殺してみよか?  いや、それはいくらなんでも、可哀想(かわいそう)やで。生き返る言うたかて、死ぬほど苦しいのは同じなんやから。死ぬんやから、まさに死ぬほどなんやで? 「アキちゃんが()(にえ)なったら、もしかして、死んでは生き返り、また死んで食われ、また生き返り、ってなるのん?」  俺はラジオに電話で()いた。夏休み電話相談室やな。  せやけどラジオは、さあなあ、言うてた。 『知らん、そんなん。聞いたこともない。不死系(ふしけい)のやつが()(にえ)になったことないんやないか? 皆さん知らんのと違うか。お前ちゃんと、蔦子(つたこ)さんや大崎(おおさき)先生に話したか。本間(ほんま)先生、外道(げどう)なってますよって』 「話してへんけど……でも、知ってるんとちゃうの。秋津(あきつ)のおかんから聞いて。蛇憑(へびつ)きなんやろって、蔦子(つたこ)さんは言うてたで」 『蛇憑(へびつ)きいうのはな、蛇神(へびがみ)がとり()いてるいうだけの話やで。不死(ふし)まで視野(しや)に入ってるかどうか、分からんとこやで。大蛇(おろち)やドラゴンの血を浴びて、不死(ふし)になったとかいう伝説(でんせつ)はあるけど、はっきりさせとかんと、人間には行き違いもあるしな。それに大体、蔦子(つたこ)さんにはもう言うてあるんか。先生が()(にえ)行く気やって?』 「言うてへん。今から言う気なんやと思うけど……」  そこ、肝心(かんじん)なとこやったな。無軌道(むきどう)な子供達だけで、死ぬの生きるの言うて必死になっておりましたが、蔦子(つたこ)おばちゃまに一切(いっさい)報告(ほうこく)連絡(れんらく)相談(そうだん)なしでした。  それ、重要らしいですよ、人間の社会で働いていくには。(のち)にラジオがそう教えてくれました。  社会で働く人の基本の基本、ホウ・レン・ソウやで。オヤジどもが好んで必ずする話やし、ひとつの真理(しんり)やから、ちゃんと知っとけ言うてはりました。  (とおる)ちゃん知りませんでした。男(あさ)りのついでの、ごっこ遊びか、腰掛(こしか)けみたいな仕事しか、今までしたことありませんでしたので。  やっぱり式神(しきがみ)には、いろんな人いたほうがええんですね。時々謙虚(けんきょ)にそう思います。  皆さんそれぞれ、特技(とくぎ)や能力が(ちご)うてますから、それぞれ(おぎな)()うていくチームワークで勝利みたいな(めん)があります。  (とおる)ちゃん無敵(むてき)やで言うて、(えら)そうにしてたらあきません。ホウ・レン・ソウすら知りませんでしたので。  ちゃんと相談(そうだん)しとけば、流さんでもええ(なみだ)もあったかもしれません。  蔦子(つたこ)さんが、あんたやとあきまへんて、アキちゃんにきっぱり言うてくれてたかも。 『というかなあ、白蛇(しろへび)ちゃん。お前、死にたいの? 死にたいんやったら、止めはせえへんのやけど。不死(ふし)や言うても、(なまず)は強大な神や。案外(あんがい)死ねるかもしれへんしな? 俺、昔、東欧(とうおう)で見たことあるわ。不死系(ふしけい)吸血鬼(きゅうけつき)が、神父(しんぷ)にやられて、ふぁっさーって(はい)になって消えるの。怖いわあ。自分もやられたら(かな)わんし、しばらくの間、ええ子にしといたぐらいや』  怖いよう! それこそ悪魔祓い(エクソシスト)やないか!  俺も見たことある! 昔、十九世紀くらいのロンドンで。マジでチビりそうなった!  不死系(ふしけい)や言うたかて、死ぬことはある。普通の方法では死なんだけで、高い霊威(れいい)を持った神やら(おに)やらを相手にすれば、(ほろ)ぼされることはある。  キリスト教の神父(しんぷ)牧師(ぼくし)は、元を辿(たど)ればヤハウェの力を()りてんのや。  あの規模(きぼ)の神に(かな)外道(げどう)はそうそう()らんで。

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