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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-18 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-18 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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24-18 トオル
鯰
(
なまず
)
様って、そんな強いの? ヤハウェ
級
(
きゅう
)
? そこまでと思うてへんかった! 魚なんやと思ってた。 だってナマズやて言うから!
揚
(
あ
)
げて
餡
(
あん
)
かけにしたら食えたりして、あっはっはーレベルの
認識
(
にんしき
)
しかしてへんかったかも。
堪忍
(
かんにん
)
してください。死にたくはないです。
亨
(
とおる
)
ちゃん、死ぬのが怖すぎて
不死系
(
ふしけい
)
になってるんですから。
往生際
(
おうじょうぎわ
)
悪い性格が
嵩
(
こう
)
じて、これなんですから。 「死にたいわけないよ。生きてたい! ふぁっさー、は
嫌
(
いや
)
です!」 『ほんなら止めなあかんやろ。なに
酔
(
よ
)
うとんねん。このドアホ』 むっちゃ
冷静
(
れいせい
)
な声で言われましたが、俺もさすがにドアホ呼ばわりされたのは生まれて初めてかもしれません。 でも言われた通りですやん。俺ちょっと
酔
(
よ
)
うてましたか。アキちゃん好きやし、死ぬほど好きやし、アキちゃんのためなら一緒に死んでもええわって、
酔
(
よ
)
うてたか。
酔
(
よ
)
うてたかもな。
酔
(
よ
)
うてました! そして今、
突然
(
とつぜん
)
目が
醒
(
さ
)
めました! 『必死やねん、
秋津
(
あきつ
)
の
衆
(
しゅう
)
はな。昔からずうっとそうやねん。
水煙
(
すいえん
)
があかんのや。あいつが必死やから、皆も必死になるねん。俺まで必死にされてもうて、ほんま
敵
(
かな
)
わん。
水煙
(
すいえん
)
さえもっとアホみたいやったら、皆もリラックスできんのに』 無理やろそれは。どないしても無理やって。
水煙
(
すいえん
)
兄さんが
和
(
なご
)
むわけないよ。
八割方
(
はちわりがた
)
、
鬼
(
おに
)
やねんから。あとちょっとで百パーセント鬼いくよ。
水煙
(
すいえん
)
様の鬼レベルを
低下
(
ていか
)
させようと思ったら、アキちゃんがあいつとラブラブしてやるしかないんやんか。 それも、ただ
浮気
(
うわき
)
するとかじゃなくて、この世にお前の他に愛してる
奴
(
やつ
)
はおらんていうぐらいの気合いで、本気でラブラブせなあかんのとちがう? そんなんされたら俺が鬼なってまうやん! ていうか、すでに
朧
(
おぼろ
)
様、てめえが
水煙
(
すいえん
)
におとん
盗
(
と
)
られて、鬼みたいになってんのやないか。ジュニアを返せ! 『なあ、ちゃんと、
説得
(
せっとく
)
して。先生、お前のこと愛してるって言うてるわ。ほんまに好きらしいで。お前の言うことなら聞くかもしれへん。一番好きなやつの言うことやったらな』
優
(
やさ
)
しく
諭
(
さと
)
すお兄さんの声で、
朧
(
おぼろ
)
様は俺を
励
(
はげ
)
ましていた。 ううっ、て俺は泣きそうなってた。兄さん、ちょっとええかも。ええ人やで。 「でも……そんなん、俺はもう何度も言うたんやで。死なんといてくれって……ずっと言うてるもん。それでも聞いてくれへんのやで?」 泣き
言
(
ごと
)
言うてる俺の返事に、向こうは
微
(
かす
)
かに、ちっと
舌打
(
したう
)
ちをした。 『あかんやろ。そんなん
正面
(
しょうめん
)
から
攻
(
せ
)
めてもあかんのや。ええ
格好
(
かっこう
)
したい男なんやから。
説得
(
せっとく
)
されて意志曲げるなんて結局
嫌
(
いや
)
やねんから。弱点を
突
(
つ
)
くんや。知ってんのやろ、弱点あるのの一つや二つ。
暁彦
(
あきひこ
)
様には
放浪癖
(
ほうろうへき
)
があって、旅立ちたい
欲
(
よく
)
があったんやけど、それで
突
(
つ
)
っ込んだネタが
駆
(
か
)
け落ち世界一周やったんやんか?』 そうなんや、おとん。
操
(
あやつ
)
られかけてたな。
放浪癖
(
ほうろうへき
)
なんかあったんや。アキちゃんにはないけどなあ? 『そうこうしてるうちに、戦争なんか終わるやろと、俺は思うてたんや。それから何食わぬ顔して戻ればええしってな。けど、そんなちゃらんぽらんなこと、
通用
(
つうよう
)
しいひんかったみたい。あれでけっこう、根は
真面目
(
まじめ
)
やしな』 くくくと笑う
邪悪
(
じゃあく
)
な声で、
朧
(
おぼろ
)
様は言うていた。 こっちは、根は
真面目
(
まじめ
)
やないらしい。たぶん戦争なんて、どうでもええわと思うてたんやろう。 人が死のうが生きようが、関係なかった。自分の男が生きてれば、それでよかったんや。 そんな
不埒
(
ふらち
)
な考えを、俺は非難はできへん。むしろ共感する。 いつでも俺は自己中心。
優
(
やさ
)
しいような
振
(
ふ
)
りしてみても、
土壇場
(
どたんば
)
なったらいつだって、俺とアキちゃんが守られれば、それでええわっていう、
汚
(
きたな
)
い腹やから。 『先生にも、何かあるはずや。固めた
覚悟
(
かくご
)
が
揺
(
ゆ
)
らぐような
未練
(
みれん
)
とか、そういうのが。それでも乗り
越
(
こ
)
えていきやがるかもしれへん。あの男の息子やし。でもな。
亨
(
とおる
)
ちゃん。
後悔
(
こうかい
)
するで。泣きわめいて
脚
(
あし
)
に
縋
(
すが
)
ってでも引き
留
(
と
)
めへんかったら。
後悔
(
こうかい
)
する。永遠に
後悔
(
こうかい
)
するんやで』 電話から耳へ、そのうそ寒い話を吹き込まれ、俺は静かに、
乱
(
みだ
)
れた息になった。
後悔
(
こうかい
)
してんの、
朧
(
おぼろ
)
様。それで俺がそんな目に
遭
(
あ
)
わんで済むよう、
忠告
(
ちゅうこく
)
してくれてんの。 アキちゃんを連れ去ろうという鬼が、なんでそんなことすんの。 『怖いやろ。このまま俺に、
本間
(
ほんま
)
先生連れて逃げられたらと思うたら。怖かったやろ?』 「怖かったよ……ていうか、今でも怖いよ。
状況
(
じょうきょう
)
なんも変わってへんやんか? アキちゃん今、どこに
居
(
お
)
るねん」 電話の相手は結局、神か鬼かもわからへんかった。
正体
(
しょうたい
)
見えへん。
朧
(
おぼろ
)
様やで。 それでも
悪魔
(
あくま
)
みたいではない。最初からそうやったんかもしれへん。 ビビって見るから怖いだけ。
幽霊
(
ゆうれい
)
の正体見たり、
枯
(
か
)
れ
尾花
(
おばな
)
、ってやつや。 実は
優
(
やさ
)
しい兄ちゃんなのかも。
適当
(
てきとう
)
すぎる性格なだけで。 死んだ男とそっくりな、その息子見て、心がぐらつかへんほうがおかしい。 でもアキちゃんはおとんとは違う。本気で
惚
(
ほ
)
れてんのやったら、それぐらい分かるはず。
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椎堂かおる
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