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24-20 トオル
ええ? なに言うてんの、って、朧 様は笑っていたが、お前は可愛 い奴やなあという笑い声やった。
そして電話は、来るなら早う来いよと言うて、そのまま切れた。
「何言うてんの、蛇 !? なんで電話切ったんや!?」
瑞希 ちゃん、さすがに黙 ってられへんようになったみたいで、俺と間近 に向き合 うて、お前ありえへんみたいな、全くついてきてない顔してた。
「ええの、ええの。誤解 やった。誘拐 やないねん。後で話すし、瑞希 ちゃん」
「何!? 何やねん!? 俺、全然 ついていけてない」
瑞希 ちゃん、またテンパりそうになっていた。
「ええの、ええの。犬は黙 ってついてくれば。チーム・ウロコ系 の無敵 タッグはもう完成したから」
俺は水煙 とはもう打 ち解 けた気がするし、朧 様とも気が合いそう。せやし俺が間 に立って、まあまあ兄さん、まあまあまあ言うとけば、何とかなるって。ならへんかなあ?
とにかく、そんなん犬に説明してやんの面倒 くさいで。こんな長い話、もう一回する気になられへん。とにかく瑞希 ちゃんは新人 やし素人 なんやから、先輩 の言うこと素直 にハイハイ聞いとけばよし。意味なんか分からんでよし。
「アキちゃん説得 しにいくで。お前も手伝え。せめてその可愛 い顔かケツで、アキちゃんを血迷 わせろ」
「なんでお前にまでそんなこと言われなあかんねん!」
犬はよっぽどパニくってきたんか、悲鳴 みたいな声やった。
「この際 、アキちゃんが特攻 を断念 するなら、お前のケツ可愛 さでもええわ。まだ犯 ってへんのやったら未練 あるやろ。犯 ってへんのやろ? 突 っ込 まれたか?」
俺は真面目 に訊 いてんのに、瑞希 ちゃんはぐっと来たような赤い顔して、答えへんかった。言えよ、ちゃんと。大事なとこやねんから。照 れとる場合か。
「ほっといてくれ……お前に何がわかるねん……」
「さあ行くで!!」
瑞希 ちゃん何やブツクサ言うとったけど、俺は無視 した。どうでもええねん、お前のモノローグなんか。ウザいだけやしな!
「聞いとんのか、この蛇 め!」
「聞いてへん! とっとと靴 はけ、可愛 い系 」
お顔真っ赤っかで犬は怒ってたけど、可愛 い系 言うてやったら、もっと真っ赤になっていた。照 れてんのやないで、怒ってんのやで。
瑞希 ちゃん、なんでか知らん、可愛 い言われると腹立つらしい。嫌 なんやって。顔可愛 いくせに何言うとんねん。それでアキちゃん誑 かしたんやないか。
お前のその、ちょっと見、女の子でも通用しそうな可愛 い顔がウケてんのやから。化粧 してスカートはいたら、案外 いけるで。女でも。倒錯的 やけどな。
でも俺は、その話はせんといてやった。ほんまに嫌 みたいやったし、それに、その手もあるなあ言うて試 されたら困 るから。アキちゃんが万が一、それに転 んだら悔 しいから。
女装 男子が好きやという、目立った過去事例 はないんやけどな。何するか分からん男やからな。警戒 しとくに越 したことない。
ぷんぷん怒って靴 はいた犬を連 れて、俺は急いで部屋を出た。
朧 様が言うていた、バイパス・ルートというのは、すぐに見つかった。
だって空中 に、メモ紙みたいな人型 の紙が張 り付いていて、ここやで、ここやで、と呼んでたんやもん。
そいつは空中 を掴 んだみたいな格好 をしていた。そして、俺と犬とが見つめると、捲 ってねー、と言うた。
捲 るって何を?
もちろん、位相 の境目 をやろう。
水煙 もそう言うてたやん。朧 様は位相 を捲 ることができる神さんで、その能力によって、隣 り合った別の位相 へのルートを開くことができる。
これがもし罠 やったら、俺も犬も、どっか出口のないような、閉じた位相 にとっつかまってもうて、悲しい運命 になりそうやけど、俺の勘 では、それはない。
勘 やけどな。ただの勘 やねん。適当 やで。
そんなん、もし知ってたら、瑞希 ちゃんはついて来 えへんかったやろな。そういう、変に現実的なとこある犬やから。
ええい。ままよ!
俺は非現実的 なとこある蛇 やから。気合 いで行くから。その場のノリで。
空中 を持っている人型 メモの腹掴 んで、えいやっと引っ張ってみてやった。
あかん、ゆっくりやってー、と、人型 は焦 っていたが、とにかく位相 は捲 れた。端 っこ見つけられれば、誰でも捲 れるみたいやで。だって俺でもできたんやもん。
ぴりーって、ポスターでも剥 がれるみたいに、空中 の絵が剥 がれ、その向こうにある暗い廊下 が現れた。
向こうは夜みたいやった。時間の進み具合 が違 うてるのかな。それともずうっと夜の世界なんか。
うわあ、なんやこれ! って瑞希 ちゃんは絶叫 してたけど、そんなんお前が言うなやで。
お前もアメ村に夜のワンワン王国みたいなテーマパーク出現 させてたやんか。あの力、どこ行ってん。狂犬病 で頭イカレたせいで成 し遂 げられた、まぐれやったんか、瑞希 ちゃん。
やっぱお前はもっとアホにならなあかん。そのほうが、使える犬になりそうや。
「行こか」
また貼 っといてねー、て言うてるメモの言いつけを守りつつ、俺は瑞希 ちゃんを連れて、その暗い通路 に入った。
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