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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-22 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-22 トオル
作者:
椎堂かおる
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24-22 トオル
水煙
(
すいえん
)
にもそうやしな。何となく甘え
口調
(
くちょう
)
や。 おとんのツレやった
式
(
しき
)
ということで、何となく、親と同じグループに
分類
(
ぶんるい
)
されとんのかな、アキちゃんの頭の中で。はるかに年上という点では、俺かて似たようなもんやのになあ。 「
茂
(
しげる
)
ちゃんは、
暁彦
(
あきひこ
)
様が嫌いやねん。
坊
(
ぼん
)
が
嫌
(
きら
)
いなわけやない。見た目がそっくりやから、ついついムカッと来るんやろ」 「知ってんのか、
大崎
(
おおさき
)
先生のこと」 それも
意外
(
いがい
)
そうに
訊
(
き
)
くアキちゃんに、
朧
(
おぼろ
)
は、なんも知らんのかという目をした。 「そら、知ってるよう。昔、
一緒
(
いっしょ
)
に
祇園
(
ぎおん
)
で遊んだ
仲
(
なか
)
やもん。
狐
(
きつね
)
の
秋尾
(
あきお
)
とヘタレの
茂
(
しげる
)
やろ。先生のおとんはずうっと、あの
白狐
(
びゃっこ
)
を
狙
(
ねら
)
っとったけど、あいつは
結局
(
けっきょく
)
、
靡
(
なび
)
かんかったなあ」 「
秋尾
(
あきお
)
さんとも知り合いなんや」 「
案外
(
あんがい
)
、
狭
(
せま
)
い
世間
(
せけん
)
でござんすよ。
式
(
しき
)
なんて、そう
沢山
(
たくさん
)
おらんのや。今このホテルには、
三都
(
さんと
)
に
棲
(
す
)
みつく
連中
(
れんちゅう
)
の、ほとんど全部が集まってんのやないか」 「
三都
(
さんと
)
だけで、千人以上おるってこと?」 アキちゃんは、
随分
(
ずいぶん
)
気さくに質問モードやった。 長身のふたりが会話してると、頭の上を話が飛び
交
(
か
)
うてるようで、入っていこうという気がせえへん。俺と犬とは、テニスを見てる
観客
(
かんきゃく
)
状態やった。 俺と犬とアキちゃんの、三人がかりで見つめられるまま、のんびり
煙
(
けむり
)
を味わって、
朧
(
おぼろ
)
は答えた。 「全国で
八百万
(
やおよろず
)
おるらしいからなあ。ちゃんと数えた
奴
(
やつ
)
はおらんやろけど。その中に、
式
(
しき
)
として使える
奴
(
やつ
)
は
一握
(
ひとにぎ
)
りで、大きすぎんのや、
鬼
(
おに
)
みたいなのや、
順
(
まつろ
)
わぬのや、ちっさすぎんのや、生まれてすぐに消えてまうのまで
含
(
ふく
)
めての、
八百万
(
やおよろず
)
やろ。それに最近は
外来
(
がいらい
)
の神まで
居
(
お
)
るからなあ。
信太
(
しんた
)
もそうやんか」 ふわあと
欠伸
(
あくび
)
して、
朧
(
おぼろ
)
は
眠
(
ねむ
)
そうやった。アキちゃんのおとんには必死になれても、
信太
(
しんた
)
にはなられへんのや。 俺はちょっと
虎
(
とら
)
が
可哀想
(
かわいそう
)
や。あいつも場合によっては死ぬかもしれへんのに、
朧
(
おぼろ
)
は
全然
(
ぜんぜん
)
、心配してやってへんのやろか。 向こうは心配しとったで。
怜司
(
れいじ
)
を殺したら
恨
(
うら
)
むって言うとった。必死やったで、
信太
(
しんた
)
。 あいつも
随分
(
ずいぶん
)
、
軽薄
(
けいはく
)
そうな
奴
(
やつ
)
やけど、あの時は目がマジやった。アキちゃんに、頭を下げて
頼
(
たの
)
んでいた。
朧
(
おぼろ
)
を
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
にせんといてくれって。 せやのに、こいつは
鬼
(
おに
)
やで。
信太
(
しんた
)
が死んでもええみたい。
全然
(
ぜんぜん
)
、悲しくないんかな。もう指輪もしてへんし、てめえを
振
(
ふ
)
った
虎
(
とら
)
なんか、知ったこっちゃないんか。 「
暁彦
(
あきひこ
)
様に習うのが、一番ええんやろけどな。親子なんやし、
筋
(
すじ
)
も
似
(
に
)
てるやろう?」
懐
(
なつ
)
かしいもんでも見るような目で、
朧
(
おぼろ
)
はアキちゃんを見つめたけども、アキちゃんはそれに、決まり悪そうにしていた。 たぶんちょっと、ムカついたんや。アキちゃんは自分がおとんに
似
(
に
)
てる話をされるのは、
嫌
(
きら
)
いやからな。 「知らん。俺はおとんに、何か習ったことはない。どういう
覡
(
げき
)
やったかも知らん。おとんのことは、何にも知らん」 「ふうん……」 にやにやして、
朧
(
おぼろ
)
は
含
(
ふく
)
みのある
相槌
(
あいずち
)
だけやった。そこで自分の口から、
愛
(
いと
)
しい
暁彦
(
あきひこ
)
様のご
活躍
(
かつやく
)
を語ろうというふうではなかった。 「先生、
妬
(
や
)
いてんの。お父さんのこと。それもそっくりやなあ、
暁彦
(
あきひこ
)
様と」
堪
(
こら
)
えられへんのか、
湊川
(
みなとがわ
)
はくすくす笑った。何か思い出してるようやったけど、その目で
眺
(
なが
)
めるアキちゃんは、たぶん今はここにはいない、別の男と
二重写
(
にじゅううつ
)
しや。 「お前のおとんは、ほんまに
焼
(
や
)
き
餅
(
もち
)
焼きやった。そのくせ、
他人
(
ひと
)
のもんでもお
構
(
かま
)
いなしやしな。自分の
親父
(
おやじ
)
が……先生から見たら
祖父
(
じい
)
さんやけど、
老衰
(
ろうすい
)
したと見たそばから、
親父
(
おやじ
)
の
式
(
しき
)
もばんばん
寝取
(
ねと
)
るしやな、
家督
(
かとく
)
を
譲
(
ゆず
)
るて言うて
切腹
(
せっぷく
)
したおとんの
介錯
(
かいしゃく
)
を、
水煙
(
すいえん
)
にやらせたらしい。
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
は
隠居
(
いんきょ
)
でけへんねん。
水煙
(
すいえん
)
は、前のが死なん
限
(
かぎ
)
りは次のにいかへんらしいんや。それでも
親父
(
おやじ
)
に
腹
(
はら
)
切らせたのは、
暁彦
(
あきひこ
)
様くらいやないか。
軽
(
かる
)
く鬼やで」 アキちゃんは、その話をもちろん
初耳
(
はつみみ
)
やったやろう。俺も知らんかった。 あのニヤケたおとんが、そこまで
鬼
(
おに
)
やったとは。 アキちゃんの
視線
(
しせん
)
はちょっと泳いでた。ショックやったんやろ。自分のおじいが、おとんにトドメさされて殺されていたとは、想像もしてへんかったはずや。普通ないもん、そんな話。少なくとも、現代ではな。 「さしもの
水煙
(
すいえん
)
様も、それは
堪
(
こた
)
えたんやないか。てめえの男をてめえでぶっ殺すとなったらなあ。それでも
合意
(
ごうい
)
の上での事やったらしいしな。
先代
(
せんだい
)
の
意志
(
いし
)
やねん。ああ……もう、
先々代
(
せんせんだい
)
か。今は
暁彦
(
あきひこ
)
様の後を
継
(
つ
)
いで、
本間
(
ほんま
)
先生が
当主
(
とうしゅ
)
なんやもんなあ」 それに少しびっくりしたふうに、
朧
(
おぼろ
)
は目を
瞬
(
またた
)
いていた。知らんうちに長い時が
過
(
す
)
ぎてたみたいに。 「ずうっとくよくよ言うてたよ。
水煙
(
すいえん
)
は俺のこと
嫌
(
きら
)
いなんやないかって。他に選べる
跡取
(
あとと
)
りがおらんかったから、やむを
得
(
え
)
ず選んだだけで、ほんまは今でもおとんが好きなんやと、うじうじうじうじ言いよるねん。時々、おとんの
名代
(
みょうだい
)
で
鬼退治
(
おにたいじ
)
するときに、
水煙
(
すいえん
)
を
貸
(
か
)
してもろたりしてたようでな、その頃から
暁彦
(
あきひこ
)
様は
水煙
(
すいえん
)
に
執着
(
しゅうちゃく
)
があったんや。それでも、あの
太刀
(
たち
)
は
気位
(
きぐらい
)
が高いやろう。
当主
(
とうしゅ
)
でなければ、にこりともせえへん。それが
嫌
(
いや
)
やったらしくてな。おとん早う死ねと内心どこかで思うてたらしいで。それで
切腹
(
せっぷく
)
も止めへんかったんやろう。
水煙
(
すいえん
)
はそれを
恨
(
うら
)
んでるに
違
(
ちが
)
いないと言うんや」
朧
(
おぼろ
)
が話すと、それはまるで、
面白可笑
(
おもしろおか
)
しい笑い話みたいやった。
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椎堂かおる
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