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24-29 トオル
「大丈夫 なんか、蔦子 さん。あの外道 に跡取 り預 けて。今ごろ腕 の一本くらい、食われてるかもしれへんで」
しっ、と、蔦子 さんは湊川 の悪口を咎 めた。
「そんなこと言うもんやおへんえ。秋津 の一番古い式 なんや。あんたには大先輩 なんえ。前に一悶着 あったくらいで、逆恨 みしたらあきまへん。ほんまにあんたは、いつもそこらの物 の怪 みたいな悪口言うて、そんなんしてたら、あんたの霊威 も穢 れてしまいますえ」
蔦子 さんはクドクド厳 しかったけど、俺は朧 の言うことが、あながち悪口とも思えへんかった。
腕 一本どころか、竜太郎 の魂 まるごと食おうとしとったからな、水煙 は。用心 するに越 したことないのに。
「坊 も来なはれ。ほんまやったら、あんたが話すのが筋 やったんえ」
「いやいや、先生ちゃんと話しに来たんやけど、俺が先に言うてもうたから」
アキちゃんを庇 う口調 で、朧 が言 い訳 してやっていた。
「甘 いんや、あんたは。アキちゃんにもえらい甘 かったけど、この坊 にも甘 めでやってくつもりか。そんなんしてたら、果 てしなく付け上がりますえ、秋津 の男は! 厳 しゅうしなはれ」
ピシャーン言うて、蔦子 さんは鬼 のようなジロリの目をして、来い来いとアキちゃんに鋭 い仕草 で手招 きをした。
ちょっぴり怖いのよ、それが。怒ってる時のおかんみたいでな。
アキちゃん、反射的 に引いてたよ。せやけどまさか逃 げるわけにもいかへん。
渋々 やけど歩き出したアキちゃんに半歩遅 れて、俺もついてった。行ってええのかなみたいな顔をしていた犬にも、しゃあないから、おいでおいでをしてやった。
「ちょっとお待ち。なんや、この子は?」
瑞希 ちゃん、むっちゃジロジロ見られたで。蔦子 おばちゃまに。
美貌 の熟女 に見られて、犬はドン引きしていた。キャインキャインみたいに逃げてた。発作的 にアキちゃんの後ろに隠 れようとしてた。
たぶん、ほんまに怖いんやろう。蔦子 さんも、ただの古代 コスプレ好きのオバチャンではない。鬼道 の女やし、秋津 の血を引く、おかんの従姉 なんやしな。強い霊力 がみなぎっていた。
「こいつも本間 先生の新しい式 や」
「新しい式 !」
湊川 の解説 を受けて、蔦子 さんは鋭 く言うた。感心 してんのやない。してんのかもしれへんけど、悪い意味でや。
「ちょっと見ん間 に、偉 うおなりのようやなあ、坊 。話、聞きましょう」
きっぱりそう言い渡 し、蔦子 さんは古代 ルックの裳裾 をひらりとひるがえした。そこから、ぷうんと独特 の、品 のええお香 の匂 いがした。
部屋に入ると、そこもスイートルームやった。落ち着いた色合 いの、紺 と白の部屋。
そこにやっぱり深い青色の、ビロード張 りの骨董 めいたソファセットが置いてあり、そこにはべったり虎 にもたれた赤い鳥さんと、その反対の端 に脚 を組んで座ってる、冷たい目線 の氷雪系 がいた。
「怜司 」
朧 に声かけてきたのは、信太 やない。氷雪系 のほう。なんで来たんやと、意外そうな声やった。
信太 は腕 にべったり鳥を張り付かせ、じっと黙 って朧 と見合っただけやった。
口ごもる気配 もなかった。声かけるつもりがなかったんやろう。
よう見たら、寛太 はいちゃついてんのやのうて、寝てるんやった。頭ぐちゃぐちゃで虎 の肩 によりかかり、ぐうすか寝てた。フリーダムやな、鳥さん。お昼寝か。
「椅子 が足りへんな、席外 しましょうか」
ひとり気の利 く氷雪系 は、薄氷 みたいなメガネの奥 から、ご主人様である蔦子 さんを見つめて訊 いた。
「かましまへん。洗面所に籐 の椅子 がありましたやろ。あれを持ってきておくれやす。うちがそこへ座ります。怜司 、あんたはあっちへ」
言われた通りに働こうかと立ち上がった氷雪系 と、ぐうぐう寝てる寛太 の合間 を指さして、蔦子 さんは朧 に命じた。
「ええ? そっち?」
「どっちに座ろうが四人は四人ですやろ。まだ許 すとは言うてまへんえ。ウチが承知 するまでは、あんたは分家 の式 どす」
はいはい、言うて、朧 は痛 そうな表情のまま、おとなしく、寝こけている寛太 の隣 に、どさっと座った。
それは別に、蔦子 さんに呪縛 されてるから命令を聞くという感じやなかった。蔦子 さんには頭があがらへん。まるで、そんな感じやねん。
居心地 悪そうにしている湊川 を、もの言いたげに横目 で見つつ、氷雪系 は椅子 をとりにいった。
そして、あたかも女王様にでもお仕 えするように、啓太 は蔦子 さんを、持ってきた肘掛 けつきの籐椅子 に座らせて、コーヒーテーブルを見下ろすお誕生日 席 で、裾 と大きな袖 を整 えている女主人の横顔 を眺 めつつ、また静かにソファの一番端 に座った。
チーム秋津 は序列 の通りでごさいます。蔦子 さんと斜向 かいにアキちゃんで、俺、犬、以上。水煙 様は出張中 でご不在 や。
「まず何の話から聞けばよろしいのや。怜司 のことどすか。坊 はなんでこの子が欲しいんや?」
なんかちょっと、『花いちもんめ』みたいやで。子供の遊 びの。
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