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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-30 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-30 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
452 / 928
24-30 トオル
箪笥
(
たんす
)
、
長持
(
ながもち
)
、あの子が欲しい。 勝って
嬉
(
うれ
)
しい、花いちもんめ。負けて
悔
(
くや
)
しい、花いちもんめ。 「
鯰
(
なまず
)
に食わせるためや。
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
にすんのに
式
(
しき
)
が
要
(
い
)
るんや」 アキちゃんではない、別の暗い声が、やっと
喋
(
しゃべ
)
った。
信太
(
しんた
)
やったわ。
蔦子
(
つたこ
)
さんはそれに、
驚
(
おどろ
)
きはせえへんかった。少なくとも表面上はな。
氷雪系
(
ひょうせつけい
)
のほうが、よっぽど
驚
(
おどろ
)
いていた。あんぐりして、
隣
(
となり
)
にいてる
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
をガン見していた。
嘘
(
うそ
)
やろと、
訊
(
き
)
いていいなら
訊
(
き
)
きたそうな顔をして。 「その件やったら、うちは
信太
(
しんた
)
をあんたにやるつもりどした。それでは
不服
(
ふふく
)
どすのか?」
姿勢
(
しせい
)
良く
椅子
(
いす
)
に
腰掛
(
こしか
)
け、
蔦子
(
つたこ
)
さんはアキちゃんをじっと見た。 それにも
氷雪系
(
ひょうせつけい
)
は
驚
(
おどろ
)
いていた。
蔦子
(
つたこ
)
さんは自分の
式
(
しき
)
たちに、何もかも話してる
訳
(
わけ
)
ではないらしい。
寛太
(
かんた
)
が知ってんのかどうか、寝てるもんやから分からへん。 「
不服
(
ふふく
)
やないです。それに
湊川
(
みなとがわ
)
のことも、
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
にするつもりはないです」 アキちゃんは言いにくそうに答えてた。 「ほんなら誰をやるつもりなんや。その犬か?」
瑞希
(
みずき
)
ちゃんをじっと見て、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
容赦
(
ようしゃ
)
なく言うてた。
瑞希
(
みずき
)
ちゃんはぎくっとしたように
蔦子
(
つたこ
)
さんと見つめ
合
(
お
)
うてたけど、ただ、
緊張
(
きんちょう
)
したような顔をして
黙
(
だま
)
ってるだけやった。 「こいつでもない。話せば長いけど、こいつは元から俺と
因縁
(
いんねん
)
のある
狗神
(
いぬがみ
)
や。今回また行き
会
(
お
)
うたんで、
式
(
しき
)
にしたんです。
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
には、
蔦子
(
つたこ
)
さん、俺がいく」
真剣
(
しんけん
)
そのもので言うてるアキちゃんの顔に目を戻し、
蔦子
(
つたこ
)
さんはまた、じいっと見つめた。 そして、アキちゃんが言い終えた後も、何か考えてるふうに、しばらく
黙
(
だま
)
っていたんやけど、やがてゆっくり、そして、きっぱりと言うた。 「それは
無理
(
むり
)
どす」 「なんでや」 「あんたは
祭主
(
さいしゅ
)
ですやろ。あんたが
鯰
(
なまず
)
の
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
になったら、その後に来る
龍
(
りゅう
)
は、誰がお
迎
(
むか
)
えするんや?」
龍
(
りゅう
)
って、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
のことやないのか。
違
(
ちが
)
うの。
違
(
ちが
)
うかも。 そういえばスポーツバーで、
蔦子
(
つたこ
)
さん、
龍
(
りゅう
)
は
鯰
(
なまず
)
の後に来て、まず
淡路島
(
あわじしま
)
を食うって言うてた。
淡路島
(
あわじしま
)
は食わんよなあ、いくらなんでも。
朧
(
おぼろ
)
様は。 「
龍
(
りゅう
)
は……誰か他の人がやられへんのか。
蔦子
(
つたこ
)
さんとか」 「
無理
(
むり
)
どす。そんな
無責任
(
むせきにん
)
なことで、
祭主
(
さいしゅ
)
を
勤
(
つと
)
めようというほうが、どうかしてます。
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
として、
儀式
(
ぎしき
)
を
完遂
(
かんすい
)
するのが当たり前どす」 「でも……」 「
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
には
信太
(
しんた
)
をやったらよろし。この子にも
覚悟
(
かくご
)
があっての話しや。あんただけが命がけで、
偉
(
えら
)
い
訳
(
わけ
)
やおへんえ。それに、そこで
慌
(
あわ
)
てて死なんでも、あんたにはあんたの死に場所がちゃんとあります」 重い
口調
(
くちょう
)
ではあったけど、
蔦子
(
つたこ
)
さんはさらっと言うてた。 俺はなんや、ずしっと腹に来た。岩でも
呑
(
の
)
んだようやった。
龍
(
りゅう
)
の話や。
水煙
(
すいえん
)
と
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、まだ手こずってんのや。
龍
(
りゅう
)
がアキちゃんを食う未来を、
予知
(
よち
)
してもうてんのやないか。
水底
(
みなぞこ
)
での死って、それのことなんやないか。 「
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が
予知
(
よち
)
した
龍
(
りゅう
)
は、
津波
(
つなみ
)
や、
坊
(
ぼん
)
。海の
彼方
(
かなた
)
からやってきて、
瀬戸内
(
せとうち
)
の海に入り込み、
淡路島
(
あわじしま
)
を食うて、そして
神戸
(
こうべ
)
の
浜
(
はま
)
に
至
(
いた
)
る。
未曾有
(
みぞうう
)
の
大津波
(
おおつなみ
)
どす」 アキちゃんは、ぽかんとしたような
真顔
(
まがお
)
で、その話を聞いていた。ほとんど無表情やった。 「
鯰
(
なまず
)
が起きるんは、たぶんそれを
予知
(
よち
)
したからどす。逃げようということなんやろう。
京
(
きょう
)
か、
逢坂
(
おうさか
)
か、どこへでもええけど、人食うて力をつけて、さっさとねぐらを変えようかと、そういうことどす。時たま、
街
(
まち
)
ごとごっそり人が消えることがあるのを、
坊
(
ぼん
)
は知っとりますか」 時たまって、
蔦子
(
つたこ
)
さん、どれくらいの
頻度
(
ひんど
)
のこと言うてんのや。 まあ、そういうことは、たまにはあるんや。
大災害
(
だいさいがい
)
とかで。アトランティスとか、イースとか、ソドムとかゴモラとか、ポンペイとかな。 南米にもそんな
伝説
(
でんせつ
)
がある。
街
(
まち
)
は残ってんのに、そこから全員、
神隠
(
かみかく
)
しにでもあったみたいに、人っ子一人おらんようになっている。 「知らんのどすか。まあ、よろし。ともかくも、
神戸
(
こうべ
)
にそれが起きようとしてます。この
街
(
まち
)
は、神の
戸
(
と
)
なんや。新しい神さんが自然と
寄
(
よ
)
り集まってくる
玄関口
(
げんかんぐち
)
のような
性質
(
せいしつ
)
のある
土地柄
(
とちがら
)
や。それに呼ばれてか、新しい神が、この地に
降
(
お
)
り立とうとしておいでや」 「新しい神?」 「
龍
(
りゅう
)
どす。
人界
(
じんかい
)
にとどまれる
限界
(
げんかい
)
に
達
(
たっ
)
して、
天界
(
てんかい
)
にお
昇
(
のぼ
)
りになる。そのために
神戸
(
こうべ
)
にお
越
(
こ
)
しになるようや。それが
津波
(
つなみ
)
の姿をしてはるということまでは、
視
(
み
)
えてるんどす。ただそれを、何もせずに手をこまねいて見ていれば、その次に
現
(
あらわ
)
れる未来の絵は、
六甲山
(
ろっこうさん
)
の
麓
(
ふもと
)
まで、ごっそり海に
呑
(
の
)
まれて消えた
神戸
(
こうべ
)
の
姿
(
すがた
)
や。もちろん、そこに住んではる人も物も、うちらも全員、逃げへん
限
(
かぎ
)
りは
呑
(
の
)
まれてまうやろう。それが最悪の
未来図
(
みらいず
)
ということどす」 逃げようか、今すぐ。アディオス
神戸
(
こうべ
)
! って、あかん? それやとあかん? 自分だけ助かろうなんて神様チックやなさすぎですか。
自己中
(
じこちゅう
)
やったらあかん?
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椎堂かおる
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