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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-32 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-32 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
454 / 928
24-32 トオル
蔦子
(
つたこ
)
さんの
生死
(
せいし
)
によって、悪いほうへと変わる
運命
(
うんめい
)
はあった。 「
坊
(
ぼん
)
、なんで
怜司
(
れいじ
)
が欲しいんどすか。
鯰
(
なまず
)
の
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
には
信太
(
しんた
)
をやります。それはこの子の
運命
(
うんめい
)
なんどす。逃げても何度でも追いかけてくるやろう、そんな
因縁
(
いんねん
)
や。
怜司
(
れいじ
)
を
代
(
か
)
わりにはやりまへん。それでもこの子を
式
(
しき
)
に
欲
(
ほ
)
しいんどすか。このまま行けば、あんたは
明後日
(
あさって
)
、死ぬかもしれへんのどす。ただ死に
別
(
わか
)
れるためだけに、
怜司
(
れいじ
)
を
式
(
しき
)
にすることになるんどすえ。うちはそれには反対や。この子は
案外
(
あんがい
)
、
脆
(
もろ
)
いんどす。強いように見えてもな、弱ればいつぶり返すかわからん
古傷
(
ふるきず
)
があるんや。そのことを、
坊
(
ぼん
)
はちゃんと、
弁
(
わきま
)
えてますのんか?」 「おとんのことやろ……?」 言いづらそうに、アキちゃんは
蔦子
(
つたこ
)
さんに答えていた。 「
違
(
ちが
)
います。そうとも言えますけども。言うてへんのやな、
怜司
(
れいじ
)
」
首巡
(
くびめぐ
)
らせて、
蔦子
(
つたこ
)
さんはぴしゃりと言うた。
朧
(
おぼろ
)
はそれに、
険
(
けわ
)
しい顔して、
肩
(
かた
)
をすくめていた。 「言う必要ないもん」 「そんなことおへん。あんたの
主
(
あるじ
)
になろうというなら、ちゃんと知るのが
筋
(
すじ
)
どす。ただの
式
(
しき
)
欲
(
ほ
)
しさで手ぇ出して、自分のもんやというのでは、通らへんのどす」 すっくと立って、
蔦子
(
つたこ
)
さんはアキちゃんの顔を、びしっと指さした。 「それにどうせ、あんたも
面食
(
めんく
)
いなんどすやろ。アキちゃんもそうどした。まず顔や
姿
(
すがた
)
の美しさから入るんや。あれがそんな男やから、
朧
(
おぼろ
)
も
怯
(
おび
)
えて、
戻
(
もど
)
るに
戻
(
もど
)
られへんのや」
面食
(
めんく
)
いなのは
図星
(
ずぼし
)
なんやけど、アキちゃんどうも、おとんの
名代
(
みょうだい
)
でムカつかれてるっぽいで。
蔦子
(
つたこ
)
さんは
忌々
(
いまいま
)
しそうにジュニアを見ていた。 おとんも
面食
(
めんく
)
いやったんや。そら、そうやろなあ。そうやろうという
予感
(
よかん
)
がしたわ。 ここまで
似
(
に
)
た
者
(
もん
)
親子
(
おやこ
)
やのに、そこんとこだけ
似
(
に
)
てないというのも、
不自然
(
ふしぜん
)
やもん。 「
朧
(
おぼろ
)
、
試
(
ため
)
しに
坊
(
ぼん
)
に、あんたの
正体
(
しょうたい
)
を見せてやりなはれ」 「
嫌
(
いや
)
や。ホラーすぎる」 青ざめた顔をして、
朧
(
おぼろ
)
は
即答
(
そくとう
)
で
拒否
(
きょひ
)
やった。 ホラーすぎるかな。ただの
龍
(
りゅう
)
やで。ただの、ってことはないけど。俺には美しい
龍
(
りゅう
)
に見えたんやけどなあ。 アキちゃん、俺のおかげでウロコ
系
(
けい
)
は、
余裕
(
よゆう
)
でクリアするはずやで。ビビることないのに。 「見たらもう、俺はいらんと思うやろうって事か、
蔦子
(
つたこ
)
さん。先生に
譲
(
ゆず
)
るのが
嫌
(
いや
)
なんやったら、普通にそう言うてくれ。俺にも
面子
(
めんつ
)
はあるんや」
朧
(
おぼろ
)
様、まさか実はドブスやったりするんか。
美容整形
(
びようせいけい
)
か、この
美貌
(
びぼう
)
。
極
(
きわ
)
めて
居心地
(
いごこち
)
悪そうにしている
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
を見やる、
氷雪系
(
ひょうせつけい
)
と
虎
(
とら
)
の目も、なんや事情が分かってへんような、
戸惑
(
とまど
)
う表情やった。 美人や思うて付き合うてた相手が、実はトミ子
級
(
きゅう
)
のブスやったら、めちゃめちゃ引くよな。それは
猛烈
(
もうれつ
)
などんでん返しや。 見たい。たとえホラーでも。俺はそういうの、トミ子で
大概
(
たいがい
)
慣
(
な
)
れている。もう、そう簡単には
驚
(
おどろ
)
かへんで。 トミ子を
超
(
こ
)
えられるブスは、そうそう
居
(
お
)
るはずないんやからな。下っ
腹
(
ぱら
)
に
気合
(
きあ
)
いを入れてれば平気や。
気絶
(
きぜつ
)
したりせえへん。 「あんたは
醜
(
みにく
)
いわけやおへん。美しい神さんや。今のその
姿
(
すがた
)
も、
偽物
(
にせもん
)
やおへんえ。それもあんたの
正体
(
しょうたい
)
やろう。そやけど、あんたが
己
(
おのれ
)
の
醜
(
みにく
)
さとして、
恥
(
は
)
じて
隠
(
かく
)
しているそれを、ちゃあんと見せへんかったら、あんたが何で
狂
(
くる
)
うてんのか、誰にも分からへん。この
坊
(
ぼん
)
に
仕
(
つか
)
えようというんやったら、あんたのほんまのところをさらけ出さなあかん。ウチにしか言われへんのやったら、よそへ行ったらあかんえ。一体
誰
(
だれ
)
があんたの気持ちを、ほんまに分かってくれるんや?」
蔦子
(
つたこ
)
さんは、まっすぐ見つめ、
確
(
たし
)
かに
問
(
と
)
いかける
口調
(
くちょう
)
で言うていたけど、
朧
(
おぼろ
)
は
虚脱
(
きょだつ
)
したように、ぽかんとしていて、何も答えへんかった。 その
優雅
(
ゆうが
)
に
組
(
く
)
んだ
膝
(
ひざ
)
の上にある白い手を、
蔦子
(
つたこ
)
さんがいきなり
掴
(
つか
)
んだ。それでも
朧
(
おぼろ
)
はぼんやり見ていた。その場にいる全員の目が、たぶん
朧
(
ぼおろ
)
を見ていたやろう。 俺はどこかで、この
綺麗
(
きれい
)
で
品
(
ひん
)
のええような男が、ものすご
醜
(
みにく
)
い何かに
変転
(
へんてん
)
するのを
期待
(
きたい
)
していた。
確
(
たし
)
かにそれは、
期待
(
きたい
)
どおりの
出来事
(
できごと
)
やったかもしれへん。せやけど俺はちっとも、笑いたいような気にはならへんかったんや。 「
正体
(
しょうたい
)
を、
顕
(
あらわ
)
し
給
(
たまえ
)
え」
単純
(
たんじゅん
)
な、そして
霊力
(
れいりょく
)
をこめた
一言
(
ひとこと
)
で、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
朧
(
ぼおろ
)
にそう
求
(
もと
)
めた。 それはやっぱり、命令とは違う。
巫女
(
みこ
)
が神にお
頼
(
たの
)
み
申
(
もう
)
す
一言
(
ひとこと
)
で、きちんと
敬意
(
けいい
)
が
籠
(
こ
)
められていた。
蔦子
(
つたこ
)
さんは
朧
(
おぼろ
)
のことを、神やと思うてるらしい。アキちゃんのおとんが、そう思うてたのと同じように。
鬼
(
おに
)
やない、神なんやって。 それは
極
(
きわ
)
めて、
微妙
(
びみょう
)
なところや。人や物を、見た目で
判断
(
はんだん
)
するんやったらな。
蔦子
(
つたこ
)
さんが
握
(
にぎ
)
りしめた手首の
辺
(
あた
)
りから、
朧
(
ぼおろ
)
は
唐突
(
とうとつ
)
に、
目映
(
まばゆ
)
いような白い光を
発
(
はっ
)
した。 それは冷たい光やった。そして、
鉄
(
てつ
)
でも
煮溶
(
にとか
)
かすような、熱い熱い
光線
(
こうせん
)
やった。
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椎堂かおる
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