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24-39 トオル

 普通(ふつう)かどうかなんて、(だれ)も気にしてへん。少なくとも蔦子(つたこ)さんは気にしてへんわ。我が子が不老不死(ふろうふし)になることだけに着目(ちゃくもく)している。それ以外は、まあええかみたいな。 「秋津(あきつ)は代々、不老不死(ふろうふし)仙人(せんにん)を生み出すことを悲願(ひがん)としてきた家系(かけい)どす。水煙(すいえん)から聞いてませんのか。あんたがその完成品や。ほんまに不老不死(ふろうふし)なんやったら」 「あ……あのな、蔦子(つたこ)おばちゃま。(だれ)でもなれるわけやないんやで。運や素養(そよう)が足りんかったら、化けモンなってまうリスクも、かなりの(りつ)であるんやで。それに竜太郎(りゅうたろう)にはまだちょっと早いんやない? だって十三才とかやろ、あいつ。それで止まってまうんやで? 大人(おとな)になられへんのやで」  俺は常識的(じょうしきてき)な線から()めてみた。永遠(えいえん)の十三才というのは、さすがにちょっと(きび)しいやろう。秋津(あきつ)のおかんみたいな永遠(えいえん)の十八才やったらイケてるけど、十三才はちょっと(わか)すぎやもんな。そうやない? 「かましまへんやろ、別に」  かましまへんのやって。俺はますます(あせ)出てきちゃいましたよ。 「あの子は(りゅう)の血を引いてますのや。霊力(れいりょく)かて人並(ひとな)み以上にあります。それで素養(そよう)に不足はないやろ」 「もしかすると霊力(れいりょく)は、そんなに関係ないねんで、おばちゃま。言いづらいけど、たぶん俺の(かん)ではな、その和合(わごう)には、愛が必要なんやで?」  そうやと思うねん。アキちゃんが俺よか無節操(むせっそう)に進化したりしてへんかったらの話やけども。  俺は過去(かこ)に何度かは、入れあげた相手を自分の眷属(けんぞく)にしようと思ったことがある。  気に入った相手だけやった。それでも成功せえへんかった。上手(うま)くいったと思えるのは、アキちゃんと、後はギリギリ藤堂(とうどう)さんくらいのもんでな。その二人(ふたり)の共通点て、たぶん、愛やと思うんやなあ。  でも(ちょう)言いにくい。今は言いにくい。せめてアキちゃんのおらんとこで話したい気持ちでいっぱいです。  愛してる、俺と永遠(えいえん)にずっと、一緒(いっしょ)にいてくれと思えるような相手にでないと、俺はその不老不死(ふろうふし)(さず)けられへんらしい。  失敗すると、相手を化けモンに変えてしまう。見るも無惨(むざん)なモンスターにな。  相手の霊力(れいりょく)、関係ないんやないか。だって、(たし)かにアキちゃんはすごい神通力(じんつうりき)を持った(げき)やけど、藤堂(とうどう)さんは一般人(パンピー)なんやで?  それでも何か、言いしれぬカリスマは持ったオッサンやと思うけど、アキちゃんや竜太郎(りゅうたろう)が持っているような霊力(れいりょく)はない。 「リスキーすぎるで、蔦子(つたこ)さん。竜太郎(りゅうたろう)が化けモンなってもええんか?」 「(ぼん)竜太郎(りゅうたろう)を愛してくれればええだけの話ですやろ」  ほんまや。そうやなあ。それであっさり解決(かいけつ)やんか。盲点(もうてん)やったなあ、気付かへんかった。(とおる)ちゃん、うっかりしてたわ。  って、オイ。(だれ)の前でその話しとんねん。鬼退治(おにたいじ)大目(おおめ)に見よかみたいな事は思うたけどな、竜太郎(りゅうたろう)は人間やんか。  あいつ今のままでも充分(じゅうぶん)イケてるから。これ以上、(すご)くならんでええから。アキちゃんが愛しちゃう必要ぜんぜんないやろ!  ええかげんにせえよと思って、俺が(あせ)って(なが)めると、アキちゃんはさすがに、ドン引きしたような青い顔やった。 「蔦子(つたこ)さん。そんな簡単(かんたん)に言わんといてくれ。俺は竜太郎(りゅうたろう)のことは可愛(かわい)いけど、そういう意味でやないよ。年の(はな)れた弟みたいなもんやんか。それに俺は、あと一日二日で死ぬんやろ。それでどないせえ言うんや……ありえへんやろ」 「(おぼろ)寝取(ねと)っていったくせに、よう言いますわ」  けろっと言われて、アキちゃんグサーッと来てた。たぶん電柱(でんちゅう)ぐらいのが()さってた。  お前は手が早いと(ののし)られている、それが死ぬほどショックみたいやった。 「でも……それは……竜太郎(りゅうたろう)はまだ子供(こども)やし。それに親戚(しんせき)やんか」 「ウチとあんたのお父さんは親戚(しんせき)やけど、許嫁(いいなずけ)どしたえ。それにウチには竜太郎(りゅうたろう)は、あんたに本気のように見える」  (にが)い顔して、蔦子(つたこ)さんは言うた。アキちゃんはさらにもう一本、電柱(でんちゅう)の横に道路標識(ひょうしき)ぐらいは()さったみたいやった。親御(おやご)さんに言われると、どうしてええかわからんよな。 「そういうのは、(こま)りますのんや、親としては。せやけど人が、ほんまの(こい)をするのに、年が関係あるやろか。登与(とよ)ちゃんなんか、アキちゃんのことを、物心(ものごころ)つく(ころ)から好きやったて言うてましたえ。あの子はそれをずっと、(むね)()めてたんや」 「でも、俺は……蔦子(つたこ)さん。好きな相手がもう()るんや」  ふらふらの小声で、アキちゃんはやっと言うてた。どないして身をかわせば(かど)の立たへん話か、ものすご(なや)んでるらしい。  でも、ぶっちゃけアキちゃんはな、竜太郎(りゅうたろう)がストライクゾーンから()れてるだけやねん。中一とやる趣味(しゅみ)はないだけ。これが五年十年たったら、正直わからんで。  でも、(こま)ったという、(せつ)ない顔をして、やむなくそうゲロってるアキちゃんの顔は、本気みたいやった。  自分にはもうツレがおるから、(ほか)のは好きになられへん。そんな気はないと、言うてるらしい。  どの(つら)()げてって感じやねん。今でもすでに俺と犬と、(おぼろ)様を(はべ)らして、水煙(すいえん)にもくらくら来てる。そんな男がやで、好きな相手がもう()るねんやないよ。関係あらへんのが現状(げんじょう)やないか?

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