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24-42 トオル
それ、預言者 とかいうらしい。
イエス様も元々は預言者 やったし、イスラム教の教祖 になったモハメッド様もそうや。
預言者 と予言者 は別モンやで。ほんまに知りたかったら遥 ちゃんにでも聞いて、あいつ神学者 なんやから。
とにかくな、よう考えてみたら、アキちゃんかて今は預言者 や。だってヤハウェからの依頼 で、鯰 と龍 を退治 する仕事を請 けた。
いろんなメッセンジャーを経由 してやけどな。
だって、ヤハウェ級 の神さんが直々 にお告げに現 れるというのは、人界 に支障 がありすぎて、絶対 ありえへんのやから。
ウラヌスやプルトーが降臨 するようなもんやで。もっとかもしれへん。
だってギリシア神話の神々を、知識 やのうて神として信仰 してる人らの数と、ヤハウェを祀 っている人数とを考えてもみろ。未 だに人界 に活 きている神やからな。
人づてとはいえ、そんなヤハウェの依頼 を受けた。これがアキちゃんの、覡 としての本格的 な、最初の仕事やった。どえらい依頼人 が来たもんや。お客様はほんまもんの神様やないか!
もともとヤハウェは素養 のあるやつを選んでんのや。大仕事 を頼 むのに、その能力 のない奴 にやらせても気 の毒 やしな。やればできる子を探 し出 して頼 む。そういうふうになってるらしい。
実際 アキちゃんは、やればできる子や。できすぎてる。
ものすご覚醒 してもうてる。霊力 ダダ漏 れしてる。
漲 りすぎてる。蕩 けかけてる。
触 れた肌 が、濡 れてるはずやのに、ものすご熱い。人間の体温と思われへん。灼 けた鉄 みたい。熱い。火が出えへんのが嘘 みたい。
俺はもう触 ってられへんようになってきた。気持ちの上では、しっかりしてえなアキちゃんて、縋 り付 きたいけども、灼 けた鉄 に抱 きつける奴 、おるか。おらへんやろ。
俺はそういうふうにはできてへん。水属性 やねん、度 を超 えた熱には弱い。
「めっちゃ熱いで、アキちゃん! どないなってんのやこれは」
俺が焦 って叫 んでいると、瑞希 ちゃんもびっくりしていた。
こっちは熱いの平気らしかった。腹立 つ、俺を押 しのけやがって、どうしたんや先輩 と、めっちゃ馴 れ馴 れしくアキちゃんの肩 を握 りにいった。
「やばい、燃 えてる。普通 の人間やったら発火 してんで。先輩 、止めなあかんよ!」
「止め方が……わからへんねん」
ぼんやり答えるアキちゃんは、案外 まだまだ平気そうな、しっかりした声やった。
この子はやっぱり普通 の人間やない。俺のせいで外道 になってるせいもあるかもしれへんけど、一種の超人 やったんや。
肉体のほうの強靱 さも並 みでない。秋津 の人らは仙人 になるのを目指して、なりふり構 わずいろいろ頑張 ってきた血筋 やという話やったし、そんなご先祖 様たちのなんやかんやが、末裔 であるアキちゃんを、ただもんではない子にしてもうてんのやろ。
「わからへんの?」
ぎょっとしたように信太 が訊 いてた。
「締 めればええのどすえ、坊 」
おろおろしたふうに、蔦子 さんが教えてやっていた。でもそれ、具体性 なくて意味わからへんで、蔦子 おばちゃま。
「締 めるって、なにを?」
全身からすでに、とろみを帯 びてきた霊水 をたらたら流しつつ、アキちゃんは餡 かけみたいになっていた。美味 そう。でも、熱すぎて食えへん。ベロ火傷 する。
「何をって、天地 と通じてる力の出口をどす。わかるやろ?」
そんなん常識 やろ、うちの血筋 の子ぉやったら、当然できますやろ的な口調で、蔦子 さんは焦 って言うてた。
「わからへん……」
ため息ついて、アキちゃんは熱い空気を吐 いた。
それは俺には、ものすご甘 い匂 いに感じられた。
なんかなあ。桃 っぽい。いい匂 いがする。それだけで、フラフラはあはあ来そうな、脳天 クラクラ来るような、美味 そうな匂 いやった。
ただ熱すぎる。俺、猫舌 やねん。
「わからへん……どうなんのや、これ」
アキちゃんは、熱に浮 かされたふうに、ソファで深く項垂 れ、両腕 で頭を抱 えた。
どろどろ甘 い匂 いを放つ霊水 が、ぼたぼた塊 になって床 に落ちてきた。濃度 上がってませんか。最初はサラサラした水みたいやったのに。
「抜 かな、ヤバない? 今すぐ皆 で吸血 パーティーしよか。エロでもええけど。でも……そんな暇 なさそうやで」
あっけらかんと、緊張感 のない声で、湊川 がそう提案 していた。パーティーのお誘 いやった。
「無理や。俺は熱いもん食いたない」
膝 の間にラジオ抱 いてる氷雪系 が、いかにも嫌 そうに言うた。
お前も猫舌 か。そんな贅沢 言うとる場合か。
しかし命がけで餡 かけ食う奴 がおらんのも無理はない。今のアキちゃん食えんのは、灼 けた鉄 でも美味 い言うて、平気で食えるような奴 だけや。
そんな奴 どこにおんねん!
おるで。もちろん。虎 の肩 を枕 に、ぐうすか寝 てる奴 がおるやん。
寛太 がそうや。こいつは不死鳥 なんや。基本 燃 えてる。火の鳥やねんから。
いっぱい眠 って腹 減 ったんか、それとも、甘 い桃 風味みたいなのが、ぷうんとお鼻に匂 ったせいか、ううんて呻 いて、寛太 は目を醒 ました。
虎 がつついて起こしたんかもしれへん。とにかく寛太 は寝 ぼけた顔して、とろんと目を開いた。
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