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24-45 トオル

 ぶっちゃけ信太(しんた)はアホなやつが好きやったみたい。保護(ほご)(よく)強い男やねん。  それで何で俺がちょっぴり好みやったんか、どついたろかて思うけど、とにかく、こいつアホやなあ、なんて不器用(ぶきよう)やねん、俺がついて守っといてやらんと、死ぬんちゃうかみたいなのが好き。  それで(おぼろ)もツボやったんやしな。  せやけど(おぼろ)様はアホやないねん。アホでエロボケみたいに見えて、あれでけっこう才人(さいじん)なんやで。教養(きょうよう)あんねん。大ざっぱやけどな、知識(ちしき)豊富(ほうふ)よ。  だってテレビやラジオやインターネットで、教育的コンテンツとかあるしな。(わり)と物知りよ。それに仕事もできるしな、(だれ)面倒見(めんどうみ)んでも、(なん)なく器用(きよう)にひとりで生きていく(やつ)よ。ただちょっと、(さび)しがり()というだけで。  でも、そんな、(おぼろ)のゴーイング・マイウェイというか、俺にかまうな、セックスしたい時だけ相手しろみたいな身も(ふた)も無さは、(とら)にはツボではなかった。いつも自分を求めててほしかった。お前なしでは片時(かたとき)()ごせへんみたいな、ふにゃふにゃが良かった。  実際(じっさい)に口に出してそうせえと要求はしなくても、内心そんなのが好きというのは、(だれ)しもあるやろし、それに()えるというのは、本人にもどうしょうもない。性癖(せいへき)なんやから。  (だま)ってれば普通(ふつう)は分からへんしな、我慢(がまん)してればバレへん。  せやのに赤い鳥さんは、お節介(せっかい)にもそれを見抜(みぬ)いた。そして、お前はこういうのが好きなんやろうと、それそのもののべったり(あま)い、兄貴(あにき)兄貴(あにき)って()()ってくるアホな子になって、(とら)の弱点にど真ん中、ジャストミートしてみせたんやな。  (たし)かにそれは小悪魔的(コケティッシュ)やろう。(ねら)ってやってた(わけ)やないかも。ほんまにアホみたいやったしな。ただ愛してほしくて、必死でやったらそうなってましたっていうだけなんちゃうか。  (とら)もそれに完璧(かんぺき)(ほだ)されてもうた。だってそれは無理やん。()れた()れたを()きにしたかて、寛太(かんた)(とら)さん()きでは生きていかれへん(やつ)やった。  (はら)()って死んでまう。存在(そんざい)理由を見失って、消えてまう。(えさ)やって守ってやらなあかん。お前は不死鳥(ふしちょう)やって言い聞かせて、お前が必要なんや、愛してるんやでって、ずっと言うといてやらなあかん。  寛太(かんた)はそれに(こた)える。(とら)好みの、いかにもアホみたいな笑顔(えがお)で。愛してるみたいな、熱っぽく(うる)んだ(うれ)いのある目で。だってほんまに()れてたんやもんな、信太(しんた)に。  ほんでその一方で、(おぼろ)(とら)を必要とはしてへんかった。好きは好きで、たまに顔を合わせて()()う時には、にこにこ(やさ)しかったかもしれへんのやけど、湊川(みなとがわ)はけっこう風来坊(ふうらいぼう)らしいねん。  突然(とつぜん)ふらっと旅に出て、どこ行ったんか、いつ帰るんか、わからんようになってまう。その間、(とら)は放置されていた。  湊川(みなとがわ)()餅焼(もちやき)かへんし、俺が()らん間、(ひま)なんやったら、(だれ)適当(てきとう)なんとセックスしとけば? ほなまたね! みたいなノリや。  てめえも気に入ったのがいたら、一瞬(いっしゅん)もためらわず口説(くど)いて()てるしな。  エロが好きやねんて、怜司(れいじ)(にい)さんは。スポーツみたいなもんなんやって。  スカッと(さわ)やかに一発()いて、ああええ(あざかし)かいたわあ! みたいな人やねん。  それはもう、どうしようもない。そういう性癖(せいへき)なんやから。ずうっと前からそうなんやって。  運命的な(こい)をしようが、脳天(のうてん)原爆(げんばく)が落ようが、それは治らんかったんやしな、もう治るわけないよ。  病気やない、それが怜司(れいじ)(にい)さんの本質(ほんしつ)やねん。(だれ)でも大好き、イケてる思うやつがいたら、(まよ)わず突撃(とつげき)取材(しゅざい)やないか。  好奇心(こうきしん)に勝たれへんねん。それが正しいと思うてんのや。  せやけどそれが(とら)には()(がた)くても、それもまあ、しゃあないわな。自分が恋人(こいびと)なんやと思うてんのに、相手は誰彼(だれかれ)(かま)わずや。自分が浮気(うわき)してる赤い鳥さんとすらセックスする。寛太(かんた)可愛(かわい)可愛(かわい)いや。もう(わけ)わからへん。  いくら愛してても、ついていかれへんようになる。  それに(おぼろ)様は、どうせ(だれ)も愛さへん。そういう意味では愛させへんねん。  暁彦(あきひこ)様でない(やつ)のことは、愛されへんねん。  それももう、しょうがないやろ。だって今となってはそれがラジオの、唯一(ゆいいつ)存在(そんざい)理由や。それを取り上げてもうたら、(おぼろ)様は消えるんやないか。死んでまう。  (とら)(むな)しかったやろ。今度こそ一緒(いっしょ)に幸せになろうと思って()れた相手が、自分には()れてくれへん。  しかも本人がそれを(みと)めへん。出口のない迷路(めいろ)みたいなもん。  そこを()えてうろうろ彷徨(さまよ)ってる時に、めっちゃ美味(うま)そうな赤い鳥さんが、(わたし)を食べてとご光臨(こうりん)(いだ)いてやったら寛太(かんた)は、幸せすぎて泣いていた。  信太(しんた)はラジオを幸せにはしてやられへんけど、鳥やったらできる。そんな赤い鳥さんと、見つめ合って生きていってやるほうが、なんぼかましやと、(だれ)でも思わへんやろか。  それとも、不実(ふじつ)かな。それは。俺にはよう分からん。他人事やし、どうでもええわ。  とにかく(とら)は、寛太(かんた)とくっついたほうがええよ。けろっと明るい適当(てきとう)男で、話せば楽しい遊び人みたいやのに、信太(しんた)怜司(れいじ)兄さんを見るときの目は、ものすご(さび)しそうやった。

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