472 / 928

24-50 トオル

 この人、なんでこんなんなんやろなあ。  でも、こんな性格(せいかく)やから、良かったこともあるんとちゃうか。  皆(みな)、自分を基準(きじゅん)にもの考えるやろ。朧(おぼろ)様は本気で死ぬほど好きな相手がおって、それに夢中(むちゅう)になってても、焼鳥屋(やきとりや)で隣(となり)に座(すわ)ったオヤジがイケてたら、ちょっと食うてみようかなと思うらしいで。  仕事場の上司(じょうし)とかも、とりあえず食うとくらしい。  やりたい言うやつは、とりあえず食うとくらしいで。スキンシップとボディランゲージでしか分からんモンが、世の中にはあるらしい。  あるかもしれへんけどな。親睦(しんぼく)を深めるために、いちいちセックスする人、俺の知る中ではこの人くらいやなあ。相手を知るためには、とりあえず寝(ね)てみれば分かるんやって。  それは鬼畜(きちく)米英(べいえい)でもナチでも同じ。裸(はだか)に剥(む)いたらみんな同じ人間やったんやから。やることおんなじやから。話す言葉は違(ちが)っても、喘(あえ)ぐ声にはさほどの違(ちが)いはないんやから。  言葉を越(こ)えれば無問題(モウマンタイ)。エロエロ国際化(グローバリゼーション)。ラブラブで平和(ピース)に。それが怜司(れいじ)兄(にい)さんの戦後の哲学(てつがく)らしい。  とんでもない事になってきています。エロで俺を越(こ)えてる奴(やつ)が居(お)るとは、ほんまに世界は広い。  まあ、そんな、世界各国に体当たり取材(しゅざい)をかけている怜司(れいじ)兄(にい)さんには熱烈(ねつれつ)なファンが多い。幼児(ようじ)から爺(じい)まで、いろいろ幅広(はばひろ)い層(そう)から愛されている。  水煙(すいえん)様を別にすれば、こいつが嫌(きら)いやという奴(やつ)を、俺は見たことがない。こんなキワモノでありながら、怜司(れいじ)兄(にい)さんは誰(だれ)からも愛されるタイプ。そして誰(だれ)でも愛しちゃうタイプ。  そんな奴(やつ)やねんからな、独占(どくせん)しようと思うほうが間違(まちが)っている。徒労(とろう)や。それを望(のぞ)んだところで、いちいちしんどい思いをするだけや。  こいつをツレにしようと思ったら、まさしく神のごときキャパが必要になってくる。神にならんと無理。  俺がアキちゃんと連れ合(お)うたせいで、めちゃめちゃ悟(さと)りをひらいてもうたように、激(はげ)しく突(つ)き抜(ぬ)けへんかったら無理。  信太(しんた)はその点、まだまだや。独占欲(どくせんよく)が強すぎる。  もしかした朧(おぼろ)様とは、ご縁(えん)がなかったんかもしれへんな。  それについて、おとん大明神(だいみょうじん)はどうなんやろか。昔、まだまだ生きてるボンボンやった頃(ころ)には、浮気(うわき)せんといてくれみたいなニュアンスむんむんやったっぽいけど。  浮気(うわき)って、てめえが浮気(うわき)で付き合(お)うとんのやないか。なにが浮気(うわき)せんといてくれや。じっと自分の胸(むね)に手をあてて考えろ!  それでも、そんな我(わ)が儘(まま)なおとんに、朧(おぼろ)様は適当(てきとう)に付き合(お)うてくれた。  浮気(うわき)せんかったんやないで。バカスカしたらしい。  もう、浮気(うわき)せんといてくれって言う気も起きへんくらい、バカスカしてやったんや。  しかもそれを暁彦(あきひこ)様に話す。あっけらかんとしてんねん。  そして暁彦(あきひこ)様が他(ほか)のと寝(ね)ようが、ちょっと本気でのめりこんでようが、それに怒(おこ)るどころか、そんなにええんか、俺にも貸(か)せって言うらしい。  それこそ現実(げんじつ)の話と思われへんわ。爆笑(ばくしょう)や。  だって他人事(たにんごと)なんやしな。俺には関係ないもん。  独占欲(どくせんよく)の強かったらしい秋津(あきつ)のおとんにとって、浮気(うわき)しまくる朧(おぼろ)様には常(つね)に視線(しせん)が泳いだやろう。  せやけど自分にも手に入らんもんはある。美しいけど独占(どくせん)でけへん野生(やせい)の鳥のように、朧(おぼろ)の龍(りゅう)はふらふら夜空を舞(ま)っていて、気に入った寝床(ねどこ)があればそこで寝(ね)る。  そしてそれの何が悪いねんという態度(たいど)。気にせんとお前も気にあった相手がおったら夜を楽しめ。何なら三人で。それで足りなきゃ十五人ででも。気にすることない、適当(てきとう)でええねんて、本気で言うてる朧(おぼろ)様は、まさに地獄(じごく)に仏(ほとけ)やったやろ。  なんで朧(おぼろ)が暁彦(あきひこ)様を独占(どくせん)しようとしなかったのか。それは単純(たんじゅん)な話やったらしい。これは後々本人から聞いたネタやから、間違(まちが)いはない。  暁彦(あきひこ)様はイケてる男や。みんな好きやろ。それで当然やと朧(おぼろ)は思うらしい。  暁彦(あきひこ)様も気の多い男やで、面食(めんく)いやしな。気に入る相手がごろごろ居(お)るわ。  それに仕事やというのもある。式(しき)やら鬼(おに)やら手なずけなあかん。それに失敗してもうたら、斬(き)った貼(は)ったの刃傷沙汰(にんじょうざた)やら、修羅場(しゅらば)やら。とにかく暁彦(あきひこ)様が泣くことになる。  それは可哀想(かわいそう)。それやったらセックスしといたらええやん。お前のこと好きやて言うといてやったらいい。それで平和にいって、暁彦(あきひこ)様がいつもにこにこしてられんのやったら、それでええわと思うんやって。  確(たし)かにエロは気持ちええよな、俺も大好き。お前もやればええよと。  なんという深すぎて底知(そこし)れぬ愛の世界。ほとんど涅槃(ねはん)の境地(きょうち)やね。人間界の愛やないよ。弥勒菩薩(みろくぼさつ)やで。  俺は正直、そこまでイカレたくはないね。なりたくないやろ、皆(みな)も。  変やねん怜司(れいじ)兄(にい)さんは。まともな奴(やつ)とは連れ合われへんわ。  信太(しんた)では無理や、幸せになるどころか、お互(たが)いしんどいばっかりで。合うてへん。  割(わ)れ鍋(なべ)に綴(と)じ蓋(ぶた)というか、こいつはほんまに暁彦(あきひこ)様と合(お)うてたんやで。たぶん、そこではきっと幸せそうにしていたんやろう。  そんな日が、なんとかまた来んものかと、俺は正直ちょっと思うてた。

ともだちにシェアしよう!