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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-51 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-51 トオル
作者:
椎堂かおる
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24-51 トオル
秋津
(
あきつ
)
のおかんには悪いけどやで、そんなに好きで、ずうっと待ってんのに、おとんはカミングアウト以後にでも、こいつのところに顔も出してへんかった。そんなんちょっと、
薄情
(
はくじょう
)
やない? 俺、おとんがそんな
奴
(
やつ
)
と思うてへんかった。もっとイケてんのやと思うてた。アキちゃんより
格好
(
かっこ
)
ええかもとか
内心
(
ないしん
)
思うてた。 でも、そんなことないで。あのオッサン、めっちゃ
臆病者
(
おくびょうもの
)
やんか。
奥
(
おく
)
ゆかしいといえば、ええように聞こえるけど、あんなビビった手紙一通きりで、
朧
(
おぼろ
)
様とは切れたつもりか。
甘
(
あま
)
えんのも
大概
(
たいがい
)
にせなあかん。
水煙
(
すいえん
)
のことにしてもさ。あっさりしすぎやで。事前になんか
二人
(
ふたり
)
の間で、さようなら今までありがとう的な別れの
儀式
(
ぎしき
)
があったんやったら別やけど、ジュニア行け、ほなさいなら、って、ひどいやないか。
水煙
(
すいえん
)
かて
傷
(
きず
)
つくよ。 あいつの
心臓
(
しんぞう
)
、
鉄
(
てつ
)
でできてんのかもしれへんけど、おとんはそれでも
傷
(
きず
)
つくくらいの
強打
(
きょうだ
)
をかけてるような気がするで。 とにかく、
振
(
ふ
)
りかたがひどい。ぽいって
捨
(
す
)
てていくみたい。それはおとんの
癖
(
くせ
)
なんか。 「あんたら、アホなことばっかり言うてんと。どうなんや、
坊
(
ぼん
)
。
治
(
おさ
)
まったんか、力が
溢
(
あふ
)
れてしまうのは」
蔦子
(
つたこ
)
さんは室内ののんびりムードに
困
(
こま
)
ったらしかった。よかった、おばちゃまは多少なりとマトモで。 「
治
(
おさ
)
まって……ない、みたいやけど、ずっとこいつと
人工
(
じんこう
)
呼吸
(
こきゅう
)
しとかなあかんのは
困
(
こま
)
る」 なかなか
退
(
ど
)
いてくれへん鳥さんに、アキちゃん泣きそうみたいやった。 なんで泣きそうなんや。なんか
我慢
(
がまん
)
してるっぽい顔やけど気のせいか。 「お前もええかげん
退
(
ど
)
いてくれ。俺かて
虎
(
とら
)
と
喧嘩
(
けんか
)
したないねん」 助けて
貰
(
もら
)
っておきながら、鳥さんに
礼
(
れい
)
もなしか、アキちゃん。 まあ、そんな
余裕
(
よゆう
)
ないわな。 それにギブ・アンド・テイクな
面
(
めん
)
もある。鳥さんはものすご満足したらしかった。 出て行けと、お
膝
(
ひざ
)
から追い出され、
寛太
(
かんた
)
はのろのろ
降
(
お
)
りて、また
虎
(
とら
)
の
隣
(
となり
)
に
戻
(
もど
)
って行っていた。そして、ぎゅうっと身を
寄
(
よ
)
せて
座
(
すわ
)
り、にこにこ
信太
(
しんた
)
と
腕
(
うで
)
を
絡
(
から
)
めていた。 「ものすご
腹一杯
(
はらいっぱい
)
になったわ、
兄貴
(
あにき
)
。こんなに
満腹
(
まんぷく
)
したんは生まれて初めてかもしれへん」 「そうか。良かったなあ。これでまたお前も成長するやろ」 にこにこと、
微
(
かす
)
かに
苦笑
(
くしょう
)
も
混
(
ま
)
ざっている目で、
虎
(
とら
)
は
寛太
(
かんた
)
を
眺
(
なが
)
め、ぐしゃぐしゃになっている
真
(
ま
)
っ
赤
(
か
)
な
髪
(
かみ
)
を、手
櫛
(
くし
)
でとかしてやっていた。 その手にはまた、
髑髏
(
どくろ
)
の指輪があった。
寛太
(
かんた
)
が返してきたらしい。それはまるで、死の
呪
(
のろ
)
いのかかっている
奴
(
やつ
)
につけられた、
不吉
(
ふきつ
)
な印のようやった。 「せやけどな、
寛太
(
かんた
)
。いつまでも
無駄飯
(
むだめし
)
食うとうと、
行
(
い
)
き
詰
(
づ
)
まってしまうんやで。成長すればしただけ、お前はもっと
腹
(
はら
)
が
減
(
へ
)
るやろう。今までは、死なん
程度
(
ていど
)
にしか食わせてなかったけど、もうスイッチ入ってもうてるしな。お前も
立派
(
りっぱ
)
な
不死鳥
(
ふしちょう
)
になって、人から神やと
崇
(
あが
)
めてもらえるようにならんかったら、ほんまに
悪魔
(
あくま
)
にでもなるしかないで。人でも食わんと自分を
養
(
やしな
)
っていかれへんようになる」 「そうなん? でも……
平気
(
へいき
)
やん? 俺には
兄貴
(
あにき
)
が
居
(
い
)
とうのやし」 けろっと何の心配もしてへんような顔をして、
寛太
(
かんた
)
はにこにこしていた。 「俺がいつまでも
居
(
お
)
るとは
限
(
かぎ
)
らへんやろ。それにお前が、俺が
食
(
く
)
わしてやられへんぐらい育ってもうたら、どうするつもりや。
結局
(
けっきょく
)
また、あっちこっちに
餌場
(
えさば
)
を作って、
季節
(
きせつ
)
ごとにそこを
渡
(
わた
)
り
歩
(
ある
)
くんか?」
確
(
たし
)
かにこいつは
渡
(
わた
)
り
鳥
(
どり
)
みたいなもんやろな。 シーズンごとに、
餌
(
えさ
)
の
豊富
(
ほうふ
)
な相手を
渡
(
わた
)
り
歩
(
ある
)
いて生きてきたんやしな。 夏は
虎
(
とら
)
、冬は
眼鏡
(
めがね
)
で、
優
(
やさ
)
しい
怜司
(
れいじ
)
兄
(
にい
)
さんは年中ゴハン
食
(
くら
)
わしてくれる。そのほかにも
臨時
(
りんじ
)
のオヤツや夜食を
食
(
くら
)
わしてくれる相手がいたら、それからも食う。 なんでそんなに
腹
(
はら
)
減
(
へ
)
るんやろう。 俺はそこまでがっつかへんけどなあ。アキちゃん
一人
(
ひとり
)
でお
腹
(
なか
)
いっぱいなれるけど。 それは俺が
育
(
そだ
)
ち
盛
(
ざか
)
りやないからや。 アキちゃんが
優秀
(
ゆうしゅう
)
な
餌場
(
えさば
)
やというのもあるけども、俺はもう生まれてから
随分
(
ずいぶん
)
たってる。そういう意味では安定してるし、自分の
力加減
(
ちからかげん
)
をコントロールできてるんやと思う。 それに対して
寛太
(
かんた
)
はまだまだ生まれたてやし、どれくらいの
規模
(
きぼ
)
の神になろうとしてんのやら、
見当
(
けんとう
)
付
(
つ
)
かへん
状況
(
じょうきょう
)
や。食えば食うだけ育ってるっぽいで。 今またアキちゃんから、てんこもり食うていったので、どんだけデカい鳥になるんや。 「
渡
(
わた
)
り
歩
(
ある
)
くのは、
嫌
(
いや
)
やけど。でも、どうしたらええの?」 「なんか人間の
役
(
やく
)
に立つことをしろ。楽しかったり助かったり、
励
(
はげ
)
みになったり。そういうのや。
怜司
(
れいじ
)
は
噂
(
うわさ
)
やねんで。こいつはそれで役にも立つし、人に信じられている。そういうものと関連づけされている神や。俺は
虎
(
とら
)
やろ。元は
四神相応
(
しじんそうおう
)
の
精霊
(
せいれい
)
やねん。なんでか今は野球の神さんやけど。野球が好きすぎたんがあかんかったんかな。いや、良かったというか……」
信太
(
しんた
)
はブツブツ言うてた。
微妙
(
びみょう
)
なんか、
阪神
(
はんしん
)
タイガース。めちゃめちゃ好きなくせに。 「とにかく、お前は
神戸
(
こうべ
)
のフェニックスなんやろ。十年前に、この街の人らが強く
不死鳥
(
ふしちょう
)
を求めた時に、その
思念
(
しねん
)
によって生まれた鳥なんや。せやし、この街の人らがな、お前の
信仰
(
しんこう
)
の
母体
(
ぼたい
)
やで。その
神戸
(
こうべ
)
っ子たちに、フェニックスはほんまに
居
(
い
)
とうのやって、信じてもらわなあかんのや。この街を
不死鳥
(
ふしちょう
)
が
守護
(
しゅご
)
しとうのやって、
皆
(
みな
)
が本気で思えるような
霊威
(
れいい
)
を
示
(
しめ
)
さなあかん」
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椎堂かおる
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