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24-52 トオル

「ていうかこいつ、神戸(こうべ)守護(しゅご)してんの?」  俺は基本(きほん)のところを聞いてみた。(はなし)(こし)を折られてもうたんか、(とら)は軽くガクッて来てた。 「……してるよ、(とおる)ちゃん。一応(いちおう)してんねん。微妙(びみょう)やけど。神戸(こうべ)といえばフェニックスやねん。知らん?」 「知らんことないけど。そういえばそんな話もあったなあ程度(ていど)やで」  寛太(かんた)はにこにこしてたけど、(とら)はますますガクッと来てた。 「霊威(れいい)がな、足りてないんや。実感(じっかん)ないからな、神戸(こうべ)の人らも、もうええわフェニックスってなってまうんや。スローガンだけではあかんねん」 「一時はだいぶフューチャーしたんやけどなあ」  コーヒーテーブルに置かれていた箱から、(だれ)のものかも分からん煙草(たばこ)を一本とって、湊川(みなとがわ)もにこにこ言うてた。そして、火つけてくれるか、って、にっこり寛太(かんた)(たの)んでた。  うんうんて、可愛(かわい)げのある愛想(あいそ)のいい()みで、寛太(かんた)(おぼろ)のくわえた煙草(たばこ)の先に指をもっていってやり、前にもやっていたように、火をつけてやろうとした。  その指のあたりから、ぼおおっ、て猛烈(もうれつ)な火が()()てた。(おぼろ)()けへんかったけど、びっくりしていた。  煙草(たばこ)は半分くらい、(はい)になってた。眼鏡(めがね)氷雪系(ひょうせつけい)なんか、とっさの反射(はんしゃ)神経(しんけい)で、(はげ)しく()けてた。シャレにならんらしい。火で(あぶ)られるのは。  半分()()きた(はい)を、灰皿(はいざら)に落とすため、朧(おぼろ)煙草(たばこ)を指にとり、テーブルの上の灰皿(はいざら)で、とんとん(たた)いてた。 「俺、お前になんか(うら)まれるようなことした?」 「ごめん……ちゃうねん、怜司(れいじ)。いつも通りやったつもりやのに、なんでか(すご)い火が……」  しょんぼりとして、寛太(かんた)はおろおろ言うていた。 「ごめんやで。ほんまに……わざとやないねん」  俺は一瞬(いっしゅん)寛太(かんた)(とら)の前の相手やったラジオに()いてんのかと思った。  今も兄貴(あにき)未練(みれん)たらたらで、それで怜司(れいじ)(にい)さん(にく)いわと、そんなことまで思うようになったのかと。  でも、そういう(わけ)やないらしい。  寛太(かんた)(めずら)しく、びっくりしている微妙(びみょう)顔の(おぼろ)(きら)われたと思うたんか、(あせ)ったみたいにソファから()りて、(ゆか)(すわ)ってる湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)とぴったり(かた)(なら)べ、自分も絨毯(じゅうたん)の上に(すわ)った。  そうして(すわ)ると、小さいラジオみたいやった。体格(たいかく)がかなりミニチュア化してる。  寛太(かんた)は俺と大差(たいさ)ない身長やしな。モデル()みのデカさの湊川(みなとがわ)(くら)べると、かなりコンパクトやで。  なんか変なもんやった。そうして(なら)んで(すわ)っていると、いつも兄貴(あにき)兄貴(あにき)()んでいる信太(しんた)よりも、見た目()ている湊川(みなとがわ)のほうが、よっぽど寛太(かんた)兄貴(あにき)みたいやった。  自分によう()たとこもあるアホの寛太(かんた)可愛(かわい)いわと、まさかラジオは思うのか。それはナルシズムか。  ごめんな言うてる、しょんぼり寛太(かんた)のおでこにチューしてやってから、ラジオはにやにや苦笑(にがわら)いのまま、残った煙草(たばこ)()うていた。 「なんかさあ、火のほうばっかり育ってへんか。不死鳥(ふしちょう)いうたら再生(さいせい)能力(のうりょく)のほうがキモやろう。何かそれを()ばすような事、してやってへんの?」  ラジオが(とら)に話しかけたの、今回これが初めてやったんちゃうか。  明らかにラジオは(とら)()けていた。なんの後腐(あとくさ)れもないラジオの、それが後腐(あとくさ)れといえばそうやった。  別れてもうてもケロッとしてるという(ほど)ではない、(おぼろ)様にとっても、とりあえずその程度(ていど)の深い(なか)ではあったらしいで。  よかったなあ(とら)意識(いしき)してもらえて。 「してやるよ。明後日(あさって)」  むすっとしたように、信太(しんた)は答えた。すねてるみたいな声で。 「ええ? 明後日(あさって)って、お前……」  深刻(しんこく)そうに言うてから、(おぼろ)半笑(はんわら)いの顔をした。  そして、ものすごい(せめ)ぎ合いの表情(ひょうじょう)のあと、結局(けっきょく)笑った。あっはっはと声あげて、ものすご可笑(おか)しいみたいに(のど)そらし、(はら)(かか)えて笑っていた。  寛太(かんた)はそれを(となり)できょとんと(なが)め、やっぱり(わけ)わかってへん顔や。  (とら)憮然(ぶぜん)と足を組み、そこに頬杖(ほおづえ)ついていた。 「(うそ)やろ、マジか。てめえが死んでみせようというんか。まあ(たし)かに、それで目覚(めざ)めへんのやったら、こいつはただの火の鳥で、再生能力(さいせいのうりょく)がないんやわ」  ひいひい笑って、湊川(みなとがわ)はまだきょとんとしてる寛太(かんた)(かた)を、長い白い(うで)で、がしっと(いだ)いた。 「寛太(かんた)信太(しんた)が死んだらどないする?」 「ええ……そんなん、俺、(いや)やわ」 「泣けるやろ。そういうことやで。お前の(なみだ)には、死人でも(よみがえ)らせるような、高い霊威(れいい)があるはずや。ほんまに不死鳥(ふしちょう)なんやったらな」 「不死鳥(ふしちょう)やで俺は。ほんまにそうやで」  口を(とが)らせて、寛太(かんた)は今にもキスされそうな至近(しきん)距離(きょり)から、湊川(みなとがわ)文句(もんく)言うてた。 「ほんまにそうかどうか、明後日(あさって)になれば分かる」 「何があんの……明後日(あさって)」 「信太(しんた)葬式(そうしき)や」  ふはあと(けむり)()いて、湊川(みなとがわ)()()に笑いながら教えてやっていた。  寛太(かんた)はそれでも、きょとんとしていた。暗い表情(ひょうじょう)やったけど、それを信じてへんようやった。  ピンと()えへんのやろう。今すぐ(となり)にいて、めちゃめちゃ元気な(やつ)が、明後日(あさって)には死ぬと言われても、ちっとも実感(じっかん)()かへん。

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