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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-63 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-63 トオル
作者:
椎堂かおる
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24-63 トオル
誰
(
だれ
)
にもなんにも教えられてへんのに、アキちゃんは
縋
(
すが
)
る
蔦子
(
つたこ
)
さんをやんわり
脇
(
わき
)
に
押
(
お
)
しのけて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
にキスをした。 マウス・トゥ・マウスやで。俺が
傍
(
そば
)
におるというのに、それれに
気兼
(
きが
)
ねもなんもなし。 アキちゃん必死やったんやろう。 また死んでまう。自分のせいで
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が死んでもうたら、もう、つらい。
蔦子
(
つたこ
)
さんにも
世間様
(
せけんさま
)
にも、顔向けでけへん。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が
可哀想
(
かわいそう
)
すぎて、
耐
(
た
)
え
難
(
がた
)
いって、そんな
自責
(
じせき
)
の念に
駆
(
か
)
られて、それで頭がいっぱいになってた。 人間、必死になってれば、予想もつかん力が出たりする。いわゆる
火事場
(
かじば
)
の
馬鹿力
(
ばかぢから
)
。 アキちゃん
基本
(
きほん
)
は、それやから。大ピンチなってビビってもうて、実力
越
(
こ
)
えた実力を出す。ぶっつけ本番。
演習
(
えんしゅう
)
はない。 あるはずのない
渚
(
なぎさ
)
の
潮水
(
しおみず
)
に
濡
(
ぬ
)
れた、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
のひょろい体を
抱
(
だ
)
き
上
(
あ
)
げて、アキちゃんは
熱烈
(
ねつれつ
)
にキスしてた。 たぶん何かを
注
(
そそ
)
ぎ
込
(
こ
)
んでる。
水飴
(
みずあめ
)
みたいな、例のアレやろう。鳥さんが食うていた。熱くて
甘
(
あま
)
い、
桃
(
もも
)
みたいな
匂
(
にお
)
いのする、アキちゃんの
霊水
(
れいすい
)
や。
皆
(
みな
)
、それぞれ、あんぐりとして、それを見ていた。 もう、
普通
(
ふつう
)
の世界やないから。 中一と、
又従兄弟
(
またいとこ
)
のお
兄
(
にい
)
ちゃんの、
熱烈
(
ねつれつ
)
キッスやから。 それを、おかんがガン見やねんから。お
兄
(
にい
)
ちゃんのツレも見てるよー。犬も
呆然
(
ぼうぜん
)
やから。
水煙
(
すいえん
)
様も、こころもち首を
傾
(
かし
)
げた、
虚脱
(
きょだつ
)
したような顔のまま、じっとそれを見下ろしていた。 ただ
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
だけが、アキちゃんと
竜太郎
(
りゅうたろう
)
やのうて、ぼうっと見てる
水煙
(
すいえん
)
を、見ていたような気がする。俺も必死やったし、よう分からんのやけどな。 アキちゃんはどれくらい、そうして
竜太郎
(
りゅうたろう
)
にキスしてたやろか。 長かった気がする。ぴったり合わされていた
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の
唇
(
くちびる
)
から、ふとアキちゃんが
唇
(
くちびる
)
を
離
(
はな
)
すと、たらあっと
濃
(
こ
)
い
蜜
(
みつ
)
みたいなもんが、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の口の
端
(
は
)
から
溢
(
あふ
)
れて
垂
(
た
)
れた。もう満タンらしかった。 しばらく
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、ぐったりしたままやった。アキちゃんはその体を
抱
(
いだ
)
いて、じっと
真剣
(
しんけん
)
そのものの目で、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の顔を見つめていた。 気のせいか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の
頬
(
ほお
)
には、うっすら赤みがさしてた。まだまだ
蒼白
(
そうはく
)
やけど、それでも生きてるような顔色や。死んでるのに
比
(
くら
)
べたら、生きた人間の顔色になってきている。 一度強く
揺
(
ゆ
)
さぶって、アキちゃんは待ち切れんのか、声かけた。 「
竜太郎
(
りゅうたろう
)
!」 アキちゃんに
一喝
(
いっかつ
)
されて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
突然
(
とつぜん
)
、ごぼっと
吐
(
は
)
いた。 アキちゃんが
呑
(
の
)
ませた
霊水
(
れいすい
)
か。いや、
違
(
ちが
)
うっぽい。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が
吐
(
は
)
いたんは、うっすら
虹色
(
にじいろ
)
に
輝
(
かがや
)
くスライムみたいな、
透明
(
とうめい
)
なゼリーっぽい、つるんとした
塊
(
かたまり
)
みたいな
液体
(
えきたい
)
やった。 げほげほ苦しそうに
咳
(
せ
)
き
込
(
こ
)
んで、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はびっくりするくらいの量の、
虹色
(
にじいろ
)
光沢
(
こうたく
)
ゼリーを
吐
(
は
)
いた。
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
されたもんは、
片
(
かた
)
っ
端
(
ぱし
)
から
砂
(
すな
)
に
染
(
し
)
みこみ、
揮発
(
きはつ
)
するように消えていく。後には軽い、イオン
臭
(
しゅう
)
みたいのが
漂
(
ただよ
)
った。 ポカリスエットの
缶
(
かん
)
あけた時に、
一瞬
(
いっしゅん
)
匂
(
にお
)
う、苦いような
甘
(
あま
)
いようなアレやんか。知らん?
嗅
(
か
)
いだことない? 今度いっぺん、ポカリ飲む時、くんくんしてみて。 「時の水やわ……」 自分もかつて、その中を、泳いだことがあるという
口調
(
くちょう
)
で、
蔦子
(
つたこ
)
さんは軽い
驚
(
おどろ
)
きとともに言った。泣き笑いの
表情
(
ひょうじょう
)
やった。 そして、かすかな
躊躇
(
ためら
)
いの後、アキちゃんが
支
(
ささ
)
えてやっている
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の体を、
蔦子
(
つたこ
)
さんはぎゅうっと
抱
(
いだ
)
きしめた。 そうするのが
怖
(
こわ
)
いけど、ずっとそうしたかったみたいな、そんな
不思議
(
ふしぎ
)
な
抱
(
だ
)
き
方
(
かた
)
やった。
蔦子
(
つたこ
)
さんはずっと、
怖
(
こわ
)
かったらしい。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に
触
(
さわ
)
んのが。 なんでか言うたら、
秋津
(
あきつ
)
家は、ぶっちゃけ
近親相姦
(
きんしんそうかん
)
の
血筋
(
ちすじ
)
やで。
可愛
(
かわい
)
い
息子
(
むすこ
)
が、
可愛
(
かわい
)
い
可愛
(
かわい
)
いて思うのは、もしや
劣情
(
れつじょう
)
ではないかと、このおかんは
恐
(
おそ
)
れ、それで
遠慮
(
えんりょ
)
しとったらしい。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が
乳離
(
ちばな
)
れしてからは、スキンシップの
薄
(
うす
)
い親子やったみたいやで。 自分の
息子
(
むすこ
)
とどういうふうに付き合えばええのか、
蔦子
(
つたこ
)
さんはずっと
迷
(
まよ
)
ってた。それでついつい
甘
(
あま
)
やかしたり、
放任
(
ほうにん
)
したりしてもうてたみたい。 もしかして、
秋津
(
あきつ
)
のおかんもそうやろか。
怖
(
こわ
)
い
怖
(
こわ
)
い。考えんとこ。 しかし、そんな
妙
(
みょう
)
な
蟠
(
わだかま
)
りも、時の水の
溶
(
と
)
けるポカリ
臭
(
しゅう
)
の中で、
一緒
(
いっしょ
)
に
難
(
なん
)
なく
溶
(
と
)
けて消えた。
抱
(
だ
)
き
合
(
あ
)
うてる
蔦子
(
つたこ
)
さんと
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、
誰
(
だれ
)
が見たかて、死にそこなった
息子
(
むすこ
)
の
黄泉
(
よみ
)
がえりを、
心底
(
しんそこ
)
喜ぶおかんと、まだまだ
幼
(
おさな
)
い
息子
(
むすこ
)
の
抱擁
(
ほうよう
)
やった。 「お母ちゃん」 ぼけっとした、力のない声で、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
蔦子
(
つたこ
)
さんを
呼
(
よ
)
んだ。 「あっちいっといてくれって、
僕
(
ぼく
)
、言うたやろ。なんで
居
(
お
)
るのん」 「何を言うてますのんや、あんたは。死にかけてましたんやで!」 「そうなん……? どうりで
三途
(
さんず
)
の
川
(
かわ
)
見えた」 石
積
(
つ
)
んでたらしいで、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。
賽
(
さい
)
の
河原
(
かわら
)
で。 ひとつ
積
(
つ
)
んでは母のため。ふたつ
積
(
つ
)
んでは父のため。親に先立つ小さい子供は、
三途
(
さんず
)
の川を
渡
(
わた
)
る時、そういうことをするらしい。 あの世に
渡
(
わた
)
る、
三途
(
さんず
)
の川の
河原
(
かわら
)
の石で、小さい小さい
石塔
(
せきとう
)
作る。そこへ
鬼
(
おに
)
がやってきて、せっかく積んだ
石塔
(
せきとう
)
を、
蹴倒
(
けたお
)
していくらしい。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の場合は、
鬼
(
おに
)
はアキちゃんやな。
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か知らん、暗い
河原
(
かわら
)
で石
積
(
つ
)
んでると、アキ
兄
(
にい
)
がやってきて、
石塔
(
せきとう
)
蹴倒
(
けたお
)
し、なにやってんねん、そんなんするな、もう帰るでと、連れに来たらしい。 それにぐいぐい手を引かれ、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
君は
戻
(
もど
)
ってきたらしい。
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椎堂かおる
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