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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-64 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-64 トオル
作者:
椎堂かおる
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24-64 トオル
危
(
あぶ
)
なかった、もしもう川を
渡
(
わた
)
ってもうてたら、
戻
(
もど
)
るに
戻
(
もど
)
れへん。 その向こう
岸
(
ぎし
)
はもう
黄泉
(
よみ
)
で、
冥界
(
めいかい
)
の神々の
支配
(
しはい
)
領域
(
りょういき
)
や。行ったら
戻
(
もど
)
れん、一方通行なんやからなあ。 「
竜太郎
(
りゅうたろう
)
、何をしてたんやお前は。命がけで
視
(
み
)
なあかんような未来なんかないやろ」 アキちゃんはすでに
説教
(
せっきょう
)
口調
(
くちょう
)
やった。心配しすぎて、ほっとした
瞬間
(
しゅんかん
)
に、また
腹立
(
はらだ
)
ってきたらしい。 「でも
僕
(
ぼく
)
、アキ
兄
(
にい
)
を助けようと思って……」
怖
(
こわ
)
かったんか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はまだアキちゃんに
抱
(
だ
)
き
起
(
お
)
こされながら、
言
(
い
)
い
訳
(
わけ
)
口調
(
くちょう
)
で身を
強
(
こわ
)
ばらせてた。 そして自分が言いかけた話に、自分ではっとしたようで、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
探
(
さが
)
す目の後、自分を見下ろしている
水煙
(
すいえん
)
を見上げ、問いただすような
険
(
けわ
)
しい目をした。 それに
水煙
(
すいえん
)
は、ただやんわり首を横に
振
(
ふ
)
った。あかんかったという意味や。 お前は死ぬほど
頑張
(
がんば
)
ったけど、
無駄
(
むだ
)
やった。
無駄死
(
むだじ
)
にするのは
免
(
まぬか
)
れたけど、
成果
(
せいか
)
は上がらへんかったと、
水煙
(
すいえん
)
は
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に目で教えた。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、ものすご
悲壮
(
ひそう
)
な顔をした。もう
大丈夫
(
だいじょうぶ
)
そうやって、アキちゃんが
抱
(
いだ
)
いていた
腕
(
うで
)
を
解
(
ほど
)
き、
砂浜
(
すなはま
)
に
座
(
すわ
)
らせてやっても、助かって
嬉
(
うれ
)
しいという顔はせえへんかった。 「アキ
兄
(
にい
)
、
僕
(
ぼく
)
、もういっぺん行ってくる。もうちょっとだけ
水煙
(
すいえん
)
貸
(
か
)
しといて。あと一日でええねん」
頼
(
たの
)
み
込
(
こ
)
む
口調
(
くちょう
)
で言われ、アキちゃんは
唖然
(
あぜん
)
としていた。
険
(
けわ
)
しい
表情
(
ひょうじょう
)
やった。アキちゃんがまだ怒ってることは、俺にはよう分かった。 「あかん。もう返してもらう。お前ももう、
予知
(
よち
)
をするのはやめとけ。しても意味がない。お前がどんな未来を
占
(
うらな
)
って来ようと、俺はもう
覚悟
(
かくご
)
を決めたからな。
逝
(
い
)
く時は
逝
(
い
)
く。それがほんまに必要やと思うた時には、
迷
(
まよ
)
わずそうする。それは
占
(
うらな
)
いやのうて、その場で決める。ほんまに
龍
(
りゅう
)
が
現
(
あらわ
)
れて、俺を
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
に求めるのに
出会
(
でお
)
うた時に決めることにする。俺は、その場の
判断
(
はんだん
)
で、一番正しいと思うことをする。元々
占
(
うらな
)
いは、信じへんねん」 じっと
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の目を見て、アキちゃんはそう言い聞かせてた。 それは何となく、中一の
餓鬼
(
がき
)
に言うてる目ではなかった。 ひとりの
覡
(
げき
)
が、もうひとりの
覡
(
げき
)
に言うてる、
大人
(
おとな
)
に話すみたいな口調や。 俺はそうする、お前はそれを、分かってくれるかと、アキちゃんは
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に相談してた。 その話をされて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
胸
(
むね
)
を
喘
(
あえ
)
がせ、言葉を選んだ。 「アキ
兄
(
にい
)
は、
僕
(
ぼく
)
の力を
否定
(
ひてい
)
すんのか。当たったやろう、
僕
(
ぼく
)
の
占
(
うらな
)
い。全部当たったやろう」 よっぽどショックやったんか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はアキちゃんの服の
胸
(
むね
)
を
掴
(
つか
)
んで、身を乗り出し、かき
口説
(
くど
)
いた。必死の目をして言うてるのが、ちょっとばかし、
可哀想
(
かわいそう
)
やった。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は自分の
予知
(
よち
)
能力
(
のうりょく
)
に、自信を持っていたやろう。 それが自分のアイデンティティやった。アキちゃんが自分の絵を
描
(
か
)
く
能力
(
のうりょく
)
に、強い自信を
与
(
あた
)
えられているように。 それを大好きなアキ
兄
(
にい
)
に
否定
(
ひてい
)
されたら、自分の
人格
(
じんかく
)
を
否定
(
ひてい
)
されんのと同じこと。中一やったらそう思うかも。 アキちゃんがなんでそんなこと言うんかまでは、すぐには頭が回らへん。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
傷
(
きず
)
ついた顔をしていた。アキちゃんはそれを見下ろし、苦い顔やった。
傷
(
きず
)
つけたくはないんやろ。ほんまやったら、そんなことは、言いたくはない。せやけど、これには中一の、命がかかっているからな。 「全部当たった。せやけど、それは、
偶然
(
ぐうぜん
)
なんやで、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。そんな力あるから、お前は死ぬような目に
遭
(
お
)
うたんや。そんなん
要
(
い
)
らんねん、
普通
(
ふつう
)
の中学生やっとけ。俺が死のうが生きようが、お前には関係ない。それは俺の
運命
(
うんめい
)
で、お前が命がけでどうにかせなあかんと思う必要は全然ないんや」 「なんで? そんなことない。
僕
(
ぼく
)
かて
一人前
(
いちにんまえ
)
の
覡
(
げき
)
やねん。
予知能力
(
よちのうりょく
)
がある。未来を
選択
(
せんたく
)
する力があるんやで。それでアキ
兄
(
にい
)
の
役
(
やく
)
に立って、なにがあかんの!」 アキちゃんの
首根
(
くびね
)
っこを
押
(
お
)
さえたまま、中一、必死で言うてたわ。 それ以外に、自分になにができるのかと、
思
(
おも
)
い
詰
(
つ
)
めてるような目やった。 アキちゃんはそれから、目を
逸
(
そ
)
らしてた。
応
(
こた
)
えてやる気はないんやろ。
蔦子
(
つたこ
)
さんにも、そう言うてたやん。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
又従兄弟
(
またいとこ
)
。
恋愛
(
れんあい
)
対象ではない。 せやのに
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、
恋
(
こい
)
してる目でアキちゃんを見てる。 「死んでまでやれとは
誰
(
だれ
)
も
頼
(
たの
)
んでへんやろ。なんでそこまでするんや……」
縋
(
すが
)
ってくる子を、
抱
(
だ
)
き
留
(
と
)
めてやるわけにはいかん。そんな
我慢強
(
がまんづよ
)
さで、アキちゃんは
砂浜
(
すなはま
)
に
膝
(
ひざ
)
をつき、自分の
膝
(
ひざ
)
に手を置いていた。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
がなんでそこまでするのか、アキちゃんは知らんのやろかと、俺はこのとき
不思議
(
ふしぎ
)
やった。 せやけど、知らんはずない。そうやろう? だってアキちゃんはとっくの昔に、
海道
(
かいどう
)
竜太郎
(
りゅうたろう
)
君の、アキ
兄
(
にい
)
を
想
(
おも
)
う
切
(
せつ
)
ない
胸
(
むね
)
の内を告白されていた。 そしてそれを
拒
(
こば
)
んでた。
拒
(
こば
)
んでおいたし、もう
忘
(
わす
)
れたやろうと、思ってたんかな。 残念ながら
恋愛
(
れんあい
)
というのは、相手が
靡
(
なび
)
かんかったぐらいで、
治
(
おさ
)
まるもんやない。どうせ一方的なもんやねん。相手が自分を好きやろうが
嫌
(
きら
)
いやろうが、そんなことには関係なしで、好きなもんは好き。 もしかしたら相手が
靡
(
なび
)
かん
片想
(
かたおも
)
いのほうが、よりいっそう好きや好きやが
募
(
つの
)
るもんなんかもしれへん。 そうでなけりゃ、
抱
(
だ
)
かれた
訳
(
わけ
)
でもない中一ふぜいが、アキちゃんのために死のうなんて
思
(
おも
)
い
詰
(
つ
)
めるわけがない。 それとも
初恋
(
はつこい
)
っていうのは、それくらい、
夢中
(
むちゅう
)
なもんなんか。
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椎堂かおる
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