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24-68 トオル

 水煙(すいえん)て、アキちゃんのご先祖(せんぞ)様やったんや。  びっくり。ていうか、お前、女やったん? 違(ちが)うよね。男やで。  男が子供(こども)生むなんて、そんな無軌道(むきどう)なこと、してええの。むっちゃくちゃやで。むっちゃくちゃすぎる。  非常識(ひじょうしき)にもほどがある。地球の常識(じょうしき)をはずれてる。さすが宇宙(うちゅう)系(けい)やから。  水煙(すいえん)は、地球で好きな男ができて、でもそいつが子供(こども)欲(ほ)しいし家も継(つ)がなあかんしということで、他(ほか)の女と結婚(けっこん)するのを見て、そんなアホなと思うたらしい。  子供(こども)できればええんやろ。そんならお前の霊(れい)の一部をちょっととって、それを自分の霊(れい)を掛(か)け合(あ)わせ、海神(わだつみ)に頼(たの)む。神さま、子供(こども)ほしいんですけど。よろしくお願いしますって。  水煙(すいえん)にも、そんな無軌道(むきどう)な時代があったんやなあ。  そしたらやがて、放(はな)たれた霊(れい)の子は、どんぶらこっこと戻(もど)ってきた。海の泡(あわ)に乗って。でっかい真珠(しんじゅ)みたいなもんに包まれて。  桃太郎(ももたろう)の、海バージョン? 塩味利(き)いてる。それでアキちゃんの霊水(れいすい)、桃(もも)っぽい匂(にお)いするんとちゃうの。桃太郎(ももたろう)と同類(どうるい)なんやで、きっと。  よかったなあ、スルメっぽい匂(にお)いとかやのうて。猫(ねこ)いっぱい寄(よ)ってくる。俺も涎(よだれ)(よだれ)出てくる。桃(もも)っぽい匂(にお)いでも結局出てくるんやけど。  なんやよう分からん。桃(もも)っぽい匂(にお)いではないねん。それは神仙(しんせん)の世界の香気(こうき)やねん。  桃(もも)が霊力(れいりょく)のある果実やねん。桃源郷(とうげんきょう)とか言うやんか。パラダイス的な異界(いかい)なんやで。桃(もも)はそこから来た果物(くだもの)やねん。せやし神仙(しんせん)の世界の匂(にお)いがするんや。  たぶん桃太郎(ももたろう)も、ほんまの桃(もも)に入ってたわけやない。そんなデカい桃(もも)、あるわけないやんか。見たことないやろ、赤ちゃん入れるくらいデカい桃(もも)なんてさ。ブッキーすぎやで。そんなん成(な)ってもうたら、桃(もも)の木折(お)れるしな。  たぶん桃(もも)みたいな匂(にお)いのする入れモンに入って、川の上流、つまり山から流れ降(くだ)ってきた神人(かむびと)や。  山も異界(いかい)で、神仙(しんせん)の世界へと通じているんや。  そこから来た男で、覡(げき)やったわけやな。  子供(こども)欲(ほ)しいわと願ってた爺(じい)さんと婆(ばあ)さんに、神さんが授(さず)けてやった、異形(いぎょう)の子やねん。  せやし水煙(すいえん)様も、海神(わだつみ)から我(わ)が子(こ)を授(さず)かった。男カップルに子をくれてやるなんて、その時の海神(わだつみ)も、えっらいフリーダムな神様や。  そんな血筋(ちすじ)を引いてるからやで、アキちゃんがホモなのって。あっ、言うてもうた。けっこう禁句(きんく)やのに。未(いま)だにできるだけ認(みと)めたくない件(けん)やのに。意気地無(いくじな)しやなあ、ジュニア。  もうええやん。もうとっくに終わりきってる状態(じょうたい)なってる。どう見ても男だらけのドキ☆ドキ☆ラブゲームみたいになってる。普通(ふつう)に男にときめいてるから、お前は。  ていうか俺も男なんやしな。水煙(すいえん)かてそうやで。一分(いちぶ)の隙(すき)なく男やで。瑞希(みずき)ちゃんもそう。怜司(れいじ)兄(にい)さんもそう。全員男です、チーム秋津(あきつ)は全員男の子なんですよ! 「先生、水煙(すいえん)抱(だ)いてやってへんの?」  このシチュエーションで聞くには、お気楽(きらく)すぎる声で、怜司(れいじ)兄(にい)さんが訊(き)いてくださいました。  アキちゃんは呆然(ぼうぜん)と、太刀(たち)になってもうた水煙(すいえん)の、しいんと静まりかえっている様子を見つめてた。 「そんなんしてへん……だってこいつは……太刀(たち)やもん」  そうや。また振(ふ)り出(だ)しに戻(もど)ってもうた。  水煙(すいえん)様は触(ふ)れたら切れてまいそうな、鋭(するど)い霊威(れいい)を放つ白刃(はくじん)に戻(もど)った。  もう懲(こ)りたんやろう。人に近い姿(すがた)を見せてやって、それが美しいの醜(みにく)いの、そんなことを気にかけるのに疲(つか)れた。  もしくは恥(は)ずかしなったんやろう、水煙(すいえん)は。自分のことは醜(みにく)いと思うてる。鬼(おに)みたいやとアキちゃんに言われ、傷(きず)ついたんや。  そら傷(きず)つくわ。アキちゃんにブーイング。俺かてそんなん言われとうないわ。  まあでも、ちょっと待って、皆(みんな)、ちょっと待ってえな。ジュニア逝(い)ってよしの前に、ちょっとだけ聞いて。  アキちゃん別に、水煙(すいえん)ブサイクやって言うてへんしな。怖(こわ)いねん。美しいけど、怖(こわ)いねんて、水煙(すいえん)兄(にい)さんの見た目は。  神やいうても色々あるし、かなり人に近いのから、いろんな動物をまぜこぜにしたような異形(いぎょう)の神まで、様々(さまざま)いてる。  水煙(すいえん)はな、龍(りゅう)なんや。  怖(こわ)いでえ、龍(りゅう)。高い霊威(れいい)を持ってるし、一歩間違(まちが)えば悪魔(サタン)やないか。人にとっては危(あや)うい神さんやねん。  それでも人間はドラゴンが好きや。それが悪魔(あくま)でも神でも、ドラゴンの意匠(いしょう)は世界中にあるし、滅(ほろ)びることはない。怖(こわ)いけど、美しい神やからや。  アキちゃんは、どんな姿(すがた)の時でも、水煙(すいえん)のこと、美しいなあってうっとり見てた。この時かてそうやった。お前は鬼(おに)やて言うた時でも、醜悪(しゅうあく)なものを見ているような目はしてへんかった。  なんでこんなに綺麗(きれい)なお前が、俺にとっては神やのに、他(ほか)の人から眺(なが)めたら、鬼(おに)やと思われるような振(ふ)る舞(ま)いをするんやと、アキちゃんは悔(くや)しかったんやろう。  俺以外のやつらにも、優(やさ)しくしてやってくれ。お前が神やと分かるように。人を愛してやってくれや。  アキちゃんて、つくづくおとんの息子(むすこ)やで。言うてることまで同じやもん。  かつて朧(おぼろ)を悪魔(サタン)から、神へと昇華(しょうか)させた、そんな秋津(あきつ)暁彦(あきひこ)の囁(ささや)きが、果たして水煙(すいえん)様にも通用すんのか。  アキちゃんは、龍(りゅう)を調伏(ちょうぶく)できるのか。  それは続きのお楽しみ。

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