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三都幻妖夜話(3)神戸編 24-72 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
24-72 トオル
作者:
椎堂かおる
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24-72 トオル
蔦子
(
つたこ
)
さんはたぶん、
無意識
(
むいしき
)
に、いろいろ
予知
(
よち
)
してもうてんのやろ。
予知
(
よち
)
能力
(
のうりょく
)
がダダ
漏
(
も
)
れや。どこまでが
予想
(
よそう
)
で、どっからが
予知
(
よち
)
か、
蔦子
(
つたこ
)
おばちゃまには分かってへん。 この人も、
因果
(
いんが
)
な
性分
(
しょうぶん
)
なんやで。悪い予感に
振
(
ふ
)
り
回
(
まわ
)
されて、心配ばっかりしてるおかんで、
息子
(
むすこ
)
にはあれこれ口うるさく言うてまうらしい。 でも、そんなん、どのおかんでも同じかな。俺はおかんが
居
(
お
)
らんから、分からんのやけど、
秋津
(
あきつ
)
のおかんもそんな感じやもんな。 って、あの人全然、
普通
(
ふつう
)
やないから、全く参考にならへんか。
皆
(
みんな
)
のお母さんてどんな人?
神通力
(
じんつうりき
)
があるか。
鬼
(
おに
)
か。口うるさいか。まあ、そんなもんやで、おかんなんて。それが
愛情
(
あいじょう
)
表現
(
ひょうげん
)
やねん。あきらめろ。 「
坊
(
ぼん
)
、大して長いもんやおへん。しっかり見といておくれやす」
念押
(
ねんお
)
しをして、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
水晶玉
(
すいしょうだま
)
と向き合い、
床
(
ゆか
)
の上に
直
(
じか
)
に
座
(
すわ
)
っていた。 そうして
深々
(
ふかぶか
)
と首
垂
(
た
)
れて
祈
(
いの
)
る
姿
(
すがた
)
は、ほんまに古代の
巫女
(
みこ
)
さんみたい。 ゆらゆら
揺
(
ゆ
)
れて、それから
蔦子
(
つたこ
)
さんは、かくんと
眠
(
ねむ
)
りに落ちるように、
神懸
(
かみが
)
かりした。 たぶん今、
魂
(
たましい
)
だけが、どこかよそへ行っている。たぶん時の流れの先のほうへと、まっしぐらに泳いでる。 そして
蔦子
(
つたこ
)
さんの
霊
(
れい
)
が見たものが、
水晶
(
すいしょう
)
玉の中に
映
(
うつ
)
し
出
(
だ
)
されていた。 暗い暗い
洞穴
(
どうけつ
)
の中を泳いでいくような、
濃
(
こ
)
い
影
(
かげ
)
が
水晶玉
(
すいしょうだま
)
の中に
射
(
さ
)
し、やがその中に、
弾
(
はじ
)
けるように明るい、
現実
(
げんじつ
)
世界の光景が
映
(
うつ
)
し
出
(
だ
)
された。 でもそれは、明るいというにはほど遠い、
怖
(
おそ
)
ろしい光景で、ただ
眩
(
まぶ
)
しいくらいに赤い夕焼けの色が、
晴天
(
せいてん
)
のまま終わろうとしている
落日
(
らくじつ
)
の海に、美しく
照
(
て
)
り
映
(
は
)
えている。 その
水平線
(
すいへいせん
)
が、ものすごい高さでふくれあがるのが、
映画
(
えいが
)
かテレビのCGみたいに、
水晶玉
(
すいしょうだま
)
の中に
現
(
あらわ
)
れた。
映画
(
えいが
)
やなんかで、すごい
映像
(
えいぞう
)
を
見慣
(
みな
)
れてるせいか、それ自体にすごい
衝撃
(
しょうげき
)
はなかった。
盛
(
も
)
り
上
(
あ
)
がった海が、ものすごい速さで
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せてくる。
神戸
(
こうべ
)
の街に向かって。 それを待ち受ける、見覚えのある場所に、アキちゃんがいた。
道場
(
どうじょう
)
で着るような、
紺色
(
こんいろ
)
の
道着
(
どうぎ
)
を着ていた。
中突堤
(
なかとってい
)
やった。 船に
骨
(
ほね
)
が出た言うて、
怜司
(
れいじ
)
兄さんに
喚
(
よ
)
ばれ、俺とアキちゃんと
神楽
(
かぐら
)
遥
(
よう
)
が、
骨
(
ほね
)
退治
(
たいじ
)
にかけつけたところや。 赤い
鉄骨
(
てっこつ
)
のポートタワーがあって、その
麓
(
ふもと
)
にある
Kiss FM
(
キス・エフエム
)
が、
怜司
(
れいじ
)
兄さんの仕事場のひとつやった。 昔、
藤堂
(
とうどう
)
さんが働いていた白いホテルが、
突堤
(
とってい
)
の先に見えていた。 夕日が
綺麗
(
きれい
)
で、アキちゃんはまるで、ちょっとその
美観
(
びかん
)
を
眺
(
なが
)
めに来ましたみたいに、静かに立ってるだけやった。 その手には
太刀
(
たち
)
のままの
水煙
(
すいえん
)
が、
握
(
にぎ
)
られていた。 そして俺も、
瑞希
(
みずき
)
ちゃんも、
怜司
(
れいじ
)
兄さんもそこにいて、
他
(
ほか
)
には
誰
(
だれ
)
も
居
(
お
)
らんかった。 何でか知らん、チーム
秋津
(
あきつ
)
の
孤独
(
こどく
)
な戦いみたいになってる。 それでも俺は、ほっとした。その時も俺とアキちゃんが、ちゃんと
一緒
(
いっしょ
)
にいてるみたいで。
水晶玉
(
すいしょうだま
)
の中の絵は、その次の
瞬間
(
しゅんかん
)
にはもう、波に
呑
(
の
)
まれる
中突堤
(
なかとってい
)
の
映像
(
えいぞう
)
になっていた。 俺も
呑
(
の
)
まれたやろう。アキちゃんも。
神戸
(
こうべ
)
も
呑
(
の
)
まれた。 信じられへんような、どでかい
津波
(
つなみ
)
に。 そして
囂々
(
ごうごう
)
と、海が
渦巻
(
うずま
)
き、その果てに
現
(
あらわ
)
れた、一
匹
(
ひき
)
の
龍
(
りゅう
)
を俺は見た。 ものすごいデカさやった。ところどころ
灰色
(
はいいろ
)
と、白みを帯びた青い
鱗
(
うろこ
)
は、まるで波打つ海そのものの色合いで、うっかりすると、海の中に
龍
(
りゅう
)
がいてるのを、見落としてしまいそうなくらいやった。
海神
(
わだつみ
)
や。それが
龍
(
りゅう
)
の形をとって、
人界
(
じんかい
)
に
姿
(
すがた
)
を
顕
(
あらわ
)
していた。 これを
倒
(
たお
)
そうなんて、考えるだけアホや。 大体において、神や
怪異
(
かいい
)
の
力量
(
りきりょう
)
は、デカさになって
現
(
あらわ
)
れる。 小さい
豆粒
(
まめつぶ
)
みたいな
姿
(
すがた
)
に
化身
(
けしん
)
することも
可能
(
かのう
)
は
可能
(
かのう
)
やけど、もともと大した
規模
(
きぼ
)
やないやつが、どでかい
姿
(
すがた
)
に化けるのは無理。それは本当に力のあるのでないと、山が動き、海が動くようなサイズにはなられへん。 その
巨大
(
きょだい
)
な
海龍
(
かいりゅう
)
は、そのサイズによって、自分がとれほどの
猛烈
(
もうれつ
)
な力を持った神であるかを、
如実
(
にょじつ
)
に物語っていた。 これはもう、
祈
(
いの
)
るしかない。 どうか、お
鎮
(
しず
)
まりください。
和
(
なご
)
んでください。
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
要
(
い
)
るなら、差し上げますので、どうか
神戸
(
こうべ
)
を食らうのだけは、ご
勘弁
(
かんべん
)
くださいと、アキちゃんは
祈
(
いの
)
るしかない。 もしも戦ったら、どえらいことになる。 戦ったところで、勝ち目はないけど、この
龍
(
りゅう
)
がもし、
神戸
(
こうべ
)
の街で
暴
(
あば
)
れたら、『ゴジラVSモスラ』みたいな事になる。『ウルトラマン』でもええけど。結局
神戸
(
こうべ
)
は
壊滅
(
かいめつ
)
してしまうやろう。 なんとかして、海岸線で食い止めへんかったら、何もかもが元の
木阿弥
(
もくあみ
)
。波に
呑
(
の
)
まれた俺らは全員、死に
損
(
ぞん
)
で、なんのために命取られたか、わからんようになる。 アキちゃんなんて、ただの
水死
(
すいし
)
した気の毒な人になる。 それは
避
(
さ
)
けたい。 たぶん俺らは、あの
龍
(
りゅう
)
を、上陸させずに食い止めるために、あの
突堤
(
とってい
)
で待っていたんやろう。 そして。それから。どうなったのか。 波は、
退
(
しりぞ
)
いていった。それこそ
架空
(
かくう
)
の
映像
(
えいぞう
)
みたいやった。
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せかけてた
大津波
(
おおつなみ
)
が、
途中
(
とちゅう
)
でぴたりと止まり、やがてするする
巻
(
ま
)
き
戻
(
もど
)
るみたいに、海へと帰っていく。 そしてでっかい水柱が、どかんと海から立ち上がり、まるで一
匹
(
ぴき
)
の
龍
(
りゅう
)
のように、
激
(
はげ
)
しく波打ちながら、天へと
昇
(
のぼ
)
っていくのが見えた。
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椎堂かおる
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