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24-75 トオル

面倒(めんどう)くさいなあ。俺の(かみ)()、海水で()れたらぐちゃぐちゃなるよ。飲みに行くにしても、その前に、風呂(ふろ)入って着替(きが)えてもええかな先生。近場(ちかば)のホテルとっといてもええです? 北野(きたの)まで(もど)るの面倒(めんどう)くさいやん?」 「好きにせえ……」  どうでもええよな、アキちゃん。どうでもええわっていう顔やった。  なんかもう、考えんのしんどいみたいで、(むずか)しい顔してアキちゃんは、どんよりしてた。  完璧(かんぺき)に、撹乱(かくらん)されている。(おぼろ)様の、「どうでもええか、適当(てきとう)で」電波(でんぱ)に。  これ、かなり強い催眠(さいみん)電波(でんぱ)やで。()びると何も真面目(まじめ)に考えられなくなる。  今夜何して遊ぼうかとか、そんなことしか考えられへんようになる。  よう言うやろ、おかんとかが。テレビとか、ネットばっかり見てるとアホになるでって。  一理(いちり)ある。こういう瞬間(しゅんかん)怜司(れいじ)(にい)さんとばっかり付き合うてたら、ほんまにアホになる。教養(きょうよう)ある番組の時にも付き()うとかへんとあかん。 「ほんならせっかくやから、中突堤(なかとってい)のオリエンタルとろうか。ここの支配人(しはいにん)、昔の(よしみ)顔利(かおきき)くんやろ。急やけど、いけるかどうか、()いてもらおうか」  (おぼろ)様は、藤堂(とうどう)さんのことを言うてるみたいやった。 「何で知ってるんや、お前がそれを」  俺はついつい()きました。つい目が血走(ちばし)っちゃって、藤堂(とうどう)さんのこととなると。  でも怜司(れいじ)(にい)さん、答えてくれへんかった。さっそく携帯(けいたい)取り出していた。  どこぞの高級そうなブランドの革ケースに入った、綺麗(きれい)な電話やった。もちろん最新機種っぽい。  そして、それに登録されていた電話番号に、一瞬(いっしゅん)で電話をかけていた。 「ああ、もしもし。支配人(しはいにん)さんですか。湊川(みなとがわ)ですう、どうも。……なに? (めし)? 食うてへん。晩飯(ばんめし)どころか、朝飯も昼飯も食うてへん。コーヒーしか飲んでへんよ。……平気平気、死にませんて。カスミ食うて生きてんのやから」  (ほが)らかに電話をしているその相手が藤堂(とうどう)さんやとは、俺の(のう)が考えるのを拒否(きょひ)していた。  聞こえへん、オッサンがにこやかに笑ってる声なんて。  畜生(ちくしょう)、どないなっとんねん藤堂(とうどう)さん。昼飯前に俺と一発やっておきながら、まだまだ残弾(ざんだん)あったんか。  ラジオを口説(くど)くな。いくらなんでも怜司(れいじ)兄さんと、これ以上男を共有したくない。 「明後日(あさって)ね、中突堤(なかとってい)のオリエンタルとってもらえませんか。打ち上げやねん。何のって……そうやなあ。神戸(こうべ)を救った(わか)きヒーローの、大津波(おおつなみ)からの生還(せいかん)記念パーティーかなあ。予定ではそうなんやけど。ノリしだいでは五人同時プレイやけど、支配人(しはいにん)(よめ)と来る?」  アキちゃん顔面(がんめん)蒼白(そうはく)なってた。どの部分にやろか。  俺も若干(じゃっかん)目眩(めまい)した。  俺に目眩(まばゆ)させるなんて、怜司(れいじ)兄さんは、ほんまにすごい。  電話の向こうの藤堂(とうどう)さん、微妙(びみょう)すぎる笑いやった。半笑(はんわら)いというか、目が遠そう。一体何を思ってんのか。昔やったら(おこ)ってる。  お前はなんて(よこしま)(へび)やと、そいつにも言うてやれ。どう考えても悪魔(サタン)怜司(れいじ)兄さんも、まず間違(まちが)いなく悪魔(サタン)一党(いっとう)やから。 「ええ、なに? (よめ)(こわ)すぎて? ええやん、見たいわあ。支配人(しはいにん)があの金髪(きんぱつ)にぎったんぎったんにされるとこ。ほんまにされんの? ぎったんぎったんに?」  その話、マジなんですか、怜司(れいじ)兄さん。ほんまに(よう)ちゃん、藤堂(とうどう)さんのこと、ぎったんぎったんにしてんの?  そんなの、ありえへん。俺にはありえへん。藤堂(とうどう)さんをシバくやなんて、そんなん絶対(ぜったい)無理やから! 「(よう)ちゃん(こわ)いんやなあ……すげえなあ。俺も一発やりたい。今度、三人でしよか? 何か(すご)いことしよか? 二人(ふたり)(よう)ちゃん、ひいひい言わせよか?」  にこにこ言うてる(おぼろ)様に、電話が爆笑(ばくしょう)していた。  藤堂(とうどう)さんが爆笑(ばくしょう)できるって、俺、知らんかった……。  めっちゃショック。めちゃめちゃショック。(とおる)ちゃん、なんでかショック。  言うてることは、俺かて怜司(れいじ)兄さんと何も変わらん気がするのに。  というか、怜司(れいじ)(にい)さんのほうが何倍もひどいで。  せやのになんで俺やと、ムッとしたような(こわ)い顔されて、怜司(れいじ)兄さんには爆笑(ばくしょう)なん。実は単に、俺の()()け方が足らんかったんか。  中途半端(ちゅうとはんぱ)やったか、(とおる)ちゃん。中途半端(ちゅうとはんぱ)やった!?  世の中、上には上がおるんや。怜司(れいじ)兄さん(すご)すぎる。水煙(すいえん)(きら)われて当然すぎる。エロの神様すぎるうっ。 「あ。とれたん? 最上階スイート? すごいなあ。メール一本でええんや。顔が()くんやなあ、支配人(しはいにん)、かっこよすぎ。はいはい、名前はね、えーと。本間(ほんま)暁彦(あきひこ)で取っといてください」  えっ、て藤堂(とうどう)さん、びっくりしていた。  本間(ほんま)先生の浮気(うわき)の相手って、君かと、藤堂(とうどう)さんはむっちゃストレートに()いていた。 「浮気(うわき)やないよ、人生相談に乗っただけやんか。あんなん浮気(うわき)のうちに入らへんから。それに俺は支配人(しはいにん)一筋(ひとすじ)やんか。ほんまですよ。ほんまほんま。愛してる。また今度(いだ)いてねー」  通話終了(しゅうりょう)。  挨拶(あいさつ)代わりか。怜司(れいじ)兄さんの抱いてねは、挨拶(あいさつ)代わりか。 「予約とれたらしいよ、先生。ん、なに。なんで(みな)、俺を見てんの?」  俺ら、むっちゃ(おぼろ)様を見てた。アキちゃんも見てたし、俺も、犬も、心の底から(あき)れて見てた。

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