497 / 928
24-75 トオル
「面倒 くさいなあ。俺の髪 の毛 、海水で濡 れたらぐちゃぐちゃなるよ。飲みに行くにしても、その前に、風呂 入って着替 えてもええかな先生。近場 のホテルとっといてもええです? 北野 まで戻 るの面倒 くさいやん?」
「好きにせえ……」
どうでもええよな、アキちゃん。どうでもええわっていう顔やった。
なんかもう、考えんのしんどいみたいで、難 しい顔してアキちゃんは、どんよりしてた。
完璧 に、撹乱 されている。朧 様の、「どうでもええか、適当 で」電波 に。
これ、かなり強い催眠 電波 やで。浴 びると何も真面目 に考えられなくなる。
今夜何して遊ぼうかとか、そんなことしか考えられへんようになる。
よう言うやろ、おかんとかが。テレビとか、ネットばっかり見てるとアホになるでって。
一理 ある。こういう瞬間 の怜司 兄 さんとばっかり付き合うてたら、ほんまにアホになる。教養 ある番組の時にも付き合 うとかへんとあかん。
「ほんならせっかくやから、中突堤 のオリエンタルとろうか。ここの支配人 、昔の誼 で顔利 くんやろ。急やけど、いけるかどうか、訊 いてもらおうか」
朧 様は、藤堂 さんのことを言うてるみたいやった。
「何で知ってるんや、お前がそれを」
俺はついつい訊 きました。つい目が血走 っちゃって、藤堂 さんのこととなると。
でも怜司 兄 さん、答えてくれへんかった。さっそく携帯 取り出していた。
どこぞの高級そうなブランドの革ケースに入った、綺麗 な電話やった。もちろん最新機種っぽい。
そして、それに登録されていた電話番号に、一瞬 で電話をかけていた。
「ああ、もしもし。支配人 さんですか。湊川 ですう、どうも。……なに? 飯 ? 食うてへん。晩飯 どころか、朝飯も昼飯も食うてへん。コーヒーしか飲んでへんよ。……平気平気、死にませんて。カスミ食うて生きてんのやから」
朗 らかに電話をしているその相手が藤堂 さんやとは、俺の脳 が考えるのを拒否 していた。
聞こえへん、オッサンがにこやかに笑ってる声なんて。
畜生 、どないなっとんねん藤堂 さん。昼飯前に俺と一発やっておきながら、まだまだ残弾 あったんか。
ラジオを口説 くな。いくらなんでも怜司 兄さんと、これ以上男を共有したくない。
「明後日 ね、中突堤 のオリエンタルとってもらえませんか。打ち上げやねん。何のって……そうやなあ。神戸 を救った若 きヒーローの、大津波 からの生還 記念パーティーかなあ。予定ではそうなんやけど。ノリしだいでは五人同時プレイやけど、支配人 も嫁 と来る?」
アキちゃん顔面 蒼白 なってた。どの部分にやろか。
俺も若干 、目眩 した。
俺に目眩 させるなんて、怜司 兄さんは、ほんまにすごい。
電話の向こうの藤堂 さん、微妙 すぎる笑いやった。半笑 いというか、目が遠そう。一体何を思ってんのか。昔やったら怒 ってる。
お前はなんて邪 な蛇 やと、そいつにも言うてやれ。どう考えても悪魔 。怜司 兄さんも、まず間違 いなく悪魔 の一党 やから。
「ええ、なに? 嫁 が怖 すぎて? ええやん、見たいわあ。支配人 があの金髪 にぎったんぎったんにされるとこ。ほんまにされんの? ぎったんぎったんに?」
その話、マジなんですか、怜司 兄さん。ほんまに遥 ちゃん、藤堂 さんのこと、ぎったんぎったんにしてんの?
そんなの、ありえへん。俺にはありえへん。藤堂 さんをシバくやなんて、そんなん絶対 無理やから!
「遥 ちゃん怖 いんやなあ……すげえなあ。俺も一発やりたい。今度、三人でしよか? 何か凄 いことしよか? 二人 で遥 ちゃん、ひいひい言わせよか?」
にこにこ言うてる朧 様に、電話が爆笑 していた。
藤堂 さんが爆笑 できるって、俺、知らんかった……。
めっちゃショック。めちゃめちゃショック。亨 ちゃん、なんでかショック。
言うてることは、俺かて怜司 兄さんと何も変わらん気がするのに。
というか、怜司 兄 さんのほうが何倍もひどいで。
せやのになんで俺やと、ムッとしたような怖 い顔されて、怜司 兄さんには爆笑 なん。実は単に、俺の突 き抜 け方が足らんかったんか。
中途半端 やったか、亨 ちゃん。中途半端 やった!?
世の中、上には上がおるんや。怜司 兄さん凄 すぎる。水煙 に嫌 われて当然すぎる。エロの神様すぎるうっ。
「あ。とれたん? 最上階スイート? すごいなあ。メール一本でええんや。顔が利 くんやなあ、支配人 、かっこよすぎ。はいはい、名前はね、えーと。本間 暁彦 で取っといてください」
えっ、て藤堂 さん、びっくりしていた。
本間 先生の浮気 の相手って、君かと、藤堂 さんはむっちゃストレートに訊 いていた。
「浮気 やないよ、人生相談に乗っただけやんか。あんなん浮気 のうちに入らへんから。それに俺は支配人 一筋 やんか。ほんまですよ。ほんまほんま。愛してる。また今度抱 いてねー」
通話終了 。
挨拶 代わりか。怜司 兄さんの抱いてねは、挨拶 代わりか。
「予約とれたらしいよ、先生。ん、なに。なんで皆 、俺を見てんの?」
俺ら、むっちゃ朧 様を見てた。アキちゃんも見てたし、俺も、犬も、心の底から呆 れて見てた。
ともだちにシェアしよう!