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24-76 トオル

 お前には、恥(は)ずかしいとか、貞操(ていそう)という観念(かんねん)はないんか。  俺もないけど、でも、誰彼(だれかれ)と無く、寝(ね)よかとか、愛してるとか言うたりせえへん。お前ほど、あっけらかんとは言わへん。  恥(はじ)を知れ、朧(おぼろ)(おぼろ)。  そんな、淫乱(いんらん)な蛇(へび)で悪魔(サタン)の俺にさえ、眉(まゆ)をひそめさせるという、朧(おぼろ)は蛇(へび)の中の蛇(へび)やったんや。  淫蕩(いんとう)で多情(たじょう)なウロコ系(けい)のひとつの頂点(ちょうてん)を極(きわ)めてんな、兄さん。感心する。  平気で見てんのは蔦子(つたこ)さんと竜太郎(りゅうたろう)くらいやった。慣(な)れてるらしい。そして妬(や)けへんのやから平気ということらしい。  しかしアキちゃんは軽く顔をしかめていた。なんでや、俺のツレ。なにが不満や。 「中西(なかにし)さんに粉(こな)かけんのは止(よ)せ。あの人にはツレがおるんやから。お前のせいで中西(なかにし)さんが神楽(かぐら)さんと揉(も)めたら、どないすんのや……俺、申(もう)し訳(わけ)ないわ」  極(きわ)めて常識的(じょうしきてき)なことを言うてるアキちゃんを、朧(おぼろ)はじろりと見た。 「何言うてんの。ええ男は貴重(きちょう)な資源(しげん)やで? それを誰(だれ)か一人(ひとり)が独占(どくせん)していいって法律(ほうりつ)がどこにあんのや」  あるやろ、あるで。聖書(せいしょ)にもそう書いてあるねんで。汝(なんじ)、姦淫(かんいん)することなかれって。  配偶者(はいぐうしゃ)以外のやつを犯(や)ったらあかんのやで。他人の男とも犯(や)ったらあかん。それが掟(おきて)や。  遥(よう)ちゃん、きっとそう言うで。聖書(せいしょ)の角(かど)でお前を思いっきり殴(なぐ)ってくる。  神父(しんぷ)に喧嘩(けんか)売んのはやめろ、危険(きけん)すぎる。  悪魔祓い(エクソシスト)なんやで、あいつ。ふぁっさーなるで。  お前みたいな邪悪(じゃあく)さの塊(かたまり)みたいな物(もの)の怪(け)は、遥(よう)ちゃんのホーリー系(けい)で滅(ほろ)ぼされて灰(はい)になってしまう。  もっと自分を大事にせえ。死ぬで。俺は呆(あき)れて声も出えへん。 「あるやろ、法律(ほうりつ)……」  アキちゃんも、そう呟(つぶや)いて傾(かたむ)いたきり、それ以上、声出えへん。  アキちゃんを心底(しんそこ)脱力(だつりょく)させる力を朧(おぼろ)は秘(ひ)めてた。  アキちゃん、これで、朧(おぼろ)のご主人様やってけるんかな? 「はあ? 何言うてんの先生。アホか! 俺んとこ来る男は皆(みな)、大体は誰(だれ)かのモンやったで。嫁(よめ)がおろうが、男がおろうが、式神(しきがみ)が何人おろうが、勃(た)ってもうたらお構(かま)いなしやないか。先生かてそうやろ!」  ダァーンて朧(おぼろ)に眉間(みけん)を指さされて、アキちゃんぐふうってなってた。  その通りなんかい!?  何か言い返せアキちゃん。お前がそこでボロボロなって敗退(はいたい)すると俺が気まずいんや! 「ふん。どいつもこいつも、心にもない綺麗事(きれいごと)ばっかり抜(ぬ)かしやがって。しょうもない男ばっかりや。ファウルばっかり。誰(だれ)か俺の心にジャストミートして、やったぜ満塁(まんるい)ホームランみたいな奴(やつ)はおらんのか」  ぷんぷん怒(おこ)って、朧(おぼろ)は言うてた。  イライラすると煙(けむり)が欲(ほ)しいなるんか、朧(おぼろ)は誰(だれ)に断(ことわ)りもせず、さっさと煙草(たばこ)に火入れてる。  ああ、まあ、そやな。お前が悪いんやないな。  好色(こうしょく)で不実(ふじつ)な、人間どもが悪いんや。  お前はそいつらが求めるような物(もの)の怪(け)やったっていうだけや。  それも生きるためや。そやけど、さすがにどうや。何とかしようや。  お前、今は、ラジオとかテレビの神さんなんやろ、よい子の教育に悪すぎるんやで。 「アキちゃんですやろ、あんたの満塁(まんるい)ホームラン……。銀傘(ぎんさん)超(こ)えるぐらいの特大アーチ打たれてもうて、未(いま)だにぐうの音も出えへんのやないの?」  頬(ほお)に手を添(そ)えて、蔦子(つたこ)さんは不思議そうに言うていた。  朧(おぼろ)はなんでか、吸(す)うた煙(けむり)にゲッフンゲフンなっていた。軽口(かるくち)きいてただけのつもりが、痛(いた)いところにグッサリ刺(さ)されて、激痛(げきつう)走ってもうたらしい。 「俺もう寝(ね)よう。ひとりで寝(ね)よう。なんか調子悪い。顔熱い。頭くらくらしてきた。病気なんちゃうか。酒飲んで朝まで寝(ね)よう」  怜司(れいじ)兄さん自爆(じばく)してもうて、お顔真(ま)っ赤(か)っかになってたで。  とっとと逃(に)げたし、あんまり見えへんかったけど、そうしてると可愛(かわい)いような気がする人で、なんて複雑怪奇(ふくざつかいき)なややこしい人やと思えた。さすが妖怪(ようかい)や。  はなまた明日(あした)ねと、言(い)い捨(す)てるように挨拶(あいさつ)をして、怜司(れいじ)兄さんは雲隠(くもがく)れした。  すたすた去って、ばたんと部屋(へや)の扉(とびら)が閉(と)じる音がした。一同、ぽかんとそれを見送るばかり。  マイペースというか、ゴーイング・マイウェイというかな。とにかく、自由な人やなあ。  アキちゃん一応(いちおう)ご主人様やのに、帰ってええかとも訊(き)かず、ポイッとほったらかして消えてもうたで。  それで式神(しきがみ)と言えるのか。いつも傍(そば)について、守っといてやろうとか思わへんねんや。 「あんな子どすねん」  けろりと蔦子(つたこ)さんが話をまとめた。これが朧(おぼろ)という神やと、そういうことらしい。 「短い間か、長いお付き合いになるか、まだ分からしまへんけど、坊(ぼん)、あの子をよろしゅうお頼(たの)み申します。なんだかんだで、ウチもあれとは長い付き合いになりました。憑(つ)かず離(はな)れずの間柄(あいだがら)で、ウチが主人やったと言うてええのかどうか、それも分からしまへんのやけど、あれもウチの子ぉやと思うてた。やっと戦(いくさ)の傷(きず)も癒(い)えたところどす。なんとか幸せにしてやっておくれやす」  そう言うて頭下げてる蔦子(つたこ)さんは、まるで、育て上げた娘(むすめ)を嫁(よめ)に出す、おかんみたい。  いや、息子(むすこ)を嫁(よめ)に出す?

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