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25-10 アキヒコ
俺は拾い癖 もあるんや。
今ここで言うと気まずいから、言わへんかったけど、小学生ぐらいまでは、通学路に落ちてる犬とか猫 とか蛙 とか、欲 しいねん飼 いたいねんて連れて帰ってきては、戻 してきなさいとおかんに怒 られていた。
生き物をそんな勝手に連れて来たらあきません言うて。好きが嵩 じて化け猫 みたいに化けてしもたらどないしますのんや、あんたは子供 で、まだ自分では面倒 みられまへんやろと、おかんは説教 してたけど、それも今にして思えば、うちならではの普通 でない説教 やったな。
でも結局 、蛇 と犬とは拾 ってもうたわ、おかん……。もう、大人 やし、ええか?
ちゃんと自分で面倒 見るから。
ぷんぷん怒 って、ねじねじの丸い棒 付きキャンディーをぺろぺろ舐 めてる瑞希 と、笛飴 吹 いてる亨 を連れて、部屋 まで戻 っていきながら、俺はうっすら反省していた。
おかんの言うこと、もっと真面目 に聞いといたらよかったな。そしたらイイ子になれてたかもしれへんのに。こんなダメな大人 になっていくことも、なかったかもしれへんのに。
俺はほんまに、もっと小さいうちから、秋津 の家業 に興味 を持って、ちゃんと鬼道 の勉強しといたらよかった。
そしたら今、もうちょっとマシに働けたかもしれへんのにな。
次に会 うたら、大崎 先生にも、ちゃんと挨拶 して頼 もう。
おとんが四条 河原 で全裸 に剥 いてもうて済 みませんでした。息子 は真面目 です。いろいろ教えてください、って。
ばたんとドア開けて、部屋 に戻 ると、まるで平和なような夜やった。
食いあぐねた京都タワーを、居間 のコーヒーテーブルの上に建て、俺は風呂 に入ることにした。禊 やで。だって、ほら。
一応 。初夜 やから。
考えんようにしていた件 について、俺は嫌 でも考えた。
もしかして、水に浸 ければ人型 に戻 るかと期待して、貝殻 のバスタブにぬるま湯を張 り、そこに浸 からせた水煙 を、じっと見つめてシャワー浴びてる間じゅう、なんか悶々 とした。
水煙 は、ぴくりとも動かず、泡 ひとつ吐 かず、太刀 のまんまやった。
意地 でも変転 するもんかと、気合い入れてるようやった。
レストランで亨 にピッチャーの水かけられた時は、そのショックで簡単 に人型 に戻 ってたくせに、変転 しいひんて決めたら、水煙 は変転しいひんらしい。
入浴作戦 は完全なる失敗に終わった。
もしかして人型 になるかと思って、一緒 にバスタブに浸 かるかどうか、ちょっと迷 った挙 げ句 に、恥 ずかしいからシャワーを選んだ俺やったのに。
もしかして、一緒 に浸 かれば良かったか。それやったら何か、別のコースへ進めたやろか。
でもやっぱ、水煙 と同じ風呂 に浸 かるというのは、恥 ずかしい。なんでやろ。朧 様との泡風呂 を、思い出してまうからかな。
ほんま言うたら一緒 に寝 るって、同じ布団 に入るのも、わざわざやるとなると、俺は恥 ずかしい。変やないかと思えてもうて。
それにもし、水煙 が布団 の中で、急にまた人型 に戻 る気になったら、どうしようか。
恥 ずかしい。なんでやろ。俺は一体何を、意識 してんのか。
何もしいひんのやで。ただ抱 っこして寝 るだけや。それでええんやと思うんやで。
だって水煙 はずっと、太刀 の姿 やったんや。おとんと過 ごした期間、ずうっとそうやったはず。
おとんは太刀 の形の水煙 を、ただ抱 いて寝 ただけや。太刀 とは、それ以上のことはできひんはずやろ。せいぜいが冷たい刃 と、肌 を合わせて寝 るだけや。
俺もそれをやるだけ。ただの儀式 や。形式的なもん。
先祖 代々、それをやったというんやったら、俺がやるのも、形だけの初夜 の共寝 や。
たぶん、そんな真似 事で、家の守護神 である神と、契 りを交 わしたということになるんやろう。
儀式 や。ただの儀式 。
儀式 やからと、俺は自分に言い聞かせていた。
今夜は、寝 るだけ。
ほどほどに、鳥さんに抜 いてもろた後やしな。それに亨 も瑞希 も、飴 食うて満腹 なってきてるらしい。
人間やったら飴玉 くらいで、腹 は膨 れへんけども、相手は式神 なんやし、霊水 でできた飴 やから、それで満たされる。
今晩 はお預 けでも、我慢 できるやろと、亨 に訊 くと、それでもぶうぶう言われた。
腹 は満ちても、胸 は切 ない。そういうことらしい。
そう言われると弱い。可愛 い奴 やと思うてしまう。
アキちゃん病気なんやから。お前らは腹 いっぱいでも、俺は違 うから。
基本 、漲 (みなぎ)ってもうてんのやから。亨 と昼エッチしたきりなんやから。したい言われたら、したいねんて。
アホか。一日一回すればええやろ、俺。ほんま変やから。
蛇 の毒がどんどん回ってきてる。元はそんな、毎日何度もしなつらいというような、無茶苦茶 な男やなかったんやで。
それはほんまにそうやで。自己弁護 やけども。
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