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25-14 アキヒコ
そう思うのは、昼間は昼間で、朧 様に美味 い美味 いと血を吸 われたからやし、夜は夜で、亨 はもちろんやけど、瑞希 も我慢 でけへんらしかったからや。
ぺろりと冷たい感触 のする舌 で、俺の首筋 を舐 めてから、亨 はざっくりと無遠慮 に、牙 を突 き立 ててきた。
ちくりで眠 れる言うてたくせに、それはがっつり本気で吸血 するつもりの、牙 の入れ方やった。
我慢 できずに、俺は呻 いた。
低く喘 ぐような声やったかもしれません。
我慢 できへんねんて、気持ちええねんから。なんか毒 がついてるんやで、きっと。亨 の牙 には。気持ちよくなるような麻薬 が出てる。
俺のにもあるんかもしれへん。だって亨 が気持ちええらしいから、俺に血を吸 われると。
甘 い陶酔 がある。
背 けた顔が、瑞希 のほうを向いてることは、一応 、意識 はしてた。
我慢 はした。堪 らんという顔をするのは。我慢 したつもり。
それとも、できてなかったか。
ぺろぺろ舐 めてる舌 が、首筋 に触 れるのが、つらい。自分も襲 いかかりたくなる。亨 を押 し倒 して、滅茶苦茶 やりたい。
畜生 。わざとやで。絶対 、亨 はわざとやってる。
人を幻惑 する術 が、こいつの得意技 なんや。エロくさく淫靡 に誘 って、死にかけ男でも勃 たせてみせるって、それがこいつの生 き甲斐 なんやないか。
亨 の手が、布団 の中で、俺の太腿 を撫 でていた。我慢 できるか、そんなもん。
「もう……もう、ええやろ、亨 。味見 程度 で……」
もう、つらいって、俺は亨 を押 しのけようとした。
それに、くすくす笑って、亨 は珍 しく諦 め良く、牙 を抜 き取 った。
もともと腹 も減 ってへん。今夜は余裕 があるらしい。
そらそうや。昼間に一度だけとはいえ、ちゃんと抱 き合 うたし、血も吸 うたし、そのうえ飴 まで喰 ろうてんのやで。それで腹 減 ってたら変やで。
それでもまだまだ吸 いたいみたいに、亨 は俺の首筋 の傷 が塞 がるまでの一瞬 に流れ出た血を、美味 そうにぺろりと舐 めとっていた。
「こうやって吸 うんやで、瑞希 ちゃん。牙 無いか。あるやろ、ワンワンやねんから。お前ももうちょっと練 れてたらなあ。吸 うてる間、アキちゃんを、気持ちようしてやれんのやけど?」
血の付いた唇 を舐 めとりながら、亨 はくすくす笑っていた。悪魔 みたいに。
血を吸 う悪魔 やで、こいつは。確 かにそうやわ。
今まで気がついてなかったけど、考えてみれば実に悪魔的 や。
ただそれが、俺にとっては辛抱 たまらん、愛 しい悪魔 やというだけで。
抱 き合 って吸血 している姿 を眺 め、瑞希 の呼吸 はひどく乱 れて見えた。
うちでは吸血 は、ゴハンやし。性行為 ではない。
飯 食うてるとこ見られても、恥 ずかしくないはず。
そやのに俺は恥 ずかしかった。
昼間に二人 がかりで吸 われた時も、実はけっこう恥 ずかしかった。
恥 ずかしいような快感 やったんや。
それを瑞希 に見られて、恥 ずかしかった。穴 があったら入りたい。
お前に偉 そうなこと言うたところで、俺もそうやで。外道 やねん。
蛇 で悪魔 の水地 亨 に、吸血 されて、堪 えきれずに喘 ぐ。そういう、ダメ男やねん。
お前のこと、罵 ったりしいひん。血を吸 うぐらいでは。
誰 でも彼 でも吸 うのはまずい。
確 かに亨 の言うとおりやわ。これって感染 するんや。
そうやな、吸血鬼 ってそういうもんやったよな。
血を吸 うと、その相手にも、血を吸 う属性 がうつる。
一回二回吸 うたぐらいで、あっというまに吸血鬼 って訳 ではないらしいけど、何らかの人でなしの傾向 は現 れる。
なんせ外道 に噛 まれるんやからな。少なくとも、その味を、忘 れられへんようにはなるやろ。
亨 みたいな奴 が来て、がぶっと噛 んでいったら。もう一度と、その相手を求めるようになる。この美しい白い顔の、虜 にされてしまう。
また瑞希 がハーレム作ってたらどないしよ。
それは自由やけども。そこからネズミ算式に吸血鬼 だらけになったりしたら、俺のせいなんや。我慢 させなあかん。
「作法 があんねん、瑞希 ちゃん。外道 として生きていくにも。人間様と仲良う、当 たり障 りなくやっていきたいんやったらな」
まだまだ俺に絡 みついたままの、どこか淫靡 な媚態 のままで、亨 は瑞希 を見やり、教えてやっていた。
「どうしても血が欲 しいてたまらんのやったら、アキちゃんのにしとき。こいつなら、吸 いすぎて死ぬってことはない。ダムみたいなもんや。今や、お前ひとりでは吸 い尽 くせへんぐらいの霊力 は持ってる。でも、普通 の人間から夢中 で吸 うたら、失血死 させてまうかもしれへんで。急にいっぱい血をなくすと、人間てショック死することもあるねん。それやのうても、外道 に血を吸 われるなんて、ショックやねんからな?」
「そんなんしたくないんや、俺は……」
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