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三都幻妖夜話(3)神戸編 25-29 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
25-29 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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25-29 アキヒコ
愛撫
(
あいぶ
)
に
潤
(
うる
)
んだ黒い目で、
水煙
(
すいえん
)
は俺を見つめていた。 その
瞳
(
ひとみ
)
のない黒い目を、
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
んでる俺の
姿
(
すがた
)
が、夜の
水鏡
(
みずかがみ
)
に映るような、ぼんやり暗い男のように見えていた。 これは
誰
(
だれ
)
やろう。ほんまに俺か。 まるで
飢
(
う
)
えてる
鬼
(
おに
)
みたいや。
水煙
(
すいえん
)
食いたい。
水煙
(
すいえん
)
食いたい。そう
吠
(
ほ
)
えて、のたうち回る
蛇
(
へび
)
みたい。 もともと俺は、人の子やなかったんやな。
血筋
(
ちすじ
)
の始めにいた
奴
(
やつ
)
は、人でなしやった。 その血が
薄
(
うす
)
まらんように、血の近い者どうしで血を
撚
(
よ
)
り
合
(
あ
)
わせ、何百年と生きてきた、
怨霊
(
おんりょう
)
を運ぶための
血筋
(
ちすじ
)
やったんや。 少なくとも、
秋津
(
あきつ
)
の
開祖
(
かいそ
)
であった男にとってはそうや。 もともと
蛇
(
へび
)
やったんや。
亨
(
とおる
)
のせいやない。 なんで
蛇
(
へび
)
なんや。 それは最初の男が、ほかならぬ、
水煙
(
すいえん
)
の子やったからや。そうに
違
(
ちが
)
いない。 月読(つくよみ)から落ちてきて、海神(わだつみ)に身を
任
(
まか
)
せたが、結局人の子に
惚
(
ほ
)
れて、その男は
刀鍛冶
(
かたなかじ
)
やった。
冥界
(
めいかい
)
の火に、
仕
(
つか
)
えている男やったんや。 その火に焼かれ、
水煙
(
すいえん
)
は
隕鉄
(
いんてつ
)
から
太刀
(
たち
)
に、
作
(
つく
)
り
替
(
か
)
えられた。 冷たい月と海に
連
(
つら
)
なる身の上でありながら、時には熱く
燃
(
も
)
える。
二股
(
ふたまた
)
かけてる。そういう
不実
(
ふじつ
)
な神で、
結局
(
けっきょく
)
今まで、
誰
(
だれ
)
のもんでもなかった。
誰
(
だれ
)
にも自分の愛を、
永遠
(
えいえん
)
には
独占
(
どくせん
)
させへんかった。 満ちては欠ける月のように。一時熱く
燃
(
も
)
えあがっても、やがては
痩
(
や
)
せゆく愛や。 それでもいい。
寄
(
よ
)
せては返す波のように。引いては満ちる
潮
(
しお
)
のように。
揺
(
ゆ
)
らめくような愛でも、満ちる
毎
(
ごと
)
にまた俺を、愛してくれれば、それでいいんや。 愛し合いたい。
水煙
(
すいえん
)
と。 お前の体を、俺に
寄越
(
よこ
)
せ。お前はもう、
充分
(
じゅうぶん
)
に生きたやろ。 お前の父も、二十一には死んだ。 親と同じだけ生きられれば、それで
充分
(
じゅうぶん
)
やろう。 お前にも
猶予
(
ゆうよ
)
は
与
(
あた
)
えた。人生を楽しむだけの時間は、くれてやったはずや。 もう、ええやろう。そろそろ、ぼんくらのふりはやめて、天地(あめつち)の力に満ちて、
自在
(
じざい
)
に通力(つうりき)を
操
(
あやつ
)
れる、神のごとき体を
寄越
(
よこ
)
せ。 お前は俺の作品なんや。
幾世代
(
いくせだい
)
を
経
(
へ
)
て
織
(
お
)
り
上
(
あ
)
げた、
血筋
(
ちすじ
)
の
末裔
(
まつえい
)
で、俺の第二の肉体として、予
言
(
よげん
)
された子やねん。 お前の運命はもう、とっくの昔に決まってた。 俺がもらう。
太刀
(
たち
)
も。この肉体も。 そしてまた、この島の、
鬼道
(
きどう
)
の王になろう。 この島だけやない。
東海
(
とうかい
)
の果ても。さらに遠い
西方
(
さいほう
)
の国々も。
凍
(
こお
)
るような海も。熱く
乾
(
かわ
)
いた
砂
(
すな
)
の海も。
全
(
すべ
)
て
支配
(
しはい
)
して、そして
永遠
(
えいえん
)
に生きるんや。俺の
愛
(
いと
)
しい
水煙
(
すいえん
)
と。 そうしたらきっと、こいつもとうとう
認
(
みと
)
めてくれるやろう。自分の相手に、俺より
他
(
ほか
)
にふさわしい男はいてへん。
伊勢
(
いせ
)
の
刀鍛冶
(
かたなかじ
)
やと。そんなもん、
屁
(
へ
)
でもない。たかが人間やないか。 あいつは
炉
(
ろ
)
に
燃
(
も
)
える
炎
(
ほのお
)
に
魅入
(
みい
)
られて、すでに打ち終えたお前には、もう見向きもせんような
薄情者
(
はくじょうもの
)
や。 神のごとき
太刀
(
たち
)
でも、打ち終えてしまえば
興味
(
きょうみ
)
がない。それを
振
(
ふ
)
るうのは
刀師
(
とじ
)
やない。
太刀
(
たち
)
を求める男どもに、いくらかの
金銀
(
きんぎん
)
と
引
(
ひ
)
き
替
(
か
)
えにして、お前を売ろうという男なんやで。 愛しているとお前が
惚
(
ほ
)
れても、その
瞳
(
ひとみ
)
から目を
逸
(
そ
)
らした。そんな
不甲斐
(
ふがい
)
ない男や。 そんな男の、どこがええんや。 俺のほうがいい。俺のほうが、お前を愛してる。 お前を幸せにしてやれる。 幸せに、してやりたいんや。
哀
(
かな
)
しそうに笑う目は、もうやめてくれ。にっこり笑ってみせてくれ。 幸せそうな顔で、俺を見てくれ。
愛
(
いと
)
しい、
頼
(
たの
)
もしい連れ合いを見る、俺に
恋
(
こい
)
をしてる目で。 ちょうどお前がこの、
血筋
(
ちすじ
)
の
裔
(
すえ
)
に
現
(
あらわ
)
れた、ぼんくらの
小僧
(
こぞう
)
を見るような、そんな目をして俺を見てくれ。 俺を見てくれ
水煙
(
すいえん
)
。 お前はもう、俺を見てない。俺を待ってはいない。 あろうことか、この
小僧
(
こぞう
)
に
惚
(
ほ
)
れている。 こいつは俺を
黄泉
(
よみ
)
がえらせるための、
永遠
(
えいえん
)
に
若
(
わか
)
い肉体を
与
(
あた
)
えるだけの、ただの
小僧
(
こぞう
)
や。お前はそれに、
懸想
(
けそう
)
(けそう)している。 なんでそんなことができるんや。
破廉恥
(
はれんち
)
な
淫売
(
いんばい
)
め。
誰
(
だれ
)
でもええのかお前は。 俺でなければ、
誰
(
だれ
)
でもええんや。 それとも俺の
番
(
ばん
)
は、もう終わったとでも言うんか。 死にたくない。お前をずっと、俺のものにしておきたい。
我
(
わ
)
がものとして、いつまでもお前と、
一心同体
(
いっしんどうたい
)
でいたい。 ただ俺は、お前のことが、好きやっただけやねん。
褒
(
ほ
)
めてもらいたかっただけ。
愛
(
いと
)
しい子や、ようやったと、お前に
認
(
みと
)
めてもらいたかっただけなのや。 そやのに、なんでや。お前はこんな
小僧
(
こぞう
)
が好きなんか。 俺よりも、こいつに身を
任
(
まか
)
せようというのか。 お前には、
恥
(
はじ
)
はないのか、
水煙
(
すいえん
)
。 俺を見てくれ。俺だけを、愛していてくれ。 俺に
抱
(
だ
)
かれて
悦
(
よろこ
)
べないというんやったら、
他
(
ほか
)
の
誰
(
だれ
)
ともその
悦
(
よろこ
)
びを、分かち合え無い体にしてやる。 お前のことを、
呪
(
のろ
)
ってやる。ずっと
永遠
(
えいえん
)
に、お前を愛してやるのと同じだけ、
呪
(
のろ
)
い
続
(
つづ
)
けてやるからな。 苦しめ、
水煙
(
すいえん
)
。お前を
想
(
おも
)
って、俺が苦しんだように。お前も
永遠
(
えいえん
)
に、苦しむがいい。
全霊
(
ぜんれい
)
をかけて、
呪
(
のろ
)
ってやる。この愛と
怨念
(
おんねん
)
を、
呪詛
(
じゅそ
)
にかえて。
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椎堂かおる
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