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25-31 アキヒコ

 何が起きんの。俺の体に。  くよくよ言うてる水煙(すいえん)に、俺は少々、恐怖(きょうふ)(おぼ)えた。  相手は神なのやしな、どんな(こわ)い目に()わされるか、それは覚悟(かくご)しといたほうがええか。  ここはイイ子で、指一本()れず、形式だけで初夜(しょや)を終えるべきか。  元々はそのつもりやったんやしな。  (のろ)いを()いて、怪我(けが)を治してやるために来たんやで。俺、それを(わす)れてる。  水煙(すいえん)の体にはまだ、俺が食い残した(きず)があった。まだまだ半分くらいやで。 「地球のやつらは、不思議(ふしぎ)なことをするねんなあ。なんで愛し合うのに、体を(つな)げなあかんのや? そんなの変やと思うんやけど……でも、気持ちのええもんらしいしなあ」  らしいしなあ、って……。お答えしにくい。  ていうか、とぼけんといてくれ。お前もいっぺん味見(あじみ)したやないか。  俺とキスして、それがどんな感じか、初体験(はつたいけん)してたやないか。  むちゃくちゃ(すご)いて言うてたやん。気持ちよかったんやないんか、あれは。  (とろ)けそうな可愛(かわい)い声出して(あえ)いでたやん。思い出すにつけムラムラするわ。  俺がとっさにそう思うと、水煙(すいえん)はさらに、じわりと白い顔になった。今度は心を読んでたらしい。  どこから読んでたんや……。それに俺は頭がくらくらした。一瞬(いっしゅん)でいろいろ考えすぎた。反省(はんせい)。 「ああいう()さなんか……ここも」  ここも、って。それはどこやねん。そんなん、俺の急所(きゅうしょ)に決まってるやないか!  いきなりすぎる! 何か前触(まえぶ)れとかないんか、水煙(すいえん)。  いきなり急所攻撃(こうげき)か! さすがは居合(いあ)いの達人(たつじん)たちと()()った太刀(たち)や! ()ける()もない! 「あ……っ」  俺は(うめ)いた。くらっと来た。ぎゅうっと(にぎ)られて、一瞬(いっしゅん)息止まるくらい()かった。  もともと欲情(よくじょう)してたんや。(かく)し切れへん。  知らん(やつ)とは(おそ)ろしいもんや。普通(ふつう)、多少の遠慮(えんりょ)があるやろ。  手を(にぎ)るのとは(わけ)(ちが)うんやから。なんや。その。感度(かんど)において。  良かったわ。水煙(すいえん)非力(ひりき)(のろ)いがかかってて。これがもし、普通(ふつう)の力か、神様級(かみさまきゅう)怪力(かいりき)で、力一杯(ちからいっぱい)(にぎ)られてたら、たとえ(ゆめ)やったとしても、アキちゃんショック死してたかもしれへんで。  そんな死にオチ(いや)すぎる。  しかしな、ご先祖(せんぞ)様とは()(がた)いもんや。  初代(しょだい)の男がかけた(のろ)いのせいで、水煙(すいえん)には大した握力(あくりょく)はない。  それに力一杯(ちからいっぱい)(にぎ)ったわけでもない。  ただ遠慮無(えんりょな)(さわ)っただけ。手を(にぎ)程度(ていど)。そやから(いた)いわけやない。(いた)くはない程度(ていど)。  それやし(きわ)めてヤバい。脳天(のうてん)ガツンて来る程度(ていど)。  しかも興味(きょうみ)でもあんのか、普通(ふつう)にさわさわされた。(けが)れないような、つるんとした黒い目で、じっと見つめて。  見るな。(ちょう)()ずかしい。 「あ……あかんて……水煙(すいえん)。何をするんや(きゅう)に……」  若干(じゃっかん)、息も()()えな俺なんやけど、勘弁(かんべん)してくれ。しょうがない。  (ゆめ)の中やしな、服着てんのやら、(はだか)なんやら、自分でもよう分からん感じやったけど、なんかこう、着衣(ちゃくい)の上からという感じではなかったな。  生々(なまなま)しかった。水煙(すいえん)の指の感触(かんしょく)が、かなりダイレクトやった。  ()(あせ)出てきた俺を(なが)めて、水煙(すいえん)は、気まずそうに言うた。 「()くないか。(とおる)が、地球では()しいとき、こうやって(さそ)うんやって、言うてたんやけど?」  そんなん、いつの()に聞いたんや。あいつはお前に、何をレクチャーしてたんや。 「道場(どうじょう)から帰るとき、車の中でそう言うてたで。口で言うたわけやないけど。でも、あいつもこうしてたやろ。気持ちええから、するんやろ?」  さらに、ぎゅうっとやられて、俺は(たま)らんかった。  若干(じゃっかん)(いた)い。(いた)いような気持ちいいような。  水煙(すいえん)に、こんなことされてるなんて、気持ちいいような。やったらあかんような。  手の感触(かんしょく)が、冷たくて、すごく(やわ)い。(ふる)えそう。 「あのな……(さわ)ったことないんか。もっと、そうっとやらなあかんで……敏感(びんかん)、なんやし」  俺がくよくよそう言うと、水煙(すいえん)はびっくりしたような、()れたような顔をして、指を(ゆる)めた。  ほんまに初めてやったらしい。手でも(にぎ)ってるようなつもりやったらしいで。  ほんまに知らんのや。びっくり。マグロやったらしいで、代々の初夜(しょや)新床(にいどこ)では。  それにしたって……ほんまに男か、水煙(すいえん)。わかりそうなもんやろ、自分も男なんやったら。  きっとこいつには、性別(せいべつ)がないんや。男でもないし、女でもない。  (てつ)やねんしな、考えてみれば。  武器(ぶき)やし、話す口調(くちょう)も男っぽいから、なんとなく男かなと、そう思えていただけで、実は地球の男の子の気持ちなんか、ちっとも分かってへんのや。  ひどすぎる、宇宙系(うちゅうけい)。  きっと初代(しょだい)の男も、ぜんぜん分かってもらえへんかったんや。何で()きたいか、水煙(すいえん)共感(きょうかん)()られてへんかった。  まさかと思うが、水煙(すいえん)処女(しょじょ)受胎(じゅたい)か。  いや、受胎(じゅたい)したわけやない、(めす)やないんやしな。けど、秋津(あきつ)当主(とうしゅ)を世に生み出した時、ほんまにその刀師(とじ)とセックスしたのか。  実はプラトニック・ラブやないのか。  そんな予感(よかん)がうっすらします。肉体関係がなかったんやないかと。

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