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25-32 アキヒコ

 それは、俺の子やないと思われるわけやで。だって、することしてへんのに、子供(こども)だけできちゃったって、それはあまりに、当時の地球の常識(じょうしき)を外れてる。  今ならあるかもしれへんで、知らんうちに体外受精(じゅせい)とかな。気つけなあかん。もはやSFが現実(げんじつ)になっている時代なんやから。  そやけど古代やしな、そんなこと、ピンと()いひんかったやろ。  つまり最初の秋津(あきつ)暁彦(あきひこ)君は、SF小説ふうに言うと、宇宙人(うちゅうじん)と地球人を両親として、体外受精(じゅせい)によって生まれた子やったんや。  月がそれに命を(あた)え、海が代理母(だいりはは)。そんな非常識(ひじょうしき)すぎる家系(かけい)やったんや、うちは。  そんなもんやから、水煙(すいえん)はびっくりしたんやろう。最初の暁彦(あきひこ)君に、俺とやろうと求められ、何をすんのか分からんかったんかもしれへん。  何でそんなことせなあかんのかも、実を言うたら今イチ分かってなかったんかもしれへんわ。きっと戸惑(とまど)って、パニくっていた。  好きやとするねん、地球人は。性交渉(せいこうしょう)を。  昔風(むかしふう)に言うと、(ちぎ)るんや。共寝(ともね)する。セックスするんや。  それは通常(つうじょう)、地球人の恋愛(れんあい)基本(きほん)やねん。  もちろん手も()れぬ愛もあるやろけどな、大体の場合において、恋愛(れんあい)感情(かんじょう)()()めていくと、そこへ行き着く。  性欲(せいよく)連動(れんどう)してんのや、地球人の恋愛(れんあい)は。  俺のも連動(れんどう)してる。ものすご連動(れんどう)してる。  そやから(さわ)らんといて。もうええやん。  なんでいつまでも(さわ)ってんのや。(めずら)しいんか、水煙(すいえん)。  UFOに(さら)われて身体検査(しんたいけんさ)されてる地球人の男か俺は。 「アキちゃん、やりかた、教えて……」  上目遣(うわめづか)いに、そんなお強請(ねだ)りされて、俺がもしまだ中学生ぐらいやったら、鼻血()いてる。  よかった大学生で。あかんあかん無理やからって、小さく首()るだけで(こら)えた。  水煙(すいえん)はそれに、(きわ)めて残念そうな顔はしたけど、(さわ)るのやめてはくれへんかった。 「なんでこんなふうになるの?」 「そんなこと俺に()くな。近所の中学で保健(ほけん)体育の授業(じゅぎょう)でも受けてきてくれ」  俺は泣いて(たの)んだ。水地(みずち)(とおる)とは(ぎゃく)の意味でものすごい。  何でも知ってる(すご)さには、(とおる)(おぼろ)(おぼろ)様で、なんとなく耐性(たいせい)がついていた恥知(はじし)らずの俺も、水煙(すいえん)のこの、なんも知らん(すご)さには、かなりお手上(てあ)げやった。 「(さわ)ると気持ちええのか?」 「ほんまに知らんで()いてんのやろな。俺をからかってんのか!?」  いろいろ検分(けんぶん)しようという手つきの水煙(すいえん)の指を、俺は(あわ)てて退()けさせた。  ほんま勘弁(かんべん)してくれ。指や手が、異様(いよう)(やわ)らかいねんから。  何か別のもんに(つつ)まれてるような感触(かんしょく)がする。我慢(がまん)できへんようになる。ものすごやりたい。 「(みな)、はあはあ苦しんで、しんどそうやったから、もしや(いた)いのかと思うてた」  それは(あえ)いでんのや! マジボケも大概(たいがい)にしてくれ。 「お前にとっても、()えものか? (まじ)わって(むつ)()うのは。俺には、わからへん……俺もしてみたい。(とおる)みたいに。お前ので()いてもらって、(あえ)ぎたい。(おぼ)れたい、お前との和合(わごう)に。(いた)いやろうか、お前が好きでも。すごく好きでも、(いた)いもんは、(いた)いやろうか……俺はいつも、(いた)いんや。そういう(のろ)いが、かかってるんや。でも、(いた)くてもええから、お前としたい。愛し合いたい。(むさぼ)られたいんや、お前に……」  照れくさそうに、水煙(すいえん)(ほお)()めて言うもんやから、俺はくらくらした。  やりたい。  手を退(しりぞ)けさせた後の、放置(ほうち)されてる感覚も、()ずかしいぐらい、もどかしい。  ムラムラしてる。我慢(がまん)している自分を感じる。  でも、水煙(すいえん)は、(いた)いらしい。地球人と(ちぎ)るのが。  秋津(あきつ)の代々の当主(とうしゅ)は、儀式(ぎしき)というか、単に水煙(すいえん)としたいから、ご神刀(しんとう)をモノにした男の権利(けんり)として、水煙(すいえん)共寝(ともね)していたわけやけど、それをやっても、てめえは()えかもしれへんけども、水煙(すいえん)(いた)い。それやし、初夜(しょや)の一回だけにしとけよという(なら)わしなんや。  あとは我慢(がまん)。やりたきゃ(ほか)の式(しき)とやれと、そういうルールになっていったわけやな。  水煙(すいえん)にとっての愉悦(ゆえつ)は長年、剣士(けんし)太刀(たち)との一体感の中にだけあるもんで、布団(ふとん)の中には無いモンやった。  ことさらそれを求めもしいひんかった。  必要な時だけ目をさまし、あとは(くら)(ねむ)っていた。  目覚(めざ)めていても、ろくなことない。自分の()()いが、(ほか)のと(むつ)()うのを見るのは()(がた)かったし、そんなもんをあえて見せる当主(とうしゅ)もいてへんかった。  漠然(ばくぜん)と、それは(けが)らわしい行為(こうい)やと、水煙(すいえん)は思うていたらしい。  ()()うて(あえ)ぐなんて破廉恥(はれんち)や。アホのすること。何の意味もない。  自分はそんなこと、しとうないと、ずっとそう、自分に言い聞かせてきた。  そうして我慢(がまん)してきたんや。()()うても、(あま)()えへん、()()(せつ)なさを。

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