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25-34 アキヒコ
「でも、お前とはしたい。なんでやろうな……お前とキスして、気持ちよかった。天にも昇 る心地 やで」
恥 ずかしそうに、俺に囁 き、水煙 は俺の手の指先だけを握 り、じっと求める目をした。抱 いてくれって、その目が言うてた。
お願いや、アキちゃん。俺をもう一度、天に昇 らせて。
胸 に頬 ずりしてくる水煙 の声が、くぐもって聞こえた。声ではない、胸 の内に響 くような声で。
「これは夢 やろう、アキちゃん。一晩 だけや。それで一生、堪 えるしな。たとえそれが永遠 でもいい。いっぺんだけ、夢 見せて」
囁 く声でそう言うて、俺を見上げる水煙 は、答えを待ってへんかった。心も読もうとしていない。
これは儀式 や。それに夢 やし。
水煙 は俺に頼 んでる訳 やない。
水煙 と一夜 、共寝 するのは、当主 になった男の権利 やったけど、逆 に見れば、それは水煙 の権利 でもあった。
一度だけ契 る。
そして、それは、夢 や。
現実 の位相 から眺 めて、これは現実 やない。夢 の中の出来事 でしかない。
「アキちゃん、お前が好きや。俺を抱 いて、お前の形をつけてくれ」
甘 くのしかかってきて、水煙 は俺をやんわり砂 に押 し倒 し、腰 のあたりに跨 ってきた。
ほとんど重さを感じひん。もともと軽 いけど、ここはほんまに夢 の中や。
水煙 の、ほの青い姿 を見上げると、それはほんまに夢 の中に現 れた、謎 めく神か妖精 か、そんなもんに見えた。
「ちゃんと、最後までするって、約束 してくれるか。俺に恥 をかかせんといて」
俺の胸 に両手 をついて、水煙 はまた唇 を寄 せてきた。
ミルクみたいな息が匂 った。
跨 った内腿 の、柔 らかな肌 を、愛撫 するように押 し当 てられて、俺は呻 いた。
信じられへん。水煙 が、こんなことするなんて。
亨 やったら、普通 にするけど、水煙 がやると、なんか途方 もない。
これは実は、俺の夢 なんやないか。ただの淫夢 で、俺の煩悩 の顕 れなんやないかと、気が咎 めてしょうがない。
「アキちゃん……嫌 かもしれへんけど、我慢 してくれ。一度だけや。堪忍 して……」
水煙 は、切なそうに頼 み、俺とまた、唇 を合わせた。
早 うせんと、俺が逃 げると思うてるらしかった。静かな焦 りの気配をさせて、前戯 もなしで、入れる気らしい。
だって前戯 なんかしてもろたこといなんやもんな。皆 、いきなり突 っ込 む男ばっかりやった。
最低や、地球の男はみんな。というか、うちの先祖 はみんな。
初代 からして強姦 男なんやしな。絶対 そうやで、そんな話や。
逃 げる水煙 を呪力 で縛 って、全身萎 え萎 えにさせたところで、いきなり突 っ込 む野郎 やったんや。
焦 ってたんやろ。拒 まれるから。
そら拒 む。意味わからへんのやし。痛 いんやから。
そんな酷 い目に遭 わされて、よくも百年千年と秋津 に仕 えたもんやで、水煙 は。
他 にも気持ちええようなやり方があるって知らんかったからやな。そういうもんやと思うてたんやろ。
皆 、俺のことは愛していない。気持ち悪いんやと、水煙 は誤解 していた。
そやから、代々の男も皆 、さっさと済 ませようとする。他 のとやってるように、長々と睦 み合 うたりはせず、なるべく早く、早く終えようと、焦 っている。嫌 ならしなくていいと、止めはするけど、でもなんでか皆 する。
きっと嫌々 、それでも神さんやから、しょうがないと思って抱 いてんのやと、水煙 は思うてたらしい。俺もそうなんやろうと。
それでもしたいと、水煙 は思うてたらしい。代々の当主にも、そう思うてた。惚 れてたんやろう。
義務 やからでもいい。仕方 なしにでも、一度だけでもいい、抱 いて欲 しいと。
ただ:太刀(:たち)と剣士 の間柄 。それでも一心同体 となって戦うと、熱く燃 える。そんな日には、それきり蔵 に仕舞 われるのが、切 ないような気がしてた。
もっと一緒 に熱く燃 えたい。
でも、どうしたらええか、わからへんかったんやろう。
誰 もそれを水煙 に、与 えへんかった。ただ苦痛 のある、一夜限 りの交合 だけしか。
それでもないよりマシやったんや。水煙 にとっては。
それが実は、本音 のところやった。口には出さへん、胸 に秘 めてる、そういう想 いの、一夜 限 りの結実 や。
この時も水煙 は、いきなり俺のを呑 んだ。
跨 ってる華奢 な両脚 の間の、何もない滑 らかな肌 に、残念なくらい激 しく興奮 している俺のを押 し当 て、ぎりぎり呑 んだんや。
びっくりした。入り口なんかないんやで。それ用の穴 はなし。
それでも水煙 の体はふにゃっとしてて柔 らかい。それに、ちょうどそこらへんに、特にヤワな部分があるらしい。
名前の由来 にもなっている、白い靄 をかすかに発して、水煙 は苦しそうやった。うんうん呻 いていた。
気持ちええんやない。痛 いんや。
俺に跨 り、身を揉 んで、歯を食いしばる様子は、どう見ても苦悶 の顔やった。
喘 いでへん。耐 えてるだけや。
「やめよう、痛 いんやったら……」
俺はドン引きしてた。だって苦手なんやもん。こういうの。萎 えるんやもん、正直言って。
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